第20回 劉曄、袁紹勢力の情報分析を行う
袁紹が病床についたことで、予測通り跡目争いが激化してきた。長男袁譚、次男袁煕、三男の袁尚。
順当にいけば長男の袁譚が後継者になるべきであるが、袁紹の覚えが一番いいのは、三男の袁尚であり、実際、本拠地の冀州に袁紹と共にあるのは、袁尚であった。
長男の袁譚は青州に、次男の袁煕は幽州に本拠を構えている。この時点で、家臣から見ても後継者は袁尚、と見る者が多く、袁尚が一歩先を行く形となっていた。
次男の袁煕は後継者争いに積極的ではなく、袁譚と袁尚のいずれか、というところである。
袁尚に謙虚さがあれば、自ら長幼の順に反すると道を譲ることもできるであろうが、父に愛されていることをいいことに、謙虚とは程遠く、長男の袁譚をまったく気にすることなく、むしろ、跡目を継ぐのは当然自分である、というのが常日頃の言動に顕れていた。
その袁尚自身の態度の悪さも、袁譚の気持ちを逆なでするものであり、この二人の不仲は日に日に深刻になっていった。
こういった情報は、前線の曹操にも、許都で留守を預かる荀彧の下にも入ってきている。荀彧が劉曄に聞く。
「劉曄殿。今、手元にある情報で、今後の状況がどうなるとお考えになるかな?」
「はい。袁譚と袁尚の跡目争いは、避けることが出来ず、恐らく内戦が始まる可能性が非常に高いと考えます。これは、こちら側としては大きな好機となりえると思います。」
「うむ。私も、この兄弟の事は知っているが、互いに引くことの出来ぬ性分であると思っている。劉曄殿の言う通りの展開となろう。」
「そうであれば、冀州への本格的な侵攻は少し遅らせる、というのも一案の様な気がしますが・・・。」
「確かに。しかし、曹操様は、来るべき時にすぐ動けるようにこの時期に出征したのであろう。」
「来るべき時とは、何でございましょう。」
「袁紹の死。」
「袁紹の死・・・。それは近いうちにそうなる、とのことでしょうか?」
「恐らくは。ここまで、跡目争いの情報がこちらにも入ってくるということは、よほど、袁紹の容態は悪いと考えるのが自然。自分を病と偽って、こちらをおびき寄せる様な才覚、器量を袁紹は持ち合わせてはいない。」
「なるほど。それでは、袁紹の死と共に、一気呵成に曹操様が攻め上がれば、思いの外、早く勝負は決まるのではないでしょうか。」
荀彧は首を横に振りながら言う。
「それでもなお、袁紹の唯一の強みと言える四世三公の家格の高さというものは、決して侮れないもの・・・。それを崩すには、前も言ったが、五年、一〇年を考えなければならない。」
「わかりました。今、私にできることはありますでしょうか?」
「まずは許都の政務を滞りなく進めること。そして、情報の収集・分析を行い、いつでも曹操様の諮問に対応できるようにすること。そして、必要とあらば、こちらから間髪入れず提案、献策をすること。当面は、これくらいであろう。」
「かしこまりました。まずは、目の前の政務を進めさせて頂きます。」
荀彧は微笑みながら答える。
「それでよい。劉曄殿、頼りにしておりますぞ。」
劉曄は拝礼した。
こうして劉曄は日々政務に励みながら、常に冀州方面に目を光らせるようになるのである。




