第38回 劉曄、いざ鄴へ
陳蘭と梅成による反乱の戦後処理も終わり、劉曄が鄴へ向けて旅立つ日となった。
張遼は劉曄のために数名の護衛の兵を付け、その者たちに陳蕃と梅成の首を持たせた。張遼が言う。
「劉曄殿。今後は丞相のお側で働くことになるのであろう。私は、まだ内々の話ではあるが、恐らく合肥の守りを任されることになると思う。今後、中々ご一緒する機会は無いと思うが、もしその時が来たら、またよろしく頼みたい。」
「張遼将軍、温かきお言葉、ありがとうございます。合肥は、我らにとって南方における最重要拠点と言えるでしょう。孫権もそう簡単には諦めないでしょうが、将軍であれば、問題はないでしょう。」
「そうか、やはり劉曄殿も孫権は合肥を諦めないと読んでいるか。私も同じだ。丞相が安心して西方に集中できるように、私としても尽力しようと思っている。」
「それでは、短い間でしたがお世話になりました。またお会いできることを楽しみにしております。」
「ああ、達者でな。」
こうして、劉曄は鄴を目指して旅立ったのである。
今回の戦いにおいて、劉曄の智謀が冴えわたる様な活躍をした場面は皆無であったが、張遼はそんな劉曄に感謝の言葉をくれた。
軍師は、何も策を弄することばかりが仕事ではなく、情勢の分析やその見通しをはっきりと将軍に伝えることで、将軍の後押しをすることも仕事の一つであるということが、今回の実戦を通して具体的に理解できた。
数年間、荀彧と共に許都において働かせてもらったこと、そして筆頭格の将軍である張遼と共に、実戦の場に立てたこと、これは全て曹操の思し召しである、と感じた。
これほどのかけがえのない機会と時間を与えてくれたことに、劉曄は心から感謝し、その恩を返さねばならない、と強く心に誓ったのである。
―二〇日後―
劉曄は、鄴にたどり着いた。
鄴は、さすが名家である袁家が本拠地として定め、曹操もすぐに軍事拠点として定めただけのことはあり、許都とはまた違う、大都市の雰囲気を醸し出していた。
劉曄は早速、曹操に報告に行った。
曹操はすぐに劉曄に会い、そして言う。
「劉曄よ、初めての実戦の場はどうであった?」
「はい。私如きの知略は何も役に立たず、張遼将軍の檄がこちらに勝利を呼び込んだものと思います。」
「そうか。しかし、張遼は早馬で私宛に文を届けてきた。そこには、劉曄の言葉で自分も兵も策を弄せず、真っすぐ進むしか道は無い、と覚悟が出来たと書いてある。お前の情勢分析がしっかりできていたのであろう。」
「張遼将軍がわざわざ丞相宛に文を・・・。ありがたいことでございます。」
「初めての実戦、廬江からの長旅で疲れているであろう。今日はしっかりと休むがよいぞ。そして明朝、軍議を開く。」
「いよいよ、西方、と言うことでございますか?」
「そうだ。この戦い、劉曄、お前も連れて行く。長い戦いになるかもしれん、覚悟しておけよ。」
「ありがとうございます。それでは、失礼致します。」
劉曄は拝礼して退出した。
「いよいよ、西方か・・・。」
劉曄は一人呟いた。しかも、曹操から直接帯同を命じられたことに、喜びと、下手なことは出来ぬ、という淡い恐怖が劉曄の心を包み込んだ。
こうして、劉曄は軍師としての大きな一歩を踏み出すことになるのである。




