■2 命名ニャン太、防衛局辰川駐屯地の眠れぬ忠佐
新作の2話目投稿です!50話までストックがあります。ストック切れるまで毎日更新予定~。
■2 命名ニャン太、防衛局辰川駐屯地の眠れぬ忠佐
芹根夏輝は超ご機嫌だった。
学童保育から母と一緒に家に帰ったら、家にお客さんが4人もいて、うち2人が男性だったからだ。
母である春香もそうだが、夏輝にも男性との出会う機会はほとんどない。
男女比が1:1200にまで下がっているため、夏輝が本物の男性と出会う機会は小学校に高齢の男性教諭が巡回で数年に1度ほど回ってくる時ぐらいだ。
若く美しく元気な少年など、アニメの世界にしかいないと夏輝は思っていた。
夏輝はたちまち2人に夢中になった。
「ねーねーお兄ちゃんたちは、夏輝のお兄ちゃんになってくれるの?」
「ニャハハハ~そうだな。まずは春香ママが認めてくれたら、夏輝のお兄ちゃんになれるかもな?」
春香が食事の支度をしている間に、夏輝たちは小さなダイニングに置かれたローテーブルを囲んで座っている。
夏輝は当然のようにリオンとディセリーヌの2人の少年の間に座り込んだ。
改めて2人を見てみる。
1人は、なぜか猫耳と尻尾がついた目つきがキリッとした美少年。とてもいい香りがする。
「こっちのお兄ちゃんは、どうして猫の耳やしっぽが付いているの?」
「オレはもとはドラゴンだったんだが、たぶんそのままでは力が強すぎて、こっちの世界に飛ばせなかったんだろうな。それで別の身体になったんだと思う」
「へードラゴンなんだ!今でもドラゴンになれるの?」
「ちょっと無理みたいだな」
「そっかー。でも、素敵だからそのままでいいと思うよ!お兄ちゃんのお名前は何て言うの?」
「ディセリーヌだ」
「でぃ、ディセ?」
「おう、こちらでは呼びにくい名前かな?では夏輝が新しい名前を付けてくれ」
「え、あたしが名前付けちゃっていいの?」
「好きな名前を付けてくれていいぞ」
「じゃあ、ニャン太で!」
「わかった。オレは今日からニャン太だ!いい名前をありがとうな、夏輝」
「どういたしまして!」
春香は夏輝の晩御飯の甘口レトルトカレーを準備しながら、そんなに適当でいいのかなあ?と思っていたが口には出さなかった。
「こっちのお兄ちゃんのお名前は?」
「リオン」
「リオン兄ちゃんかあ!ねえ、お膝に乗っていい?」
「う、うん」
無口で大人しいリオンはグイグイ来る夏輝にちょっとビックリしながらも、クッションの上で胡坐をかいて夏輝をその上に乗せた。
「ありがとう!うわー感動。
あたし、お兄ちゃんができたらお膝に乗せてもらうのが小さいときからの夢だったんだー。
ねー後ろからギュっと抱っこして?」
「う、うん」
「そうそうこんな感じ。
うわー勝ったわー。あたし勝った!
ねえママ写真撮って!!早く早く」
「はいはい、もういい加減にして。先にご飯食べなさい」
春香は何かの妄想スイッチが入り始めた夏輝をたしなめ、ローテーブルに夏輝の食事を載せたトレーを置いた。
甘口のカレーと、グリーンサラダ(サンドイッチ用の野菜の残り)だ。
すでにサンドイッチを食べたリオンたちには、春香はちょっと考えて家にあった賞味期限をちょっと過ぎたオレンジジュース(販売用の残り)をコップで出した。
「なっちゃん、改めて皆さんを紹介するね。
女性のお2人は、ラフラカーンさんとレオナさん。
皆さんは食べ物も泊る所もなくて困ってらしたので、お招きしたの」
「ぐっじょぶだよ、ママ!」
カレーを急いで食べながら、夏輝はスプーンを振り回して母の決断を称える。
夏輝からしてみたら、ラフラカーンもレオナも普段見かけないほどの美形なので我が家に迎えることはまったく問題なかった。
小さなローテーブルには4人しか座れなかったので、ラフラカーンとレオナは少し離れたところで夏輝に会釈した。
こんなユルユルで大丈夫なのかな~?とか思いながら。
その後、夏輝が食べるカレーに興味を持ったニャン太が「うまそうだな。味見をさせてくれ」と夏輝の使っていたスプーンでパクリとカレーを食べて、「こ、これって間接キス?」と春香が茹で上がってしまったり、夏輝が誰と風呂に入るかで大揉めした。
夏輝はリオンと風呂に入りたがり、リオンもこれを「小さい子の面倒を見る枠」で了承したが、さすがに春香が許さなかったのだ。
夏輝はぶーぶーと文句を垂れながら結局、春香と共に風呂に入った。
そして最後に、誰がどこの部屋で寝るかでまたひと悶着あった。
春香の自宅は2DKの3間だったので春香の部屋で夏輝が寝て、夏輝の部屋を開けてニャン太とレオン、DKはローテーブルを片付けてレオナとラフラカーンが寝ることになった。
予備の布団は一組しかなかったが、レオナとリオンは野営用の毛布が背嚢に入っていたので、それを使うことにした。
ラフラカーンもアイテムボックスから野営用の毛布を出したが、魔人であるラフラカーンはそもそも睡眠を必要としていないので形だけだった。
春香の部屋が寝静まって静かになった午後11時過ぎ、ニャン太はパチリと目を開いた。
「出かけるぞラフラカーン。付いてこい」
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ここは対厄鬼の最前線の1つである、討伐省防衛局辰川駐屯地。
第4師団の第12普通科連隊の精鋭、約600名が詰めている。
その連隊副隊長の宗源寺緒慕炉・階級忠佐29歳はクタクタになって仮眠室に向かった。
本日の17時過ぎに武蔵国文寺公園で顕現を観測した厄鬼・暴種丙型2体の手掛かりがつかめなかったからだ。
この世界には、突然現れる「厄鬼」と呼ばれる未確認生物が引き起こす超自然災害がある。
厄鬼は半実体で顕現し人間を襲ったり家屋に被害を与える「暴種」と、実体がない状態で顕現して呪いを振りまいたり地震や森林火災を災害を起こす「呪種」に分類されている。
緒慕炉が所属する討伐省防衛局では暴種の討伐を担当していた。
厄鬼のうち暴種だけは大蔵省夜智局による予知や、討伐省陰陽局が張り巡らせた結界機網による探知でその顕現を知り対策することができるからだ。
そしてその日、辰川駐屯地にほど近い武蔵国文寺公園で丙型の同時2体の顕現を観測したのだが・・・。
「・・・ッツ!丙型2体、失探!すでに反応が消えています」
「確かか?顕現した後に反応がなくなったのか?」
「はい、それは間違いありません。
武蔵国文寺公園の結界機にもログが残っております」
暴種丙型。それは厄鬼の分類で特型を除いて上から3番目に当たり、地域災害級とされている。
同時2体ともなれば、顕現が悪ければ20人以上の死傷者が出ても不思議ではない。
ちなみに乙型は都市災害級。甲型は都市滅亡級となっているが、幸いにも甲型以上はこの世界に顕現する事例は少ない。
宗源寺忠佐は念のため1分隊を現地へ向かわせたが、やはり暴種の痕跡や異常は検知できなかった。
だが防衛局は「探しました、いませんでした」で済む組織ではない。
宗源寺忠佐は結界機の簡易再テストや周囲の探索・現地に赴いた分隊員からの聞き取りに追われ、夜の2時を過ぎてからようやく報告の目途が付いた。
『顕現直後に何らかの理由で消滅。暴種丙型2体の存在は確認できず。消滅の理由は調査中』
いかにも苦しい報告だが、現状では「もういない」ことが最重要である。
明日は8時から状況報告の緊急オンライン会議がある。宿舎に戻る時間も惜しい。
宗源寺忠佐は執務棟にあるいつもの仮眠室のドアを開け、照明をつけた。
「邪魔しているぞ」
そこに何者かがいた。仮眠室のベッドに誰かが腰かけている。
服装は簡略化された海外の将校服のようだが、デザインはかなり古い。
コスプレ衣装と割り切った方が理解しやすいが、普段から着こなしている感じがする。
しかも怪しいことに、その人物は頭にすっぽりと紙袋をかぶっていた。
眼のあたりに乱雑に開けた穴の一つから、こちらを見ている。
「・・・何者だ!?」
宗源寺忠佐は内心の動揺を抑えながら、厳しい声で誰何した。
何しろここは討伐省の辰川駐屯地だ。
警備も厳重で不審者がこんな深部まで入れるはずがない。
宗源寺忠佐は剣帯から下げている鬼倒剣の柄に手をかけた。
この時代、防衛局の衛士は厄鬼・暴種に対して、鬼倒剣と呼ばれる刀や槍で戦っていた。
人間の持つ魔力(沁統力)が厄鬼にとっての「毒」になるからだ。
ただしこの世界の人間は沁統力を持っているが、魔力を現象に現実化させる魔法や魔術は使えない。
このため人間の沁統力を通しやすい素材で作られた鬼倒剣などを用いた接近戦がどうしても必要となる。
この世界ではミサイルや重火器はもちろん、銃火器など火薬を使う通常兵器も開発されていたが、それらは主に対国の紛争解決や対人の制圧用として使われている。
ピストル弾やライフル弾には沁統力を込めることができないため、半実体の厄鬼には通じないからだ。
ちなみに防衛局では伝統的に戦闘職を「兵士」ではなく「衛士」と呼んでいる。
そして宗源寺緒慕炉忠佐も連隊副隊長という立場ながら、圧倒的な討伐数を誇る猛者として知られていた。
殺気立つ緒慕炉に不審者は、女にしては低い声とのんびりした口調で答えた。
「あわてるな。敵ではない。
お前が当事者かどうか分らんが、聞きたいことがあるんだ」
その不審者は紫色の水晶のようなものを手の上で弄び始める。
緒慕炉はそれを見て、ハッとなった。厄鬼を討伐したときに得られる死鬼核に見えたからだ。
しかも大きい。該当するのは、丙型以上。しかもそれが2個。
まさか。まさか・・・。
「あとオレは少々喉が渇いている。甘いものもあればうれしいな」
抜刀寸前の殺気立った手練れの衛士を前にして、不審者はこともなげにそう言った。
「・・・少々ここでお待ちを」
時間をくれた。緒慕炉はそう解釈した。
仮眠室のドアをいったん閉めると、スマホで直属の部下と警務隊も呼び寄せた。
窓はあるが侵入防止用の鉄格子がはまっている。ドアさえ押さえれば他に出入り口はない。
警務隊が到着するのを待って、緒慕炉は部下に持ってこさせた菓子と飲み物を手に仮眠室のドアを開ける。
「お待たせしました。こちらをどうぞ」
「おう、この菓子は美味いな。ところでこの国には、魔獣がいるのか?」
「・・・厄鬼のことでしょうか?このような姿をした?」
緒慕炉は自分の業務用スマホで画像を見せた。
そこには体長3メートル・体高1メートルほどの巨大で真っ黒な四つ足の厄鬼が写っていた。
闘犬種のようにも見えるが、目が真っ赤で歪んだ短い角が生えている。
そしてこの怪物がこの世のものではないという証拠に、その体は半透明で、輪郭もぼやけていた。
典型的な厄鬼暴種であり、脅威度は特型を除いて上から4番目の丁型だ。脅威度は「人災級」。
そしてこの暴種丁型は人間に対する強烈な殺意と破壊本能を持ち、強大な膂力に飽かせた爪や牙による物理攻撃は器物を破損し、一般人を容易く殺害し、鬼倒剣で武装した衛士すら3人がかりを必須としている。
「それだ。そいつは許可なくブッ殺しても問題ないか?」
「もちろんです、人類の敵ですから」
ただし訓練を受けて専用の装備を持った、我々衛士にしか倒せませんが・・という言葉は飲み込んだ。
「それを聞いて安心した。
あとこんなものが落ちていたのだが、これは金になるのか?」
不審人物は手の上で弄んでいた紫色の水晶2個を緒慕炉に見せた。
間違いなく厄鬼を討伐したときに得られる死鬼核だ、しかも大きさからみて、丙型以上。
武蔵国文寺公園で顕現を確認したものの、すぐに失探した丙型2体の物だとすれば辻褄が合う。
『・・・こんなものを見せて、何が目的だ?』
緒慕炉は不信感を強めながらも、自分の動揺を悟られぬよう平坦な態度で応じた。
「それは死鬼核ですね。厄鬼を討伐すると落ちていることがあります。
人間の沁統力が厄鬼の体内に入って毒となり、厄鬼のエネルギーである鬼力の循環が阻害されて固着・結晶化したものと言われています」
「いくらで売れるんだ?」
「重さによりますが、その大きさだと1個30万から50万円くらいですね」
「30万円というのはどれくらいの金だ?」
変なことを聞くな、と緒慕炉は思った。
「20万円で一人が都会で1ヵ月暮らせる金額ですね。控えめな衣食住に限ってですが」
「そうか。ではどこで買い取ってくれる?」
「・・・私が買い取りましょう。入金用QRコードを見せていただいても?」
「そういうものは持ってないな。金貨とか銀貨で支払ってもらえないか?」
「金貨?・・・この国では1000円以上の現金は紙幣が中心で、電子マネーも普及しています」
「ああ、そういえばそうだったな。知識はもらったが、使えないと意味がないな。
オレは現金がいいな」
「現金をお望みでしたら今は手持ちがありませんので、2日後であればご用意いたします。
ところでどうやってこちらに?」
「監視のための道具があっただろう?それの流れを辿ったらここに行きついた。
しばらく様子を見て、お前が金に関する権限を持っているのでは?と推測しただけだ」
「そうですか。お名前を伺っても?」
「・・・名乗る名はない。では2日後の同じ時間にまたここに来る。お菓子と金を用意していろ」
「(お菓子が先か)・・・分かりました。では2日後、この時間にこちらでお待ちしてい・・」
緒慕炉がそう伝えきらないうちに、部屋の照明が突然消えた。
ドアの外で待機していた警務隊がフラッシュライトを点灯してなだれ込んできたが、すでにそこには誰もいなかった。
唯一の窓にある鉄格子は嵌ったままで、部屋の出入り口は警務隊が固めていた。
通常なら逃げられるはずがないのだが・・・。
「どうやって逃げた?まさか妖術師の類か?」
その夜、駐屯地のセキュリティー再点検とカメラ映像の分析などで、緒慕炉は結局眠ることができなくなった。
魔力や魔獣とかの設定はライトノベルで語りつくされている気がしますが、やはり表現者としては自分だけの設定というのが欲しくなります。
宗源寺忠佐は国家による対厄鬼(暴種)の討伐を行う自衛隊のような存在で、この世界では兵士は「衛士」と呼ばれています。
用語はネットとかで調べて「あまりかぶってないな」というのを確認してから名付けてたつもりです。
どうかなー?
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