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ロード・オブ・エリクシル  作者: ナムル
第一章 旅路の始まり
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仮面の意味・上

 アルマはラルクと一日の鍛錬を終えて別れた後、王都の中心市街の方、王立図書館に来ていた。国どころか世界で見ても最大の規模を誇る三階建ての図書館。

 

 彼は受付で入館料の800ゴールドを払い中に入ると、迷うことなく右に曲がり、最近の本のコ-ナーに向かった。

 そこには直近1年の本だけしかないというのに、棚四つ分もの書物があった。


 ……余談だが本を量産する手立てが高度な魔法以外にない以上、本はほぼ全て手書きであり、一般人の手に入れられるモノではないため、アルマはたびたびこの図書館に来ている。


「……っと、これか」


 そして彼はさしたる労力もなく、両腕で抱えるサイズの本を抜き出した。臙脂(コチニール)の赤を基調とした美しい装本で、タイトルは『翼暦2013年の出来事』、作者は不詳であった。


「何度見ても、奇怪な本だ」


 この本には一年にあった、世界情勢にかかわる大きな出来事と、魔法の発展に関することが書かれている。ちなみに今はまだ、翼暦2014年6月半ばである。


「まるで、世界そのものが記録を残しているようにすら思える」


 彼は試しに7月のページをめくってみるが、そこには新しく生み出され、人口に膾炙したある火属性魔法に関する情報しか書かれていなかった。

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「グローリー王国、つまりここは一応、五大国に区分されているはずだ」


 五大国。すなわち王国。帝国。獣王国。魔王国。龍王国。

 王国は人類と亜人すべての勢力の中でも、おそらく2、3番目に大きい勢力だ。

 その国家の王位争奪戦が終わったことは、世界的に見ても相当に大きな出来事なのではないのだろうか。

 そんな重要なことが書かれていないのに、一方で新しく開発された魔法については、見開きページを使って解説されている。


 だから事件についてはほとんど書かれていないのかと思えば、次のページには零細貴族の長男が死んだことが書かれている。


「……まあいい。妙な話だが、どうでもいいことでもある。探すか」

 

 彼はぺらぺらとページを捲っていく。素早く、しかし情報を見落とすことのないように。

 この行為は、悲願を叶えるために必要なのだ。


 悲願を、叶えるために。



 



『また失敗したの?』


 黒髪を腰まで伸ばした少女が、少年にそんなことを聞いていた。それに少年は、とぼとぼしながら頷いていた。


『まったく、しょうがないわね。私が見ててあげるから、もう一度やってみなさい』


 彼女の名前はアルテラ・ヴェゼガ。小さな村から出なかったために名こそ知られていないが、おそらくは世界一の錬金術師であった。

 彼女はたどたどしい手つきで黄の魔石と青い葉を混ぜ合わせる少年を、ただ座って見守っていた。


 途中、彼女は彼を制止する。


『失敗した原因はこれね。ここで魔力が均等に行き渡っていないから、薬の効能が著しく弱くなってる』


 そう言うとアルテラは、彼の前で錬金ガマに手を振れて、魔力を流して見せた。

 ぽわあと、淡い緑色の光がカマを満たしていく。少年は、どうして彼女の錬金は美しく見えるのかと、子供心に不思議に思った。



 ヴェゼガ。始まりの錬金術師アルジール・ヴェゼガの末裔。しかし少年に才能はなかった。

 魔力量も並み。頭脳も並み。錬金の特別なセンスがあるわけでもない。


 そんな彼はふと、自らの姉に弱音をこぼしたことがあった。自分には才能がないのだから、錬金術師になる意味はないのではないかと。


『苦しいかしら?』


 少年は首を振った。


『錬金よりやりたいことがあるのかしら?』


 少年はまたも首を振った。すると彼女はにっこりと笑って、


『なら進みなさい。人には『責任』がある。より多くの人を救わなければいけないという、責任がある。それは決して人に押し付けるべきことでもなければ、絶対に正しい事でもないけれど、あなたはその責任を背負うべきだと思う』


 少年は、それはなんでなのかと聞いた。


『決まっているでしょう。あなたがそれを、望んでいるからよ』


 このとき彼は、責任がどういうものであるのかを理解した。













 ……。

 そんな物思いをしながら、5分後。

 

 彼は仮面の下に険しい表情を隠しながら、本を閉じた。

 少しして、ゆっくりとため息をつく。


「やはりといえばやはりだが、開発されていないか。……エリクシルの作り方は」


 アルジールが作ったとされるエリクシル。それは無くなった手足に一滴落とせばたちまちに四肢は再生し、飲めばどんな重い病も完治し、挙句亡骸にかければその者は直ちに蘇るという、究極にして至高の霊薬だった。


「……まあいい。凡才であろうと俺が、作り上げるしかないことは分かっていた」


 彼の双肩には、責任の重しが聳え立つように乗っかっていた。


「一応作り方は分かっている。超高性能の錬金ガマと超魔力の魔石、そして青の輝水と世界樹の花が必要だが」


 アルジールの残したレシピ。ただ世界樹は4000年前、アルジールがエリクシルを作るために花を取った時に枯れたという。


 世界樹は太古より幾つもの世界の中心に位置し、人の魂を吸うことによって育ってきた大木。蘇らせるにはこの世界の人間だけでは到底足りぬほどの量の魂が必要である。

 さらにそれだけではなく、至上最高の錬金術師たるアルジールですら、この錬金は二度とできない至難の業だと語っていた。


 この図書館に無数に積み重なった、重厚なる知識の結晶たち。その頂点に、エリクシルは君臨している。


「……何度考えても、いばらの道だな」

「何がいばらの道なのだ?」

「そりゃ、エリクシルを作るのが、……っ!!」


 バッと、彼が素早く振り向く。

 

 高い、それでいて芯の通った美しい声。

 この声を彼はよく、知っていた。


「なるほどなるほど。まさか貴君の目的がそれにあったとはな。兄上に与するわけだ」

「……兄上、と組む?いったい何のことでしょうか」

「とぼけるでない」


 青い髪に青い瞳の、アルマより少し低い少女。

 女性的な起伏にとんだ肉体と品のある顔立ちに青を基調とした美しいドレスが目を引くが、おそらく彼女の最も特徴的で、象徴的な場所は頭の上にあった。


 すなわち、絢爛たる黄金の王冠。


「アストラフィア王女殿下」

「貴君が第一王子の最後にして最強の駒、錬金術師アルベルトであろう?」


 彼女の名前はアストラフィア・グローリーソード。学園三傑の一人にして、この国の次期国王にして……、そしてアルマが、かつて敗れた敵であった。






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