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ロード・オブ・エリクシル  作者: ナムル
第一章 旅路の始まり
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第一王女

 大陸の北西部に位置するグローリー王国は、翼暦438年建国の歴史ある大国である。臨海しているために一年を通して比較的温暖で、大気中の魔力が水属性に偏っているために野菜や米が主な作物となっている。


 この国は帝国と魔王国に次ぐ軍事力を持つがゆえに平和で、土地が肥沃で温暖な為に民族の気質もマシなので、国民の平均寿命が58歳と世界最長になっている。

 ただし、寿命が長いのはあくまで全体としてみればで、とある身分の者に限れば平均寿命は世界でも最も短くなる。


 ()()。この国の王族の平均寿命は、1()4()()に満たないほどだ。死因の殆どは暗殺。


 この国の初代国王は、ノブレスオブリージュ、高い地位には高い責任が伴うことを語った。

 

 曰く、王が無能であれば千万の民が苦しみ、百万の民が死ぬことになると。

 ゆえに彼は30年に一度、年にして10を超える王の子が最後の一人になるまで殺し合い、最後に残った一人が王になることを定めた。


 その悪習とも言える法は、今もなお残っている。

  

 そして今アルマの眼の前にいる青髪の少女こそが、その殺し合いの最後の生き残りだ。

 

 アルマは知っている。

 第一王子が殺害された後、彼の陣営の者たちがどのような末路を迎えたのかを。


 アルマは必至に、自らの動揺を悟られないよう抑え込む。


「まさか、敗れて逃げた後、こうしてのうのうと王都に戻ってくるなどと思わなかったぞ」

「……何をおっしゃりますか。私めはアルマと申します。王女様の人違いでございましょう」

「ふむ、私が間違っていると?」


 きょろりと、光のない青い瞳が覗いてくる。コイツはそういえば傲慢で残酷な奴だったなと、アルマは顎から汗が垂れるのにも気づかずに、


「王女様のご慧眼とあれど、人違いくらいは起こりましょう。私めのような矮小な存在は、目を凝らしてようやく見える程度でございますから」

「ふふっ、冗談だ。私が間違っていたその時はおとなしく認めるさ」

「はは、それはそれは面白いご冗談で」

「貴君がアルベルトであることは間違いないがな」

「……ッツ!!」 


 アルマは目線は逸らさずに、アストラフィアの背後の男たちを観察する。

 三人とも、かつて王宮で見たことがあった。近衛騎士団の者たちだろう。


 精鋭ではあるのだろうが、それでもアストラフィアよりは劣る。かと言って、本棚を背後に囲まれている以上、逃げられるかどうかは分からない。 


「おっと、拳に力が入ったな。なぜだ?」

「……何のことで」

「まあ、無意味な問答はやめよう。私は貴君が極めて優れた知力を持っていることを知っている」


 と、そこで彼女に無理矢理にあごを掴まれて、目を合わさせられた。 


「この仮面を脱ぐと良い。それですべては明らかになるのだ」

「……」

「構わぬだろう?貴君がアルベルトでないと言うなら、潔白を証明してみるといい」

「……」

「疾くせよ。殺すぞ?」


 アルマの仮面は、自らの正体をアストラフィアから隠すためのモノでもあった。

 ただ、強力な仮面の魔法使いがいるという噂が、彼女の元まで伝わってしまったのだろう。仮面は逆効果とまではいかないが、失敗であった。

 

 そして彼女はアルマが仮面を外すのを躊躇ったことで、確信したような表情を浮かべていた。


「くくっ、貴君にはそれなりに、煮え湯を飲まされたからな。予定調和のように勝利するはずだった王位争奪戦、まさか貴君一人にあそこまで追いつめられるとは思っていなかったぞ?」

「……なるほど。そのアルベルトという男からすれば、殿下は王子様を殺した仇なわけですからね。優秀な魔法使いが敵になるかもしれないなら、貴女様としては殺しておくに越したことはないでしょう」

「それは」

「いいでしょう。見せたくはありませんでしたが、仮面を取ってこの顔を晒すこととします」


「……なっ!!?」


 まさか彼が仮面を取るとは思っていなかったのか、彼女が動揺する。

 アルマはポケットに手を突っ込んだ後、自らの仮面に手を当てた。アストラフィアは、半身になって、


「……騎士たちよ、あの男はひどく狡猾で頭の切れる男だった。油断させてから逃げる可能性があるゆえ警戒せろ」

「逃げませんよ」


 右手で仮面の端を掴む。ゆっくりと、仮面が取り外されていく。


 そうして彼の顔が明らかになったとき、王女は思わず瞠目していた。



「見苦しいでしょうが、お許しください」


 そこには火傷で肌がケロイド状になり、爛れに爛れ切った醜い顔があった。

 眼の上の皮膚はどろんと垂れ下がり右目を覆っていて、頬の上側に黄色いゼリーのようなものがくっついている。


 その顔は明らかに、王女の知るアルベルトのものとは異なっていた。火傷をしたからというだけではない。目のパーツや鼻の高さが明らかに彼女の記憶のものと違う。



「……ふむ、」


 そのあまりに痛々しい姿に、護衛の騎士たちは眼を背けるか、憐れみの眼を向けるかといった反応を見せる。

 アストラフィアだけは、彼の瞳を覗き込んで、 


「……どうやら、別人のようだな」

「は、はいっ。そうでございまする」

「思えば奴の声は貴君より少し高かった。手間を取らせたな。……行くぞ」


 彼女はそう言うと、踵を返して、図書館の奥の方に消えていった。

 アルマは仮面を着けながら、図書館の外に出ていく。



 ……そして、しばらくして。


「危なかったな」


 アルマは宿の自室に戻ると、顔をぺりぺりと剥がす。その下には、全く違った顔があった。


「この出来で騙せるかどうかは怪しかったが、まあ火傷の顔などそうは見るまい」


 魔法とはイメージで、錬金術は魔法である。アルマは錬金術により高い精度で火傷の人間の顔を再現していた。


「予想通りというか、王女が釣れたな。やはり奴は、俺を狙っていたか。とはいえこれで、嫌疑は完全に晴らせた」


「これでしばらくの間の課題は、ラルクを大会に優勝させることだけになったな」


 












 一方その頃、図書館の奥では。


「しかしあの男、一体何者なのでしょうね」

「む?」

「あれほどの魔力量を持った者で私が知らない者など、そうはいないはずなのですが」


 若い騎士の一人がそんなことを呟く。

 それにアストラフィアはきょとんとして、


()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「えっ?でもさっき、顔が違って」

「顔などどうにでも変えられる。整形手術でも、魔法でも、メイクでもなんでも。ただ瞳の奥の、魂だけは変えられぬ。あの静かに煌めく黒の瞳、あやつはアルベルトだ」

「!?それではなぜ、あの男を解放したのですか!?」


 騎士が驚愕して、そんなことを聞く。

 ただその質問にも、彼女は当然のように、


「奴はただ一人でこの私を窮地に追い込んだ化け物だ。この戦力では、奴に勝てる可能性は()()()9()()()()()()()()。だからあやつには、油断してもらうことにした」

「油断って、」

「あやつの策はこうだ。怪しい仮面で疑わせて、さらに躊躇うことで疑いを高めて高めて、最後に顔を見せることで嫌いを一気に晴らす。こうすればあれだけ疑わしかったが無実だったのだからなと、後日また疑われる可能性が減る」


 そしてだ、と彼女は言った。

 

「見事に策が上手く行った人間は、有頂天になる。その策が完璧であればあるほど、効果が明らかであればあるほど、自らの策の成功を疑うことがなくなる」

「……!!」

「あやつの頭からはもう、私の脅威は抜け落ちておろうよ。おそらく大会の景品を得ることを目的にラルクという男を鍛えているのだろうから、大会までは奴は国にいる」


 してやったりと言った風でもない。アストラフィアはあくまで自然体で、本のページを捲りながらそんなことを話していた。


「次は確実に勝てる戦力で行くぞ」

「……!!」


 相手の真理を理解し逆手に取る知力。

 宿敵を見逃す胆力。

 徹底したリスク管理。

 これが、次代の国王アストラフィア・グローリーソード。


 他の長年アストラフィアに付き従ってきた騎士たちが顔色も変えず話を聞いている中、若い騎士はただただ、自らの主君に戦慄していた。



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