第36回 劉曄、梅成の偽降を見抜く
廬江の山々は、劉曄にとっては思い出深い風景である。
曹操に、初めて直に献策をし、勝利に導くことが出来た。
今回、梅成と陳蘭は氐族を巻き込んでの反乱であり、それぞれ別の砦に籠っていた。
山々の険しさは相変わらずで、すんなりと侵攻をするのは難しく、曹操軍が得意とする騎兵も使うことは出来ない。
砦の場所からしても、梅成の砦は山の南側、陳蘭の砦は北側であり、二軍が合流するのではなく、二面作戦を展開するのは曹操の指示でもあった。
張遼が劉曄に聞く。
「劉曄殿。我らが得意とする騎馬が使えないとなると、この急で狭い山道を延々と登らざるを得ない。何かいい策はないであろうか?」
「あの砦に至るまでの道のりには、恐らく罠などの仕掛けも施されていると思います。ただ、それを回避する策はございません。慎重に進む、それしかないと思います。」
「・・・うむ。あそこにたどり着くまでの間も、ある程度の犠牲は覚悟しなければいけないということか・・・。」
「恐らくはそうなるかと思います。以前、丞相は山に籠る相手を引き出すために、偽の書状を送りつけて平地に下りてきたところを一網打尽にしましたが、この手の策には乗ってこないと思います。」
「何故、その様に思うのだ?」
「恐らく当時の残党などが、今回の反乱にも加わっている可能性が高いと思います。そうすれば、以前使った手は既に知られていると考えるのが妥当だと思います。」
「そういうことか・・・。では、地道に進み、敵を倒す、ということしか出来ぬ、ということだな。」
「はい。残念ながら、策を弄して云々という状況ではありません。」
張遼と劉曄が話している最中、于禁の陣営から報告の使者が来て、張遼に伝える。
「張遼将軍。于禁将軍の敵でありました梅成は、于禁将軍に恐れをなし、降伏を致しました。今後反乱など起こさないということを梅成自ら誓ったことから、于禁様はお許しとなり、もとの任務に戻る、とのことです。以上、ご報告です。」
こう伝えると、使者は立ち去った。劉曄が言う。
「これは、非常にまずい状況となりました。」
「まずいとは、何がだ?」
「梅成は恐らく、偽降の計を用いたものと思います。そして、陳蘭の方に合流して、我々と相対するものと思います。張遼将軍の権限で、于禁将軍を呼び戻すことは難しいでしょうか。」
「そうだな。我々は別個に曹操様より軍令を受けた。ここで、帰還する于禁軍を止める権利は私には無い。」
「やはりそうなりますか。しかし、我々が出来ることはただ一つ。山頂を目指して進むだけです。大軍の優位性を活かせる地形ではありませんので、準備が整い次第、出発するのがいいと思います。」
「劉曄殿はどうする、この本陣に残るか?」
「曹操様より、張遼将軍の軍師をと任じられておりますので、私は張遼将軍が進む以上、ご一緒させて頂きます。」
「しかし、こういっては何だが、普通の戦場よりも、より危険度が高いのが山岳での戦い。我らは血のにじむような実戦、訓練を積み重ねて今がある。かなり過酷な道のりとなるが、本当に大丈夫か?」
「はい。遅れをとったその時は、お見捨ていただいて結構でございます。」
張遼は劉曄が許都で戦場を踏むことなく、荀彧と情報分析や作戦立案に携わっていたと聞いており、正直言えば、この山岳戦では足手まといになる懸念を持っていたが、劉曄の気概をその言葉から感じ、懸念を頭から消した。
「わかった。そこまでのお覚悟があるのなら是非、その智謀を活かすためにも同行してくれ。」
こうして、張遼軍は、道なき道を進み、陳蘭の砦を目指し、出陣したのである。




