■6 姉と兄弟?
予約投稿です。毎日午前7時に投稿予定!とりあえず50話まで目指して頑張ります~。
レオナは芹根春香と夏輝が暮らすアパートの小さなダイニングで朝を迎えた。
そっと左側の部屋のドアを開けて中の様子を見てみると、ディセリーヌことニャン太とリオンが仲良く並んで静かに寝ていた。
寝具が乱れた様子もないので、レオナはホッとした。
「いちおうちゃんと『兄弟』してるんだ・・・」
もちろんリオンとニャン太は兄弟ではない。
それは上位存在によりレオナたちに刷り込まれた仮初の概念だった。
実はレオナはリオンが夜の間にニャン太に襲われていないか、心配していた。
元世界ではニャン太は「ディセリーヌ」と名乗る目つきの悪い美少女で、森獄の魔龍が人化した存在だった。
なぜかリオンに付きまとい、やりたい放題していた素行の悪さがレオナにとって大問題だった。
特に夜はリオンが寝ている時に全裸のまま寝袋に転移で潜り込んできて、朝までリオンの耳たぶをペロペロしゃぶることがよくあったからだ。
この時のディセリーヌは半分寝ぼけているようで、リオンが我慢してシクシク啜り泣く声で飛び起きたレオナがディセリーヌを引きはがそうとしてもピクリとも動かなかった。
人化したとはいえ、もとは森獄の魔龍。人間の力でどうこうできる相手ではなかった。
ガンギマリの半目をしたまま、無表情でリオンの耳たぶをしゃぶり続ける様子は非常に不気味で、リオンから離そうにもガッチリと抱き込んでいて離れない。
その傍らでディセリーヌの従者であるラフラカーンがレオナとリオンに頭を下げ続けるのが哀れだった。
ディセリーヌがリオンの耳たぶをしゃぶるのは、なぜかそうすることで魔力が回復するからだ。
計画性のない魔力行使でいつも魔力枯渇の状態にあった元世界のディセリーヌに、リオンはしょっちゅう狙われていた。
しかしこの世界に来て「ニャン太」となったディセリーヌは体質が変わったのか魔力枯渇に苦しむことがなくなり、さらにはリオンの事を『自分の可愛い弟』として認識しているようで意外にも男同士で仲良くしている。
ように見える。
実はレオナ自身も、上位存在からこの世界のあれやこれやを刷り込まれた際に、ニャン太の事を『弟』として認識するよう強制されていた。
レオナは元世界でのディセリーヌを嫌い抜いているため「ニャン太が弟」というのは受け入れがたい認識なのだが、上位存在の強制力は非常に強い。
この世界に4日目の朝を迎えた今では、レオナは「ニャン太は弟である」ということを徐々に受け入れ始めていた。
「まあ、セクハラせずに仲良くしてるんだったら、それでいいか・・・」
それよりもこの世界での生活基盤の確立が重要だ。
幸いにも親切な女性に声をかけてもらって、宿の確保ができた。
実際には低所得者向けの狭い集合住宅だったが、旅路では野営が普通だったレオナにとっては屋根と壁のある場所に泊まれるだけでも感謝している。
昨日は朝からリオンと2人で春香のキッチンカーを手伝った。
台所やキッチンカーで元世界とは使う道具の違いはあるものの、母親を早くに亡くして鍛冶屋の父親とリオンの生活を支えてきたレオナにとって、大和神国での家事も難しいことではなかった。
春香の反応をみると、リオン効果でかなり儲かったらしい。
昨日は早々に売り切れになったが、売るものさえあればもっと売り上げは伸びるはずだ。
今日も含めて2日間キッチンカーで働いてみて、仕事にある程度慣れたレオナはお金を稼ぐことについては見通しが立った気がした。
「このまま頑張れば、ボクたち4人分の食費とかも何とかなりそう」
できれば宿や食事を提供してくれている春香の善意にいつまでも頼らず、自分たちの食い扶持くらいは自分たちで稼げるようになりたい。
さらに言えばどう見ても裕福そうではない春香に利益を還元できるようにしたい。
レオナは新しい世界で生活の基盤が早々と整いつつあることに安堵した。
「それにしてもボクたちには何ができるんだろうか・・・・」
メッセンジャーであるズル猫神様の説明では、「この世界を救ってほしい」というのが上位存在の意思らしい。
しかしレオナとリオンは元世界では普通の人間であり、大した力などない。
またはた迷惑な魔龍であるディセリーヌ(ニャン太)が人の役に立つとも思えない。
「厄鬼という魔獣がいること、悪い呪いが世界を覆っていること、男性が少なすぎるのがこの世界のヤバイところみたいだけど・・・」
魔獣については個としての戦闘能力が高いラフラカーンがいれば「1対1」であれば何とかなりそうだが、厄鬼の大群や呪いに剣技が通用するのか分からない。
また男性が少ない問題については、レオナには何の解決策も浮かんでこない。
『たぶんリオンはまだ精通していないし、例え精通したとしてもリオンが繁殖動物みたいに扱われるのもヤだ』
元世界では権力を持つ貴族たちの中には、悪い人間もいた。
根っからの平民であるレオナは基本的に権力者を信用しておらず、それは民主主義というものがセフティになっていはずのこの世界についても同様である。
レオナは昨日の公園での客たちの反応を思い出した。大和神国の女性たちにリオンが超絶にモテたのだ。
男女比が1:1200で、厄鬼がもたらした呪いの影響で女性が男性に飢えている、という状況は刷り込まれた知識で知っていたが、現実はその上を行っていた。
もともとリオンは元世界では決してモテる存在ではない。
元世界では「男性といえば長身で筋肉マッチョの戦闘職やハンターが一番!」という風潮が一般的だった。
「なのにああなっちゃうんだもんなー」
レオナはキッチンカーの中で、春香の手伝いをしながらリオンの接客を見ていた。
この公園では昨日が営業2日目だったが、どの女性客もリオンの前に立つと口をあんぐり開けたまま、呆然とした顔をしてリオンが声をかけるまで立ち尽くしていたのだ。
それはまるで世界に1人しかいないエルフの美少年と奇跡的に出会ったかのように。
レオナは初日のサンドイッチ屋のオープン前に春香からこの世界の歪さを聞かされている。
厄鬼の呪いのせいで男性が「特区」と呼ばれる閉鎖された特別なエリアに隔離されていること、一般的な女性は若い男性と出会う機会が全くないこと、科学技術の発達でセックスなしで女性は出産できるようになったが本能的に男性に飢えていることなど。
だからレオナが「リオンと2人でお店の手伝いをさせてください」と春香に最初に頼んだ時、春香はものすごく驚いた顔をして「リオン君は絶対にダメ!」と大反対された。
レオナは反対されてビックリした。
この世界に転移した初日に春香の店は見ており、「もと世界の屋台みたいな感じだな」と思っていたからだ。
レオナもリオンも旅路の途中で路銀を稼ぐために様々な屋台の手伝いをした経験がかなりあるため、「この世界でもできそう」と思っていた。
それに自分たちに宿や食事をタダで提供してくれる春香が決して裕福ではないことも感じ取っており、なんとか恩返しと生活基盤の確立をしたいと考えていた。
だが春香の考えは違った。
リオンの様に若くて健康的で美しい少年が一般客を相手に働いた事例が存在しないため、どんな騒ぎになるか想像もつかないから反対だという。
「そ、そんな素晴らしいお店があったら、お金貯めて私が行きたいくらいですぅ!」
力説する春香の反応にレオナとリオンも驚いたが、「試しに半日だけでも」というレオナの説得に春香は渋々頷いてくれた。
結果としてはリオン効果は販売数アップに劇的で、しかもリオンと対面した女性は呆けたようになってしまうため、暴力を振るわれたり不快な思いをするような心配もなさそうだった。
どの客もリオンにチップを払ったうえでおずおずとツーショットをねだるのだ。
しかもサンドイッチを買ってツーショットを撮った女性客たちは、すぐにまた列の最後尾に並び直していた。
その淑女的な振る舞いに、レオナは「この大和神国の民度はかなり高いのかも?」と感心した。
なおレオナは最初、ニャン太も無理やり連れて行こうとしたが、リオンの「初めてだから僕たちだけの方がいいよ」という説得に「それもそうか」と納得して置いてきた。
ニャン太自身は「夜に散歩したから、眠くて仕方がない」と言って、レオナとリオンが働いている間はラフラカーンが付き添い春香の家で寝ていた。
料理が好きなリオンは最初、キッチンカーの中で春香を手伝おうとした。
だが「狭い車内で男性とずっと一緒にいると頭がおかしくなるので、外で接客をお願いします!」と春香に断られてしまったため、レオナがキッチンカーの中で調理を手伝うことになった。
レオナとリオンが店を手伝い始めて2日目が終わった夜に春香からインターネット上にリオンとお客さんのツーショット写真が多数出ていることを教えられた。
ネットでは「こんな美少年が実在するはずがない」という懐疑派と「サンドイッチの王子様は実在する。ツーショットが尊すぎる」という信奉派に別れて大変な騒ぎになっているという。
「王子さまって大げさな・・・」
リオンは確かに男の子だが、レオナの認識だと「モテる男子枠」には入っていない。
元世界では魔獣などを狩ったり、森獄の奥まで入って貴重な植物を採取して生還できる「稼げる」マッチョ男が「モテる男」だった。
ただレオナは父親が鍛冶をやっていた関係で、客としてやってくるガサツで乱暴、気が回らなくて頭が空っぽの男が大嫌いになっていた。
リオンは身体の線も細いし背も低めだしどちらかというと女の子っぽい顔つきだ。
しかも気持ち優しすぎて自己主張も控えめ、いろんなことに我慢してそれでもニコニコしていることが多かった。
レオナが最初にリオンと会ったとき、「この子は生きることをあきらめてるんじゃないかな?」って思ったほどだ。
だがリオンとしばらく暮らして旅をして、レオナにもリオンの良さがだんだんわかってきた。
争いを好まないし、頭もいい。いろんなことを知っていて料理とかお菓子作りもできる。
リオンは魔力があんまりないから魔法は生活魔法くらいしか使えないが、2本の棒で身体のあちこちをぐりぐりしてちょっとした不調を治す術もなぜか知っている。
ごくたまに青い息を吐いて人が変わったようにバカなことを言いだすのは困りものだけど、すぐに直せる。
レオナがおかしくなったリオンの頭に袋を被せるとすぐに寝てしまうからだ。
しばらく静かに寝て目が覚めたときには、リオンは元に戻っている。
リオンの欠点はそれくらいだ。
レオナは将来的にはリオンと結婚して自分が外で冒険者として稼いで、リオンに家を守ってもらう・・・ちょっと男女の役割が逆さまになってる気がするけど、そんな生活もいいかな?と思っている。
気がかりなのは元世界からの「リオンの呪い」だ。
リオンの呪い、正確にはリオンが受けた呪いとは12歳の時に発動した「2年以内にいずれかの魔龍を従えること。できなければ死ぬ」である。
リオン自身も呪いの事は知っており、「森獄の頂点である魔龍を従えるなど普通の子供である自分にはできるはずがない」と諦めていた。
だがディセリーヌ(ニャン太)がリオンに付きまとうようになって、この条件はクリアしたらしい。
呪いが「2年以内に合計6柱の魔龍を従えること。できなければ死ぬ」に変化したからだ。
たまに青い息を吐いて目つきが変になって、バカなことを言いだすようになったのは(隠しスキル:魔龍王人格発露の影響)、呪いが変化したのと同じ頃だ。
だがレオナは何とかなるんじゃないかな?と楽観視している。
元世界では12龍のうちすでにディセリーヌを含めた3龍と交流があるからだ。
ズル猫神様の説明では、このリオンの呪いのタイムリミットもこの世界にいる間は保留になるようだ。
そもそもこの世界には攻略済み?であるディセリーヌ(ニャン太)以外の魔龍がいないから当然ともいえる。
「それにしても、あいつ。アイツだけは絶対に許さない」
レオナは自分たちをこの世界に無理やり連れてきた「ズル猫神様」のことを考えると、腸が煮えくり返るような怒りを覚えた。
『上位存在とかのせいにしているけどたぶん関係がない。アイツがきっと一番悪い。
元世界に還ったら、絶対にコロす。
今はどこにいるか分からないから、コロせないのが本当に悔しい』
レオナは決意を新たにして、いったんズル猫神様は忘れることにした。
それより今日の仕事のことだ。
武蔵国文寺公園のサンドイッチ屋は初日に6人の客が来て、2日目は開店前から50人以上が並んでいた。
今日は3日目だが、春香の予想では朝から300人並んでいても不思議ではない感じらしい。
絶対に人手が足りなくなる。
だったら今日からニャン太も働かせよう。
そしてその日、大和神国がニャン太を知ることになった。
今回はリオンの設定(キャラクターとか呪いとか)を入れてみました。
いろいろと考えていることはあるのですが、「ここで書くことじゃないだろう」というものもあり、何を伝えて何を伝えないかバランスが難しいですね。
そうそう元世界での男性観は現在アメリカに近い感じです。マッチョで胸毛があるのが男として普通、みたいな感じで(偏見かな?)
励みになりますので、よろしければ作品評価をお願いします!




