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七冠聖絶

「……これで最後の世界か」 


 赤い髪の少女と青い髪の少女が、滅びの訪れた後の世界、小さな廃公園を外から眺めながら、ぽつりと呟く。


「五冠聖絶計画、いや、今は七冠聖絶計画か。ともかくそれも、終わりを迎えつつある」


「……『選別』のテーゼンシア。今に至って漸くアレの企みに気づくとは、失敗したな。つくづく私の頭は使えない」


 彼女はつまらなそうにそう言って、空を見上げる。青い空。一見すればのどかな風景に見えたかもしれないが、もはやこの世界に魂はない。


 ……聖絶計画。人に試練を乗り越えさせ、英雄を作り出す計画。そしてその者がいた世界の崩壊後は、聖絶のメンバーとする計画。

 聖絶には、その目的は世界を救うことにあると伝えていたが、実際は少し違った。


 実際の目的は、()()()()()()()()()()()()()を齎す怪物を、倒すことにあった。

 

「世界はいつか滅ぶ。滅んだ世界には、魂は存在しない」


「……でもその魂は、世界などという括りよりもさらに大きな何かを廻っているだけだ。決して本当の意味における、終焉ではない」


「予感がした。世界を終わらせる怪物が現れると。なぜなら一度完成されたものは、すべて崩壊に向かって行くのだから。創造と破壊は一体なのだから。そして実際、それは現れた」


 彼女は少し前のことを思い出す。



『こんにちは、神様さん』


 その濁った瞳の少女は、聖絶を探して旅をしていたリシディアの前に現れた。


『君は誰だ?寡聞にして、私は君のことを知らないが』


 そうは言いつつも、一目で彼女が人間といった括りを遥かに超越していることは分かった。

 英雄のグルディオクラッチは、数百年間その肉を枯れた星の者たちの生きる糧として供与しつづけているが、彼女は彼よりもさらに人間から乖離していると断言できた


『私はテーゼンシア。向こうの世界で最強の騎士ですよー』

『人の身で世界を渡ったか。……ん?待て、騎士がどうやったっていうんだ?」

『騎士が本業なだけで、本当に頑張ったのは魔法なんですよ。朝も夜も、寝る間も惜しんでずっと練習しつづけたんですから』


 リシディアは苦笑する。

 そう言う割に、明らかに彼女の本質は暴力にこそあったからだ。


『それで。聞きましたよ。五冠聖絶の計画を』

『……どこでそれを、と聞くのは野暮だね。君なら分かる』

『どうかそれに私たちを、入れてくれませんか?』


 眼をにっこりと三日月形にし満面の笑みを浮かべて、彼女はそう言ってくる(その濁った眼が見えない時のみ、彼女は純粋な女性のようにも見えた)。

 ……実のところ、リシディアはテーゼンシアを聖絶に入れたくはなかった。仮にも『聖』絶。邪悪を入れるのは、気が引けた。


 だが終焉の予感を感じていた彼女からすれば、テーゼンシアという戦力は酷く魅力的だった。

 

『いいだろう』


 だから彼女は頷いた。

 ……リシディアの予想した、終焉は彼女こそが齎すのだと気づくこともなく。




「魂が、失われている。どこかに行くのではなく、失われている」


 彼女は呟く。


「世界樹を蘇らせるのに、使われているんだ」


 世界樹。その名の通りかつてそれは、すべての世界に幹を巡らせていた。そうして五つの世界を一つに繋ぎとめていた。

 

「おそらく目的は世界を創造し、すべてを支配すること。究極の秘宝、世界樹の花の魔力があればそれも可能だ」


「強大な存在を生み出すことを目的とした聖絶計画は、君にとっても都合が良かったんだろう。世界に存在する全ての魂を集めても、なお世界樹は蘇らないから」


「となれば、君にとっては私も標的の一人だ」


 そう言ってリシディアは、廃公園の入り口から中に入った。


「君の不意打ちは避けられないし逆に君を不意打ちすることもできない。これはもう、純然たる技量の差があるからね」


「だから私の方から来たよ。最強の騎士、――テーゼンシア・ロウ」 


 相対するは、淀んだ眼の騎士服の女性。

 風が吹く。赤と青と銀の髪が風に揺れる。

 世界の趨勢を決める戦いが、今始まろうとしていた。







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