第14回 劉曄、曹操と対面する
劉曄は、一〇日の旅程を終え、曹操のいる許都にたどり着いた。
劉曄は丞相府へと向かった。
兵士に足止めされる。
「旅の者。ここは丞相府だ。無闇に近づいてはならんぞ。」
「私は、揚州淮南郡成徳県の劉曄と申します。曹操様にこちらに来るように呼ばれて、参りました。」
兵士の態度が急に改まった。
「曹操様から!今、中の者に確認します故に、しばしここでお待ちくだされ。」
劉曄は、拝礼した。
しばらくすると、別の者が出てきて言う。
「劉曄様、お待ちしておりました。曹操様が早速お会いになるとのことなので、どうぞ、中にお入りください。」
正堂と思われるところに案内された。係りの者が言う。
「劉曄様、お連れ致しました!」
「入れ!」
「失礼致します。」
劉曄は中に入った。
すると、正面にいる漢は、背丈がそれほど高いわけでもないが、その風貌から湧き出る気配、闘気といったものを纏い、そこから感じられる力は尋常なものではなかった。
劉曄は「これが曹操か」と悟り、挨拶をした。
「曹操様。この度は私如きをお招きいただきありがとうございます。揚州淮南郡成徳県の劉曄と申します。」
「待っていたぞ、劉曄。昔の恩、何倍にしても返すとの約定、忘れておるまいな。」
「もちろんでございます。この劉曄、粉骨砕身、この身を捧げ、曹操様に忠誠を尽くすことをここに誓います。」
「そうか。お前の実力、見識は既に賈詡から聞いている。我が身辺に仕え、必要とあらば、何でも意見せよ。新参であるからなどの、下手な遠慮は無用だ。今日はゆっくり過ごせ。明日から、頼むぞ。」
「かしこまりました。仰せの通りにさせて頂きます。」
劉曄は拝礼して、退出した。
劉曄は驚いた。ただ対面しただけで、曹操に圧倒された。今までに一度も経験の無い感覚であった。
「あのお方ならば、本当に天下を取られるかもしれない。」
劉曄は、運命を感じた。少年時代、許劭が言っていた「戦乱を収める人物の側近になる」という言葉を思い出していたのだ。
「恐らく、曹操様の事であろう。」
劉曄はここから新たな人生が始まるのだ、と考えた。
「劉曄殿。」
呼ばれて振り返ると、そこには賈詡がいた。賈詡が言う。
「劉曄殿、お待ちしておりましたぞ。」
「賈詡様。曹操様は、今まで会った人物とは全く違う。まさしく、稀有な英雄だと一目で思いました。」
「ええ。あのお方は、常人に非ず。まことの英雄です。」
「賈詡様もそう思われますか。」
「はい。それ故、劉曄殿より長く生きている者として、一つだけ助言を致しましょう。」
「はい。お願い致します。」
「曹操様は常にあらゆるものを見聞き致します。それは、家臣のことも同様です。」
賈詡は続ける。
「そこで、あらぬ誤解を受けないためにも、必要以上の人間関係、特に姻族関係などを作らぬようお過ごしすることをお勧め致します。」
「幅広い人間関係を築くと、危険な存在として見られる可能性がある、ということですか。」
「まさしく。故に、劉曄殿にこうやって声を掛けるのも、今日が最後とお思いください。」
「そこまで、徹底を・・・。かしこまりました。ご助言、ありがとうございます。」
賈詡は拝礼し、立ち去った。
「やはり、今までとは全てが違うということか。気を引き締めて臨まねばなるまい。」
劉曄は、改めて覚悟を決めた。
こうして、劉曄は曹操の側近くに仕えることになったのである。




