第28回 劉曄、曹操より諮問を受ける
曹操は、袁家掃討戦を終えた後に鄴に帰還し、諸々の処理を行い、翌二〇八年(建安一三年)、その報告と挨拶を兼ねて、献帝に会うために許都にやって来た。
献帝にとって、曹操は畏怖すべき存在であり、緊張の趣で、曹操を迎えた。曹操が言う。
「献帝にまずはご報告申し上げます。この度、朝廷に歯向かう逆臣袁紹の一族を滅ぼしました。少なくとも、北方に袁紹の様な輩は存在しなくなりました。」
「司空(曹操の官位)よ、この度の働き見事である。褒美を取らせたいが、何か望むものはあるか?」
「いえ。私はその様なもののために働いているのではありません。あくまで献帝のため、漢のために尽くしているのでございます。」
「そうか・・・。しかし、大功を立てた者に何の褒賞も無いようでは、皆の士気が高まらないばかりか、朕が無能であると思われてしまう。そこで、司空よ。本日をもって、そなたを漢の丞相に任じようと思うが、受けてくれるか。」
「私が、漢の丞相・・・。私如きには恐れ多いものでございます。是非、ご再考ください。」
「いや、これは受けて頂く。勅命だ。曹操、そなたを丞相に任ずる。今後も朕のため、国のために励んでくれ。」
「・・・。そこまでおっしゃって頂くなら、この曹操、喜んで丞相の職、拝命をさせて頂きます。」
「そうか。政に関すること、官位に関することも良しなに頼んだぞ。」
「はい。全身全霊をかけて取り組ませて頂きます。」
曹操は拝礼して立ち去った。
曹操丞相就任の話は、すぐに世間に広まった。
これは、曹操が実質的に「漢」と言う国を、自分の裁量一つで自由にできるということであり、勅命を発することも事実上可能となり、曹操に歯向かうはすなわち、朝敵、ということになった。
曹操は早速、開府された丞相府に荀彧と劉曄を呼び出した。
荀彧が言う。
「曹操様、丞相就任、まことにおめでとうございます。これでまた一歩、漢王室の復興が近付いたと、感慨の思いでございます。」
「そうか。献帝からは、政も官位もよしなにせよ、とのお言葉を頂いている。そこで早速、最初の改革を思いついたのだが、聞いてくれるか?」
「もちろんでございます。」
「三公を廃止する。」
「三公の廃止・・・。それはまた、大きなところに手を付けますな。」
「ああ。この乱世では決断の速さと実行力が一番必要になると私は考えている。それを、丞相である私が一人で担うということにしようと思うが、どうであろう。」
「一人の臣に権力を集中させないために権限を三人に割り当てていたのでしょうが、丞相のおっしゃる通り、今の乱世では丞相に全ての権限がある方が天下統一、漢の復興のことを考えれば、よろしいのではないでしょうか。」
「そうか。実のところ、荀彧が賛成してくれるかどうか不安ではあったのだがな・・・。それではすぐに、その様に取り計らおう。」
荀彧は拝礼した。曹操は続ける。
「そして劉曄よ。お前は以前、劉表に仕えていたな。お前から見て、劉表の君主としての器量は如何なるものであったか教えてくれ。」
「はい。荊州の名士や豪族を非常に大切にし、その方々の話には全てと言っていいほど、耳を傾けます。しかしながら、最終的に決まらないことも多々ありました。また、荊州の平穏さえ保たれればよい、というお考えで、大志を抱いているようには見えませんでした。」
「つまりは?」
「丞相の敵ではございません。荊州をお取りになることは、容易であるといえましょう。」
「そうか。荀彧はどう考える?」
「劉曄殿の申す通り。君主の器を比べる必要はありません。漢室復興の一手としても、交通の要衝となる荊州は早めに抑えて然るべしと考えます。」
「そうか。実際に劉表を知っている劉曄、そして何事にも慎重で深く考えてから発言する荀彧。お前たち二人が是とするのであれば、何の問題もあるまい。三公の廃止を片付け次第、荊州侵攻の準備を整える。」
荀彧と劉曄は拝礼した。
こうして、いよいよ曹操の南下侵攻が始まり、歴史が大きく動いていくことになるのである。




