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三国志・劉曄伝ー曹操の影として生き切った漢ー  作者: 涼風隼人


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第44回 劉曄、潼関の戦い(四)

―明朝―

 本陣を大きく後ろに下げた曹操だが、この時は、陣頭にいた。そして、馬に乗り、一人反乱軍の陣営に向かう。


 その真ん中ほどで馬を止め、曹操は馬上にて大声で叫ぶ。

 「韓遂!お前がこの軍の総大将であろう!どうだ、総大将同士、二人で話をしないか?是非、ここまで来てくれ!」


 韓遂は兵から、曹操が単騎で出てきて、韓遂と二人で話をしたい、と言っていることを聞いた。韓遂はひとまず、陣頭に向かう。遠目ではあるが、確かに曹操であることは分かった。


 馬超が言う。

 「韓遂殿、行く必要はありませんぞ。曹操の事、何某かの計略があるに決まっています。」


 韓遂が答える。

 「しかし、あれは間違いなく曹操。敵の総大将が単身出てきたところ、こちらが出ていかなければ、兵の士気に影響するであろう。心配するな、すぐに戻る。」


 韓遂も曹操同様、単騎で向かった。韓遂が到着すると、曹操が言う。

 「馬上で話すのも、味気ない。ここは、馬を降りようではないか。」


 曹操がまず下馬した。それを見て、韓遂も馬から降りた。


 曹操が言う。

 「韓遂よ、呼び立てて済まない。こうやって話すのも、若き頃の洛陽以来か・・・。」


 「そうだな。お前は今や漢の丞相という立場。そして、お前から見れば、我は逆賊の親玉、といったところか・・・。」


 「韓遂、そう卑下するな。お前たち西方の者は、我々を信じないが、今回の遠征の目的は、鍾繇から知らせた通り、漢中の張魯、益州の劉璋の討伐だ。あいつらは、都から遠いのをいいことに、独立国家の様な動きをしている。それを、容認するわけにはいかん。」


 「お前たちから見れば、私や馬超、関中の軍閥も同じであろう。」


 「それは、違う。その証拠に、もし、ここで本当に引いてくれるのであれば、まずは当然だが、所領を安堵する。そして、それぞれの格に合わせた官職も正式に朝廷から任命するつもりだ。例えば韓遂、征西将軍などどうだ?漢に害する異民族を討ち滅ぼし、その所領は切り取り自由、己のものとして構わん。」


 「俺が、征西将軍・・・。」


 「ああ。他に希望があれば聞くこともできようというもの。その私の心の内をしたためた書状を持参した。馬超以下、軍閥の長の前で是非、確認してみてくれ。この書状を見れば、お前たちの考えも変わるであろうと、私は期待している。」


 曹操は、韓遂の肩を優しく抱くような感じで、親しみ気に話をした。韓遂が答える。

 「曹操、お前の気持ちは分かった。この話、受けるかどうかは、持ち帰って軍議で決する。それまで、しばし、休戦ということでいいか?」


 「ああ、問題ない。まずは、持ち帰ってくれ。」


 こうして、曹操と韓遂は各々自陣へと戻っていた。


 曹操が賈詡に聞く。

 「どうだ、私の演技は?」


 「はい、こちらから見ても韓遂と親しげな様子が伺えました。そして、韓遂自体は書状の中身を悪くない、と認識されたと思います。」


 「そうだな。全員の前で開けてみるように、言付けておいたぞ。」


 「さすがでございます。こちらはしばらく、待つことと致しましょう。」


 一方、韓遂の陣営では、馬超をはじめ主だった者が、韓遂を心配して見守っていた。馬超が言う。

 「韓遂殿、何やら書状の様な物を受け取っているように見えたが・・・。」


 「ああ、これだ。」


 韓遂は懐から取り出した。そして馬超に言う。

 「曹操が言うには、この書状に今の曹操の考えが全て記されているようだ。馬超、すまんが軍閥の長全員を俺の陣営に連れてきてくれ。その時、この書面を開封する。」


 「わかりました。急いで、招集致します。」


―二刻後―

 馬超は、軍閥の長全員を集めて、韓遂の陣営に向かった。


 馬超が言う。

 「韓遂殿、お待たせ致しました。ここに全員揃いましたので、先ほどの書面の確認、お願いします。」


 「わかった。曹操が言うには、我々全員にふさわしい官職と所領の安堵を約した書状だと言っていた。さあ、開けるぞ。」


 全員の目が、書状に注目する。


 すると、その書状は、何故か、所々が上塗りして消されている状態であった。韓遂が言う。

 「何だ、これは?曹操の奴、まさか下書きを間違えてこちらに届けたのか?」


 馬超が言う。

 「曹操や、その参謀陣にそんな間抜けはおりますまい。私にお見せください。」


 馬超は韓遂から書状を預かった。

 まずは、韓遂であるが、官位は征西将軍であり、所領の安堵に加えて、西方の領土は切り取り自由、との記載がある。


 馬超に関する記載はなく、ここの軍閥の長のほんの一部の名前が記載され、官位は、県令や県長程度であった。


 上塗りして消された部分を裏から見たりすると、わずかに「馬超を殺した者は」と言ったような記載がある様に見える。その下には「司隷校尉」と書かれているようにも見えた。


 馬超が言う。

 「韓遂殿。この上塗りは、あなたがされたのですか?」


 「何を言う!曹操が全員の前で開けよ、と言ったので、俺も今初めて、その中身を確認した。」


 「そうですか・・・。しかし、正直、信じられません。この書面、我々の方で持ち帰り、吟味したいのですが、よろしいでしょうか?」


 「ああ、それで気が済むならそうしてくれ。」


 「申し訳ないが、韓遂殿はここを動かないでください。」


 馬超はそう言うと、自分の護衛兵を韓遂の幕営の外に残し、自分の陣営へと全員を誘った。


 馬超が言う。

 「まず、私の意見としては、韓遂殿は明らかに我々を裏切り、自分だけ高い官位と所領の安堵を約束されたのではないかと考えている。」


 頭領の一人が言う。

 「俺の名前を載っているのが見えたが、官位は県長だ。今の方が全くもってましだ。」


 「俺もだ。名前は載っているが、同じく県長。こんな官位、こっちから願い下げだ。」


 軍閥の中でも大きな勢力を持つ楊秋が言う。

 「私も県令とは・・・。舐められたものだ。」


 「俺の名前は消されている・・・。消されている奴らは、殺せ、という曹操の密命なんじゃないのか?」

 馬超が言う。


 「確かに、俺の名前も消されている・・・。曹操にとって最も邪魔な存在は俺だろうからな・・・。」


 馬超は更に続ける。

 「皆の衆、これは明らかに、韓遂殿、いや、韓遂の裏切りであるとみるがどうであろう。」


 軍閥の長たちは、全員、賛同の意を示した。


 馬超が言う。

 「私は、これから韓遂の所に向かう。そして、詫びを入れて来る。」


 「なんで詫びるのだ?」


 「最後まで聞いてくれ。そして、和解の宴会を開くのでこちらに来てくれと誘う。」


 「なるほど。そこで、捕らえるわけだな。」


 「ああ。裏切り者に背中を預けて戦うなど、不可能だからな。皆の衆、よろしく頼む。」


 こうして、馬超は一人で韓遂の所に向かった。


 そして頭を下げ、二刻後に和解のための宴を自分の陣営で行うので是非来てほしい、と誘った。


 疑いが晴れたと喜んだ韓遂は、言われるがまま、馬超の陣営へと向かった。


 宴会は和やかにすすんだ。


 そして、韓遂が厠に立とうとしたとき、馬超の手が上がり、

 「韓遂を捕らえよ!」と号令をした。


 韓遂はすぐさま、捕らわれの身になった。全身を縄できつく縛られ、身動きは出来ない。馬超に言う。

 「馬超、謀ったな!あの書状は曹操の謀略だ。何故、わからぬ!曹操が恐れているのは私とお前の連携なのだぞ!そんなこともわからぬか!」


 「黙れ!自分の保身のみ計りおって!明日から、この連合軍はこの馬超が指揮を執る!皆、異論はないか?」


 「おおぉ!」

 軍閥の長たちは、鬨の声を上げた。


 その声は、曹操の陣営まで聞こえてきた。


 曹操が賈詡に言う。

 「賈詡よ。偽書疑心の計、見事にはまったようだな。」


 「そうですね。あの様子ですと、韓遂は少なくとも指揮権は失ったでしょう。馬超一人であれば、この前の様な展開にはなりません。必ずや、我が軍の誇る先鋒陣が道を切り啓くでありましょう。」


 「ああ。明日が楽しみだな。劉曄よ、一つ覚えておけ。」


 「はい。」


 「人間の心はもろく、簡単に崩れる。そして、いい話より悪い話の方を信じるのだ。こういった人間の思考の方向性、これがわからねば、賈詡の様な策謀は立てられぬぞ。」


 「わかりました。心しておきます。」


 こうして、潼関の戦いも、間もなく終焉を迎えるのである。

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