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ロード・オブ・エリクシル  作者: ナムル
第二章 大地の涯
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錬金

 臙脂色の絨毯の敷かれた、大きな部屋。壁は金の装飾が施されていて、シャンデリアは蒼の宝石でできている。

 そんな豪勢な部屋の中、天蓋のベッドに座って、青髪の少女が何かを考えていた。


「アルマ・ヴェゼガは山を登っている頃か?」


「頂上に至るのもそうだが、青の輝水を持ち帰るのも並大抵のことではない」


 彼女は手元にある羊皮紙を眺めていた。


「極めて重い輝水を持ち帰るには一旦錬金するしかないが、錬金難易度は基本的には素材の()に比例して上がる。いかに天才アルマといえども至難の業だろう」


「……とはいえ、貴君が失敗したなら国外の錬金術師に頼るしかないぞ。帝国か、魔王国か」


「アルマ以上の錬金術師。()()()()()()()()()()()、金を使っている余裕はないというのにな」 




 その頃アルマは青の輝水で満たされた池を前に、適当な魔石と共に錬金を始めようとしていた。

 マナを手に集約させる。


「やるか」


 彼は魔石に水を練り込むようなイメージを浮かべながら、マナを流す。流水の絶えず流れるが如き、詰まりのないマナの流れ。

 

「マナの流れは均等に、かつ大量に」


 魔石と水の融合が急速に進む。ところが途中で、目に見えて融合の速度が遅くなる。


「……これは、融合限界か?いや、違うな。不純物のせいで、融合できないんだ」


 しかし彼は一切焦っていなかった。


「ならばそれを取り除く」


 錬金は『一つ』の素材と魔石を合わせて物を作る技術だ。その素材の一部としてよい場合を除いて、少しの埃が混ざっているだけでも錬金は進みにくくなる。


「水に囲まれている以上、燃焼法は不可能。なら、」

 

 ぴっと、一瞬だけ指を差し入れて空中に幽かに浮かぶ塵を掬った。


「残りは練るだけか。まあこれが一番難しいわけだが……、」


「これだけは、得意だからな」


 それから先は一瞬であった。神速の錬金。彼は一切の苦のなく淀みもなく、高難易度の錬金を終わらせて見せた。

 彼と戦ったアストラフィアの読みでは難しいはずだったが、あくまでアルマは戦闘者ではなく錬金術師である。

 彼の錬金の実力は、彼女の想像をはるかに超えていた。


「……たぶん姉さんなら、入山さえできれば簡単に手に入れられたんだろうな」


「まだまだ精進が足りん」


 されど彼は、少しも慢心しない。目指す場所が、錬金の頂き(エリクシル)であるからだ。

 前に進む、今日も明日も明後日も。


 一息ついている暇はなかった。

 下山に十分な体力はある。


 彼はバッグの中に青の輝水の練り込まれた魔石を放り投げて、それを背負って立ち上がって、

 

「さて、降りるか」


 そう呟いた。美しくも寂しい山頂の湖畔に声が響いた。










 降りる際は楽だ。エネルギーが低い状態から高い状態に行く登りと違い、下りでは体力を使いにくい。しかも呼吸が荒くならないからオゾンの影響も小さい。

 あらゆる要素が都合がいい(上りのあらゆる要素が都合悪いとも言うが)。降りは膝を痛めやすいが、当然アルマなら自重程度では問題ない。

 上りで苦戦した崖も、壁を伝って降りることができる。


 果たして彼は、すでにラルクたちの場所まで半分ほどの所まで降りていた。


「万が一、憶が一まだ戦闘が続いていた場合に備えて、急がねばならんな」


「……生きていろよ」


 仮面の下の表情は分かりにくかったが、心配しているようにも見えた。

 それから約10分。ラルクが負けて、黎音が勝った場合は近づきすぎるのも危ないので、彼らの元々いた場所を遠くから見下ろす。

 見下ろして、


「……!」


 数百メートル下。平坦地にて、雪のような色の髪をした少女と、橙髪の少年が座って話していた。心なしか、黎音の方も楽しそうに見える。


「……勝ったのか」


 その声には驚きも混ざっていた。


「勝ったのか!」


 実際は、ラルクは敗北した。黎音から回復魔法を受けたとはいえ未だに怪我は重く、完治させるにはそれなりに長い期間が必要だろう。

 ただそれでも、ラルクは黎音を救い出した。アルマは高度のために雲一つない蒼天を見上げて、呟いた。


「奴の夢、」


「本当に叶う日も、来るのかもしれんな」




 

 少しして、アルマはラルクたちと合流した。

 輝水を取ってこられたぞと言うと、ラルクは顔を輝かせた。


 残りは下山して、王国まで輝水を持っていくだけ。


 何事も無ければいいがと、アルマは思った。

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