第34回 劉曄、許都より旅立つ
曹操は荀彧を呼び出し、聞いた。
「荀彧よ。劉曄の能力をどう見る?」
「はい。数年間ご一緒しましたが、私が教えることはもう何もございません。」
「それほどのものか・・・。それでは、劉曄を私に帯同させて連れて行こうと思うが、許都の政務に影響はないか?」
「はい。大丈夫でございます。劉曄殿も新しい場所へ羽ばたく時が参りましたな。」
「そうだな。その能力、思う存分発揮してもらわねばならんからな。」
「劉曄殿なら、間違いなく、丞相の期待に応えられると思います。ところで、このまま鄴にお戻りになりますか?」
「さすが荀彧だ・・・。かなりの遠回りになるが、今一度南方の確認するためにも、譙に立ち寄ろうかと考えていたところだ。」
「譙は丞相の故郷であり、我が軍の兵站の要衝でございます。合肥の事もありますから、譙で周辺に展開している将軍などを呼び集めて、今一度今後の事を話しておくのは必要かもしれません。劉曄殿の学びにもなりましょう。」
「なるほど。では、譙にいった後に、鄴に帰還することにする。急ぎの用や報告は、いつもの様に書状で送ってくれ。」
荀彧は拝礼し、立ち去った。そして、劉曄を呼び出して言った。
「劉曄殿。いい話を持ってきた。」
「いいお話でございますか?」
「ああ。丞相より、帯同するようにとのご命令だ。」
「私が丞相と共に・・・。」
「まずは、丞相の故郷であり、我が軍の兵站を担う譙に行き、そこで、南方の確認や方針を決定するとのことだ。南方の事は、しっかり頭に入っておるな?」
「問題ありません。どの様な諮問にも答えて見せます。」
「いい心がけだ。その後、鄴に帰還するとのことだ。」
「わかりました。」
「鄴は、我が国の最大の軍事拠点となる。そこに行くということは、今後は、実戦に帯同して軍師として活躍してもらうというのが、丞相のお気持ちであろう。ここで学んだことをしっかりと活かすことが出来れば、実戦の場であっても、何も恐れる必要はない。」
「荀彧様。これまで、私の様な若輩者をお導き頂き、本当にありがとうございます。何を言っても、感謝の気持ちは伝えきれません。」
「私は何もしていない。ただ、ほんの少し手伝いをしたくらいだ。それと劉曄殿、軍師たるものは何があっても全てを言葉で言い尽くせることが肝要。言葉に詰まるようでは、軍師とは言えない、ということは覚えておいて欲しい。」
「はい。全てを言葉にし、その言葉に責任を持つのが軍師の仕事であると心得ました。それでは、出立致します。」
荀彧は曹操と劉曄を見送った。心の中で呟く。
「劉曄殿。丞相の側に仕えるということは、毎日が戦場に身を置いているようなもの。その緊張感に身を置きながら適切な助言をする。それが軍師ですぞ。励まれよ。」
こうして劉曄は、荀彧と濃密な歳月を過ごした許都を後にし、曹操と共に譙へと向かったのである。




