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大戦②

 ラルクは考えていた。

 獣王が倒され、バートルが戦の責任を取って自刃し、一つの地域で戦いが終わった。


 ……なにがさてバートルは死んだ。


 目の前にいたのに、止められなかった。


 全人類を救う。どころか目の前のたった一人の人間さえもむざむざと死なせたわけだ。


 ただ一人の犠牲で戦争が止まったのは、確かに僥倖だったろう。だがそれでも、彼の目指す理想はさらに遥かな彼方にあるわけだ。


「……力や経験が足りていなかったから、バートルさんを死なせたんだ」


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 力は十分であった気がする。経験則は、あくまで『則』だ。傾向以上のモノを提示してはくれない。


 何かもっと根本的に、足りていないモノがある気がした。

 

 さらに彼は、獣王国の兵士のうち、決して少なくない者が自殺するのを見た。王が敗れた無念からだろう。

 命はかげがいのないもののはずだ。だが人はたくさんいるのだ。そうでない人間だって、それなりに出てくる。

 

「……」


「……前に、進まなきゃ」


「ヴェートを襲ったのは獣王国じゃなく、帝国だ。早く、いかないと」


 漠然とした暗がりの荒野が、眼の前に延々と広がっている。

 水を求めて当てもなく彷徨うが、そこには淀んだ水たまりしかない。水たまりの水を痛苦と共に飲み干せば、また次の水たまりを探す旅が待っている。


 






 灰の世界。あれほど豊かだった緑は、今はなく。

 腐臭と煙の香りが鼻をつんざく。


 赤髪の少年はただ一人、果てなき死地に立ち尽くしていた。


「……そん、な、」


 これがあの、貧しかろうとも美しかったバクフーだというのか?ラルクが震えていると、向こうから声が聞えてきた。


「おも~、もっと強く引っ張るんだよ!」


 バッと彼はそちらを向く。するとそこでは、倒壊した家の柱の下敷きになった小さなおもと、それを引っ張ろうとしている二人のおもがいた。


「でも、強く引っ張ったら小おもは死んじゃうかもしれないんだよ!!」

「おもーっ!!」


 小さなおもの方は、まだ息があるようだったが明らかに衰弱している。

 あれはおもたちでは助け出すのは無理だと、ラルクは悟った。


「待ってて、今、」


 行こうとすると言おうとして、ラルクはさらに数十メートル先、おもたちがいる家の向こうで、虎獣人の少女が倒れているのを見た。

 こちらもまだ息はあるのだろうが、胸から血が広がり、手当てをしなければ死は目前だった。


「……っつ、」 


 人は死ぬ。死んでいく。

 これが戦争で、そしてこの光景は昨日も今日も明日も、1000年前も1000年後もきっとあったのだろう。


「……どうすれば、いいんだ、」


 分からなかった。見えていないだけで、何百何千何万人もの人が傷つき、今にも死そうとしているのだろう。

  

 騎士のラルクに、この惨状をどうにかする力はなかった。

 

 小おもを助けに、民家跡に向かった。

 衰弱していたもののなんとか小おもは助かった。


 その後ラルクはヴェートを占領していた帝国軍を追い返し、500人弱の人々を救助し、獣王国から大量の支援物資を持ってきた。


 そして虎獣人の少女は……、救助が遅れたために出血多量で死亡した。

 一方小おもはなんとか一命をとりとめた。

 

 ラルクが選び、生かし、殺した。

 そうしてそれが、最も致命的だったのだ。

 全ての試練を越え、聖絶と同類になった。


 体内に満ち満ちる力を感じるとともに、彼は一抹の虚しさを感じた。


 テーゼンシアは息子を救えなかった。 

 リシディアクォートは敗死した。

 ヴァスクは何一つ成し遂げられなかった。


「捻じれ曲がった道は、目的地に続いてはいない」


「そして目的地が端から存在している保障も、ないのかもしれない」


 冷たい光を帯びた赤の瞳が、前を見つめる。

 冷たい光を帯びた赤の瞳が、前を……。





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