第40回 劉曄、西方へ
許都での軍議が終わり、鍾繇は急ぎ長安に戻った。
関中や涼州が、大きく乱れることなく、それなりに治まっていたのは鍾繇の政治力、調整力が優れていたからである。
普通であれば、乱れが予測される地域を支配するのであれば、武に優れた者を登用すると考えるだろうが、曹操は鍾繇の政治力、調整力を非常に高く評価し、鍾繇はその期待に応え続けたのである。
その鍾繇から、韓遂、馬超、関中の軍閥全てにこの様な書状を出した。
「漢の丞相である曹操は、事実上の独立国家を形成している漢中の張魯、益州の劉璋と言った逆賊を討伐するため、この度、大規模な征西を行うことになった。諸侯におかれては、その際の行軍をお認め頂くよう、お願い申し上げる。」
この書状を見た者たちは、「道を貸すだけならいいか」とはならず、「本当の標的は我々なのでないか」と疑心暗鬼に陥った。その相談を受けたのが韓遂である。
韓遂は、関中、涼州において、その存在は一番重き者といえる。韓遂は確認の書状を鍾繇に送った。
「先日の触れであるが、そのまま鵜呑みにすることは難しい。我々は鍾繇殿を信頼してここまでやってきたが、曹操を信じることは出来ない。もし、今回の征西を強行するということであれば、我々もあなたとの関係を考えざるを得ない。」
鍾繇はこの書状を受け取り、こちらの軍が動けばすぐに韓遂たちが反乱に立ち上がることを、曹操に報告した。
鄴では既に、軍の編成を始めており、一〇万規模の大軍となっていた。曹操が賈詡に聞く。
「賈詡よ、韓遂たちの総兵力はどれくらいと見る?」
「おそらく、こちらと同規模となりましょう。」
「布陣する場所は?」
「これはもう、潼関しかございません。潼関こそが、我々が西方を制する上での最重要拠点となります。」
「なるほど。潼関は西方への玄関口であるからな。」
「はい。前にも申しました通り、西方の兵は屈強でございます。こちらの精鋭をもってしても、一対一の戦いであれば負ける可能性があります。そのあたりの駆け引きが非常に重要となります。」
「それほどの者か、西方の兵の実力は。」
「はい。夏侯淵殿の剛勇、そして張郃殿、徐晃殿の冷静沈着な用兵に期待した布陣にするべきだと思います。」
「確かにその三人は剛の者。夏侯淵は無茶をするときがあるが、そこを張郃と徐晃でまかなうというわけか。」
「はい。相手で警戒すべきは、総大将になるのであろう韓遂とその補佐に就く馬超。特に、馬超の剛勇は天下に鳴り響いており、決して油断はできません。」
「なるほど。劉曄、お前の考えは?」
「はい。もし、西方の者たちが一枚岩として結束を固めてこちらに臨んできた場合、相当の脅威と言えますので、速戦速攻だけではなく、ときには待ち、時間をかけることで相手の連携が崩れるのを待つことも必要かと。更に、何かしらの策を仕掛けて、積極的に連携を崩す手を考える必要があると思います。」
「その策は、今の時点で何かあるのか?」
「現時点では、何とも言えません。実際の相手を見て、状況を踏まえたうえで、考えたいと思っております。」
「わかった。この戦における作戦に関しては、賈詡と劉曄、お前たち二人に任せるつもりだ。気づいたこと、言いたいことがあったら、遠慮せずに言え、わかったな。」
二人は拝礼して退出した。
そして、ここからは賈詡の予測通りに動く。
鄴より曹操軍一〇万が出立したと聞き、西涼の韓遂、馬超と、関中の軍閥が一斉に蜂起し、潼関に陣を構えた。総兵力は、こちらも一〇万であった。
劉曄にとっては、初めて大軍と大軍のぶつかり合いに帯同をすることになった。悠然と構える賈詡に対して、日に日に緊張感をます劉曄。
潼関での激突が、間もなく始まろうとしていた。




