第43回 潼関の戦い(三)
曹操陣営で軍議が開かれた。
曹操が言う。
「昨日の戦いは、両軍が同時に引いたことで引き分けと見ることが出来るが、私の考えでは、完敗だったと言える。その理由、何か意見がある者はいるか?」
夏侯淵が一歩前に出て、両膝を地面につけ、頭を下げて言う。
「昨日の負けは、先鋒を預かるこの夏侯淵が馬超に一瞬にして蹂躙されたことによります。そのせいで、丞相のことまで危険に晒してしまいました。どうぞ、罰をお願いします。」
「夏侯淵よ。昨日の馬超の凄まじさは、我々の想像のはるか上をいっていた。もし、お前を罰するのであれば、背中を見せて退却したこの曹操が死罪になろう。先鋒は、引き続き夏侯淵、お前に任せる。徐晃、張郃、しっかりと補佐せよ。」
徐晃と張郃は、拝礼をした。
夏侯淵は瞳からあふれ出す涙で、顔を上げることが出来なかった。この悔しさを忘れてはならぬ、と心に誓い、ゆっくりと立ち上がった。
曹操が続ける。
「昨日で分かったことは、このまま正面からぶつかっている以上は、常に我々は馬超の脅威にさらされることになる。あの馬超と、個人的に戦えるとしたら、許褚しかおるまい。しかし、許褚でさえ、必ず勝てると言い切れる相手ではない。ここは、何か策を用いなければと考えるが、賈詡、妙案はないか。」
「反乱軍の強さの所以は、総大将である韓遂の存在です。韓遂の命令であるから、歳は若くとも馬超を副将として、軍閥の者たち皆がその指示に忠実に従って戦っています。よって、韓遂と馬超の中を割くことが出来れば、反乱軍の結束を瓦解させることが出来ると思います。」
「なるほど。具体的には、どうするのだ?」
賈詡はここで、どういう策を考えているかを、全員に説明した。その説明を聞き終わり、曹操が言う。
「試す価値はありそうだ。劉曄はどう考える?」
「賈詡様の計がはまれば、こちらの勝利が見えてくると思います。是非、試した方がよろしいかと思います。」
「わかった。それでは明朝、決行する。」
全員が拝礼した。劉曄はこの帷幕を出てしまえば、賈詡と話がすることが出来ないので、すぐに質問をした。
「賈詡様。この様な計、どの様に思いついたのですか?」
「いつ思いついたかと言えば・・・。もう、忘れてしまうほど前の話になりますな。軍師たるもの、常に色々な状況を考えて、使うかどうかわからぬ策も、考えて自分の頭の中に入れておくべきです。忘れてしまうのであれば、書き留めて、自分なりの兵書の様なものを作るのもよろしいかと。」
「何もない時から、あらゆる状況を策定して、それを自分の引き出しに入れておく・・・。」
「そういうことですな。劉曄殿も、そういった働きが期待されての、今回の帯同ですぞ。」
「はい。ご指導ありがとうございます。」
曹操が二人の会話を聞いて言う。
「お前たちを見ていると、まるで師弟の関係だな。劉曄、我が陣営においても荀彧と賈詡、この二人に薫陶を受けたのはお前しかおらん。これからの時代、ますます若い力が必要になる。この戦、常に私と賈詡の側で学ぶがよい。」
「ありがたきお言葉。この劉曄、精進致します。」
こうして、軍議は散会した。
そして翌日、賈詡の策が曹操自らにより、実行をされるのである。




