第11回 劉曄、提言を採用されず
蔡瑁は、悶々とした日々を送った。
今まで、劉表を荊州出身の名士が支えることで、大過なくここまでやってきたつもりだ。
政治に関することは蒯越、軍事に関しては自分がその筆頭であり、劉表もその言葉を尊重してきた。
しかし、ここ最近、劉曄が賓客の待遇で入ってきてから、少し様子が変わってきた。普通なら憚られる様な直言を何の恐れもなく、劉曄はその場でするのである。
劉表は優柔不断なところがあるが、劉曄の言葉の力に飲み込まれたかのように、今回の様な五万の兵を援軍で送るといった果断をしたのは驚くべきことであった。
「このままでは、均衡が崩れる・・・。」
蔡瑁は、劉曄を何とか排斥しようと考える様になった。
しかし、劉表の劉曄への信頼は絶大であり、下手なことを言えば、自分が誹謗中傷したと取られかねない。
蔡瑁は、ともに劉表を支えてきた蒯越に、今の気持ちを率直に話してみた。蒯越が言う。
「なるほど・・・。確かに、劉曄殿の言葉は些か鋭すぎるところがあり、この荊州の将来を考えると、あらぬ危機を招く恐れはありますな・・・。」
「劉曄は危険な存在だ。どうであろう、二人で力を合わせて、何とか劉曄を排斥できないであろうか?」
「・・・。今すぐ妙案は浮かびませぬが、考えてはみましょう・・・。それまでは、どうぞ、この話はご内密に。」
「もちろん。荊州一の知恵者であるあなた以外に、話してもどうしようもないことだ。」
こうして、蔡瑁と蒯越は一旦別れた。
―数日後―
蒯越が蔡瑁を訪ねた。そして言う。
「蔡瑁殿。先日の話ですが・・・。」
「おお、何か妙案は出ましたか?」
「いえ・・・。ここは、真っすぐに劉表様にこちらの意見を言うべきかと。」
「こちらの意見とは?」
「劉曄殿は非常に優秀ですが、その考え方はあまりにも先鋭的であり、荊州の名士、士族とは合わない。それ故、今後、大きな混乱をもたらす可能性があり、重用するのは危険ではないか、という趣旨のものです。」
「確かに・・・。下手な小細工を弄するより、こちらの気持ちが劉表様に伝わるかもしれんな。」
「では、このまま劉表様の下に参りましょう。」
こうして二人は、劉表を訪ね、先ほど話した内容を伝えた。
劉表が言う。
「劉曄殿は優秀だ。しかし、確かにお前たち二人の意見もよくわかる。どこか、荊州名士、士族とは違う臭いのする人物であるからな・・・。」
蔡瑁が言う。
「はい・・・。劉曄殿を重用することに対し、危機感を抱いている者たちもおります。」
「そうか・・・。わかった。今後は、ほどほどにするよう、私も心がけよう・・・。」
―二カ月後―
劉表の下に急報が入った。
「張繡、曹操に降伏する」というものである。
慌てた劉表は主だった者たちを集めて言った。
「張繡が曹操に降った・・・。これから、我々はどうするべきか。」
蒯越が言う。
「まずは、袁紹殿との同盟をより強固にする必要があります。袁紹殿の圧力が強ければ強いほど、曹操は南方に目を向けることは出来なくなります。」
蔡瑁が言う。
「私も、蒯越殿と同じ意見です。袁紹殿に、改めて使者を送るべきだと思います。」
ここで劉曄が発言する。
「お二人のおっしゃることはごもっとも。袁紹殿との関係をより強固にする必要があります。それに加えて、国境の守備兵を現状の二倍から三倍に増員し、自ら戦う体制を整えておくことが肝要かと。」
蔡瑁が言う。
「しかし、国境の警備にそれだけの兵を動員し続けるのであれば、とてもではないが国費がもたない。蒯越殿、その辺りはどうであろうか?」
「確かに、国境警備の増員を常態化することは͡国費の大きな負担になることに加え、曹操を刺激することになる様に思います。」
劉表が言う。
「蔡瑁と蒯越は反対か・・・。それを踏まえて、劉曄殿のご意見は?」
「今回、張繡殿が降伏したことで、我々は国境北部の盾を失ったことになります。その無くなった防備を手厚くするのは必然の流れであり、国費云々の話はその後でよろしいかと思います。」
「ふむ・・・。」
劉表はいつもの様に、髭をしごきながら考える。そして言った。
「皆の意見はわかった。今回は、蒯越と蔡瑁の意見を採用し、まずは袁紹殿に手厚い贈り物を送り、より同盟の強化を図ることとしよう。国境の警備については、また別の機会の検討とする。」
劉曄に反論の余地を無くさせた、劉表の決定であった。
そして、この数日後、劉曄の人生に転機が訪れるのである。




