第10回 劉曄、劉表を動かす
復讐に燃える曹操の動きは早かった。
前回は、袁紹に隙を見せないために、防備に重きをおいての出陣であったが、今回は袁紹の事は考慮せず、現在動員できる最大限の兵力をもって、宛城攻めを開始した。
宛城からは、援軍の派遣要請がすぐに届いた。
劉表が蔡瑁に聞く。
「今回の曹操は、本気らしい。我が方から援軍を送らなければ、張繡殿もどうすることもできまい。我が方から出せる援軍はどれくらいか?」
「早急に動員令をかけて、一万ないし、最大で二万程だと思います。」
「そうか・・・。それなら、早急に手配をかけねばなるまいな。」
「しかし、こちらから援軍を送ったところで、復讐で士気の高い曹操軍相手ですと、張繡殿を救えないばかりか、我が方もかなりの痛手を受ける可能性が高いと思います。」
「蔡瑁よ、援軍は送らない方がよい、という考えか?」
「張繡殿には申し訳ないのですが、実情を冷静に分析すれば、我が方が援軍を送ったところで、勝算は立たないと思われます・・・。」
「ふむ・・・。」
劉表は、髭をしごきながら熟考する。その時である。
「お待ちください!」
ひときわ大きな声が放たれた。劉曄である。劉表が言う。
「劉曄殿、意見があるなら言ってくれ。」
「劉表様、私は以前申し上げました。次は、こちらも援軍を送る必要性が生じる、ということを。」
「しかし、蔡瑁の意見も一理あろう。一万、二万を送ったところで・・・。」
「それは、ごもっともです。しかし、五万の兵を送ればどうでしょう。こちらの軍で戦況を十分転換させるだけの働きが出来ると思います。」
「五万・・・。しかし、そんな急にそこまでの動員をかけるのは、不可能だ。」
「劉表様。この荊州は非常に豊かで、人口も多い。そして、戦乱に巻き込まれることなく、ここまでやってこられています。これは荊州牧である劉表様と軍事を預かる蔡瑁殿のお力があってこそ。その荊州で、五万の兵を動員できないなどございましょうか。」
蔡瑁が言う。
「確かに、極限まで国力を振り絞れば可能かもしれんが、今はその様な時なのであろうか?」
劉曄が答える。
「今こそが、その時です。曹操も恐らく、こちらがそれほど本気で動くとは思っていないと思います。まさに、それが付け入る隙であり、勝機と言えます。」
劉表が言う。
「劉曄殿、話は分かった。蔡瑁、五万の援軍を大至急編成せよ。その指揮は、文聘に任せよ。」
「・・・。かしこまりました。早急に手配致します。」
こうして劉曄の言葉で劉表が動いた。
そしてかつてない速さで軍の編成は行われ、荊州一の名将である文聘が、五万の大軍を引き連れて、宛城に向かったのである。
曹操は劉表を甘く見ていた。
劉表は優柔不断であり、援軍を送ってきても小規模、若しくは援軍自体を送ってこないと読んでいたのである。曹操の周りを固める優秀な参謀陣も同じ意見であった。
そこに、五万もの大軍が襲い掛かってきたのである。
曹操軍の一部は、まさに背後から襲われる形となり、大混乱をきたした。そして、退却を余儀なくされたのである。
こうして、宛城の危機は再び救われた。しかし、今回の件で蔡瑁は劉曄を忌々しく思うようになったのである。




