■1 行き倒れ寸前の野良美少年たち
久しぶりの新作です。よろしくお願いいたします!
某日某所深夜。
床についていた老婆がカッと目を見開く。
「これはまさか・・・神託か?」
目を開いても、暗くした寝所の景色が見えるわけではない。
しかし視界の周りには火花のような緑のスパークが浮かんでは消える。
これこそ大蔵省夜智局の特級予知免許保持者、西院輪紹子が神託を受けた時の大きな特徴だった。
「だが・・・」
紹子は戸惑いを隠せない。神託は急に落ちてくるものではないからだ。
超ベテランである西院輪紹子をもってしても、神託を受けるには昼夜を徹した数日の苦行が必要だった。
今回のように、望んでもいないのに「あちら」から一方的に神託が下るなど、86年の人生で一度もなかったのだ。
「しかも・・・」
神託は通常、複数のイメージが連鎖的に脳裏に沸き起こる。原因も結果も同時に提示されるのだ。
そこから時系列順に並べ直し、原因結果を読み解き言語化するのに熟達した西院輪紹子でさえ苦労する。
しかし今回は漢字がたったの4文字だけだった。
それは「驚天動地」。
西院輪紹子は震える手で、枕元のスイッチを押して側仕えを呼んだ。
「大和神国に何が起きるというのか?」
西院輪紹子はとてもつない不安に駆られた。
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芹根春香は困っていた。
「どうしよう、今日も売り上げがほとんどない・・・」
芹根春香はサンドイッチを製造販売するのキッチンカーのオーナーだ。
本部からの指示でここ武蔵国文寺公園での営業を割り当てられ、この1か月ほど営業している。
しかし国文寺市の中心から離れたこの公園は、人が少ない。
近くに住む老人の散歩か朝夕にジョギングをする人がいるくらいだが、どちらもサンドイッチを買ってくれる客層ではない。
今日も具材が大量に余ってしまった。
仕入れノルマの最低限の数量にもかかわらず、だ。
そしてもう日が暮れようとしている。
「こんなところで売れるわけないよ・・・」
春香は来月の給料を予想して、盛大な溜息をついた。
販売ノルマをクリアできた月でさえ、母子2人で暮らすにはギリギリ。
現在、小学4年生の娘に国が支給してくれる児童養育費が毎月12万円あり、それでなんとか生活できている。
だがキッチンカーのローン支払いや具材の仕入れ代、本部への販売指導料などで下手をすれば赤字になる。
「別の仕事探した方がいいかな・・・」
しかしこの仕事に就いた際、キッチンカーの改装費やレンタル費など約650万円を本部から前借させられている。
利子も年に8%つく。返済は続けているが、そもそも元本が減らない。
「これってあたしの児童養育費狙いのインチキ会社なんじゃ?」
暗い考えが頭をよぎるが、春香にはその借金を一括返済できるあてはなかった。
しかも最近は厄鬼不況で求職状況も良くない。キッチンカーの仕事もようやく見つかったのだ。
もっとも正社員ではなく、個人事業主の業務契約扱いだが・・・。
春香は気持ちを切り替えることにした。
そろそろ店じまいして、学童保育に娘を迎えに行かなければならない。
将来の展望が見えず暗い顔をしている芹根は、向こうから聞こえてくる何やら騒がしい声に気づいた。
「お金がないんだから、食べ物なんて買えないよ!」
「それでもオレは腹が減ってガマンできないんだ!」
4人が歩いている。そのうち男女が何やら言い争っている。
『・・・えっ?だ、男性?しかも美少年??』
春香の美少年センサーが激烈に反応した。
このセンサーが反応したのは生まれて初めてのことだ。
この世界、大和神国をはじめとする全世界では長らく続く厄鬼の呪いで600年前から男性が減少傾向にあり、さらに150年前に顕現した「史上最悪」と言われる厄鬼により男性出生率が大幅に下がった。
現在の政府の公式発表による男女比は1:1200である。
春香自身、男性と面識があった経験は中学3年生の時に学校にやってきて講堂で話をしてくれた50代の男性特任教諭だけである。
面識と言っても、講話は数百人の全校生徒がまとめて聞かされたので、春香からは講演台で話す男性は遠すぎてよく分からなかった。
春香は生まれて初めて反応した美少年センサーが告げるがまま、反射的にキッチンカーを出て声の方向に向かった。
大柄な成人女性と、未成年らしき男女3人の合計4人組だ。
トボトボ歩いている姿はいかにも元気がなさそうだ。
「オレは今すぐ何か美味しいものを食べないと、死んでしまうのだ!」
叫んでいるのは、ビックリするほど美麗な少年だ。なぜか頭に猫耳が付いている。
そしてコスプレっぽいクラッシックな軍服のようなものを着ている。
春香には軍服の知識はほぼないが、似たようなコスチュームを昔の戦争を題材にしたアニメで見たことがある。
猫耳少年の傍らにいる180センチを超える長身の女性も、コスプレっぽいクラッシックな軍服のようなものを着ているが、だいぶ簡素化されている。
猫耳少年が貴族か上司で、長身の女性は騎士か部下というコスプレ設定だろうか?
しかしどちらも仕立てがとてもよく、生地も高級品に見える。
実は2人が来ているのは元世界での貴族服と騎士服なのだが、春香がコスプレと間違えたのは当然のことだった。
逆に残る2人はファンタジー系アニメでは定番の、お金のない旅人のような恰好をしている。
分厚そうな生地のハーフパンツに、ゴワゴワしてそうな生成りのシャツ。足元は手縫いで作ったような汚れた革のブーツだ。
しかも軍服コスプレの2人が手ぶらなのに対し、少年と少女は大きな荷物を背負っている。
近代的なバックパックではなく、継ぎだらけの大きな麻袋を革で補強して持ち手を無理やり付けたような荒い造りだ。
服も荷物袋も手作り感満載で、ファンタジー系コスプレとしては非常に完成度が高いように思えた。
「これって何かの撮影かな?」と思って、春香はキョロキョロと周りを見回したが、他に人影はない。
平凡な教育を受けてきた春香が、生で年若い男性を見たのはこれが生まれて初めてだった。
しかも2人もいる。ちょっと釣り目で勝気そうな猫耳少年と、優しげに微笑むそれより年下で優し気な少年。
どちらも美しく健康そうで魅力的な美少年たちだ(春香基準)。
見ているとクラクラして息も続かないのに、2人から目が離せない。兄弟だろうか?
「あ、あのう、残り物でよろしければサンドイッチをご馳走しますが、いかがでしょうか?」
春香は思わず口に出した。
すると次の瞬間には、いつの間にか眼前に来ていた猫耳少年に腕をつかまれていた。
「ほう、食べ物をご馳走してくれるのか?金は持ってないが本当にタダでいいのか?」
『だ、男性に触られているっっっ!』
猫耳少年は春香よりちょっと背が低い。しかし意外と力が強い。握られた腕の部分がビクビクする。ビクビク?
しかも何かいい香りがする。シャンプーやソープのようなケミカルな香りではなく、本能に訴えてくるような良い匂い。
この空気をずっと鼻から吸っていたい・・・。
「どうなんだ?タダで飯を食わせてくれるのか?」
「・・・は、はひ」
それから春香は4人を公園のベンチに座って待ってもらい、キッチンカーに急いで戻って余った具材でサンドイッチを作り始めた。
ロールパンに切れ目を入れてトースターで温め、からしマヨネーズを内側に塗ってスライスしたキュウリと玉ねぎ・レタスを挟み込む。
最後に薄くカットした生ハムを2枚、挟み込めば生ハムサンドの完成となる。
紙製のパックに入れた生ハムサンドをとりあえず8個作り、小さなトレーに並べて4人の前に持っていく。
猫耳美少年は輝くような笑顔をして、両手で遠慮なくサンドイッチ2個を取った。
続いて黒髪の美少年がまず1つ取って隣にいる少女に渡し、もう1個を自分用に取った。
「変わった食べ物だな。これはどうやって食べるんだ?」
「紙の包みを外して、そのままガブっと食べちゃってください」
猫耳美少年の質問に、春香は『なんか生まれて初めてサンドイッチを食べるみたいな反応だな』と思った。
「おう、うまい!これは美味いな。
パンは柔らかで甘く、中の具材も新鮮で味が濃い」
「どんどん食べてくださいねー。どうせ古くなったら捨てる予定だったので」
「とても美味しいです。ありがとう」
特に若い3人は本当にお腹が減っていたようで、生ハムサンドをバクバク食べた。。
サンドイッチを作り終えた春香は改めてベンチに座った4人を見る。
少年の2人は黒目・黒髪だが顔つきが大和人とは少し違う。外国の血が入っているのだろうか?
少女は少年2人より少し年上に見える。2人の姉だろうか?
明るい茶髪に碧がかかった瞳で、こちらはどう見ても大和人には見えない。
「ご馳走していただき、ありがとうございました。
ボクたちお金を持ってなくて、本当に困ってました。
ボクはレオナ。こっちがリオンで、こっちがディセリーヌ。
2人の・・・姉です。そしてこちらがラフラカーンさんです」
『ほーボクっ娘なんだ』と春香は最初に思ったが、レオナの意外としっかりした挨拶に驚いた。
ファンタジー系アニメの旅人のような恰好も相まって、外見はとても大和人に見えない。
しかしレオナが話す大和言葉は流暢で、なんの違和感もなかった。
『でも姉って言うときに、言いよどんだような気がしたけど、気のせいかな?』
ラフラカーンと紹介された女性は、無口なのかペコリと頭を下げただけだ。
だがその所作は美しい。
背も高い。180センチは超えているのではないだろうか。
長い銀髪に青い瞳をしている。
猫耳美少年のディセリーヌからは「死んだゴブリンのような目をしている」と言われているが、良い方向に補正のかかった春香にはクール系の美女に見えた。
姿勢も良く、コスプレっぽい古いデザインの軍服のようなものを着て腰には細めの剣を下げているのでファンタジー系の物語に出てくる騎士のようだ。
『この人は護衛役なのかな?男性にはボディーガードが付くって聞いたことあるし』
春香が作ったサンドイッチは猫耳の少年が結局5本を食べ、レオナとリオンが3本ずつ、ラフラカーンは1本だけ食べた。
「この果物の汁も美味いな!」
「ははは、濃縮還元のオレンジジュースですが・・・よかったらお代わりをどうぞ」
オレンジジュースを紙カップに注ぎ終わった春香の腕を、猫耳少年がむんずと掴んで囁いた。
「それでな。オレたち4人は今晩寝るところもなくて本当に困っているのだ。この公園とやらで野宿しても大丈夫か?」
見れば、猫耳少年は「本当に困っているんだ」という顔で猫耳をペタンと伏せ、悲しそうな上目遣いで春香を見ている。
『・・・うっ!』
春香はその視線にまず、ハートを打ち抜かれた。
男性に頼られている、という経験は春香の28年間の人生でこれまで一度もなかった。しかもこんな美少年に。
春香は体の芯がズムズムズムと音を立てて震え出すのを感じた。強烈な母性本能の発露である。
娘を出産したとき以来の昂ぶりだ。
またそれと同時に、驚きと憤りを感じた。
そもそもこの国では若い男性は保護対象であり、超VIP待遇でどこかにある国営の管理施設で守られているはずである。
そんな国にとっての重要人物がお金も持たず、宿もないとは信じがたい。
いったい政府は何をしているのか?
確か男性保護局とかいう怖い役所があると聞いたが、こんな状況を放置しているのか?まさか敵なのか??
男性に縁がなさ過ぎて逆に男性保護の知識に欠けている春香は、暮れ沈む夕日を見て「とりあえず私が何とかしなくちゃ」と覚悟を決めた。
それは半分は猫耳美少年となったディセリーヌの心理魔法による誘導だったが、術をかけられた本人は知る由もなかった。
「そ、そのもしよろければ我が家にお招きしますが、いかがでしょうか?狭い家ですが・・・」
「おねえさん、ありがとう!」
上目づかいで嬉しそうに微笑んだ猫耳少年に両手をぎゅっと握られ、春香はまたハートを打ち抜かれて「ううう・・・」と胸を抱えてしまう。
猫耳少年は顔だけくるりと背後の3人に向け、『ケケケ、ほらこんなもんだ』とでも言わんばかりの悪い笑顔を浮かべたが、呆れた顔をしたレオナからゴチンとゲンコツを落とされる。
「あのう、本当に家にお邪魔しても大丈夫ですか?」
「だ、だいじょうぶでふ。
あ、ウチには小学4年の娘が1人います。
物分かりがいい子ですが、初めて男性にお会いするので少々うるさくするかもしれません。
それでもよろしければ・・・」
「オレは気にしないぞ。小さい子供は好きだしな。
リオンも大丈夫だろ?」
リオンもにっこり笑って頷く。これで決まった。
春香は4人をキッチンカーに載せて、家路を急いだ。
運転中に後ろでディセリーヌが「この馬なしの馬車は凄いな!」と驚いた声を出していたようだったが、春香は「ファンタジー世界から転移してきた設定なのかな?」と気にしないことにした。
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芹根夏輝は、小学校4年生。
学童保育に迎えに来てもらった母・春香の様子が少しおかしいことに気づいた。
夏輝は子供心に母親が仕事で苦労していることを知っている。
『キッチンカーで今日なんかあったのかな?』
「なっちゃん、お迎えが遅くなってごめんね。
あと急な話だけど、今日ママのお友達をお家に泊めてもいいかな?」
「うん、別にいいよ。ご飯食べる部屋で寝てもらうの?」
「それはあとで考える」
夏輝が母と暮らす小さなアパートは、狭いダイニングキッチンと夏輝と春香それぞれの小部屋しかない。
2人で歩いて帰り、ほどなくアパートに到着した。
低所得者向けのいわゆる団地で、エレベーターがない5階建ての4階にある部屋に春香と夏輝は2人だけで住んでいる。
夏輝は人工授精で授かった子なので、法的な父親はいないが大和神国では春香のような家庭は一般的だった。
我が家のドアを開ける前に、春香は夏輝に念を押した。
「なっちゃん、あのね。ビックリしないでね。あと悲鳴とかも上げちゃだめよ。うるさいからね」
春香の妙に真剣な表情を見て、夏輝は『なんでそんなことを言うのかな?』と不思議に思った。
まずます変だ、と思いながら夏輝は頷いたのだが・・・
意を決したように春香がドアを開けると、そこには見たことのない美少年2人が立っていた。
「「おかえりー」」
「きゃーーーーーーーーーーーーっ!!」
美少年2人に出迎えられ、夏輝は驚きのあまり絶叫した。
貞操逆転物が好きだったので、自分でも書き始めました。
属性テンコ盛りですが、なんとか・・・なると思います!
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