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ロード・オブ・エリクシル  作者: ナムル
第一章 旅路の始まり
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特訓第二段階

 あれからさらに2週間。1728戦目。


「うおおおっ!!」


 ラルクが縦横無尽に剣を振るう。

 アルマはそれをなんとか躱しているが、反撃には移ってこない。いや、移れない。


「どうだっ、アルマァっ!!」

「倒されないだけで喜ぶな」

 

 次の瞬間、アルマが姿勢を低くしてタックルに移った。

 このタイミングのタックル、剣は間に合う。

 

 しかし、


「重心が高過ぎる、つまりフェイク!」

 

 アルマは重心を後ろに倒し、股間蹴りに移行した。

 同時にラルクは突きを放つ。


「……」

「……」

「うおおおおおっっ!」


 そしてラルクは雄たけびを上げていた。

 眼の前では木剣が、アルマの胸に突き付けられている。


「勝った、初めて勝ったぞ!!」


 見事彼は、難敵アルマの胸に木剣を突き付けて見せた。

 1727敗1勝。数値にすると惨憺たるものであったが、それでもこの戦績は、彼にとって輝かしいものであった。


「よくやったな。これでこの訓練は終わりだ」

「免許皆伝ってやつか!」

「目に関してはな。……しかし実際は、目の訓練すら終わらずに大会に突入すると思っていたぞ」


 アルマは語る。自分の話した訓練のスケジュールは、あくまで理想だったと。


「まさかその理想よりも二か月も早く終わるとはな」

「アンタの教え方のおかげだよ!」

「いや違う。お前が凡人なりに、無能なりに努力したからだ」


 アルマに勝つとともに、彼に褒められて?ラルクは嬉しい気分になる。

 そのままお祝いでどこか行こうかとも思って、



「これで、魔法を出し渋っている学園三傑相手なら、勝てるようになったわけだ」

「……あ、」

「次は、奴らが本気を出してきても、つまり二戦目でも勝てるように鍛えるぞ」


 そう、あくまでこれは妥協した目標だ。本来のラルクの目標は、アルマが優勝候補に毒を盛ったりせずとも、大会で優勝できるようになることだった。


「無論、お前があと2か月鍛えたくらいで奴らより強くなることは絶対にない。だが、奴らにだけ勝てるようにはしてやれる」

「彼らにだけ勝てるようにって、それはどうやって、」

「慣れだ」


 このときアルマは、円形の盾を片手に持っていた。


「天剣流はこの国では非常にメジャーな流派だが、それでも剣士より魔法使いの方が多い以上、奴らも実力のある天剣流の剣士には慣れていないだろう。対してお前には、徹底的に水、風魔法使いと無敵流の剣士との戦闘経験を積ませる」

「……理には適っているけど、学園三傑ほどの使い手なんて、年上を探してもそうはいないぞ?まさか下手な魔法使い相手で練習になるとは思えないし、」

「そこで俺がいる」


 はっ?とラルクが変な声を出す。確かにわざわざ無敵流用の盾も持ってきているようだが、


「いや、無理だろ。いくらお前が天才だからと言って、水属性魔法とかも完璧に使えるのか?」

「いいや、俺が使えるのは初級魔法までだ」

「じゃあ、」

「だが元々の実力は、奴らより俺の方が格段に上だ」


 彼らより、元々の実力が格段に上。ラルクも1、2度レイシアの兄クラトスに会って、なんとなくそれは感じていた。


 完璧な戦闘のシミュレーションにはならないだろう。実際のアストラフィアとの戦いは、様々な技巧を凝らされた水魔法を避け、創意工夫をして近づく戦いになるだろうから。

 だがそれでも、意味がないわけではない。


 どちらも攻撃方法が水魔法であることには変わりないのだから。

 ラルクは頷いた。


「分かった。アンタでシミュレーションさせてもらおう」

「よし。それでは始めの距離を20m、つまり大会と一緒にして始めるぞ。それ以外のルールは先ほどまでと同じだ」

「ああ」

「まずはアストラフィアのように、つまり水属性魔法で戦う」

「了解」


 アルマがバックステップする。二度の跳躍で位置に付いた。

 魔法の使用。アルマの本分たる錬金術ではないものの、ラルクは緊張する。


「では行くぞ」

「……ああ、来い!」

「切り裂け、ウォーターカッター」


 それは水魔法の基礎も基礎、水魔法を習う者が一番目に習う魔法であった。水を圧縮し、高圧の水を放つだけ。


 だがそれが、気づくとラルクの眼の前にまで届いていた。


「うおおおおっ!!?」


 予備動作から放たれるより先に回避を始めていたのにも関わらず、水刃がラルクの頬に掠る。鮮血が噴き出る。


「ここから先、油断すると死ぬぞ」

「……ッツ!!」

「ウォーターボール、トリプル」


 直径1mほどの三つの水球がアルマを守るように浮かぶ。ラルクの知る限り、ウォーターボールとは拳大の水球を相手に当て、視界を奪うなら怯ませるなりするだけの魔法のはずだった。

 だがこの巨大な水球を喰らおうものなら怯むどころか吹き飛ばされ、その隙に先ほどの水刃で切り裂かれることは自明だろう。


 常軌を逸した魔力量が、単純で低級の魔法を脅威へと変える。


「さあ、俺の牙城を崩して見せろ」

「ぐっ、」


 ラルクは無理矢理に、前に踏み出して、


「ああ、その体勢からは避けられまい。ウォーターカッター」

「しまっ」


 重心を前に預けすぎて、とっさの回避ができなかった。彼の顔の1㎜手前で水が止まる。

 ラルクは悔しそうに、拳を握りしめた。


「これでお前の負けだ」

「ぐっ、あれを喰らっても、」

「まあ死にはしないだろうが、血で視界は悪くなるだろうな。その状態から近づくのは不可能だ」

「……、」

「分かるか?」


 最初の時のように、高い壁として彼は立ちはだかっていた。

 当たり前だがアルマは剣士や武闘家である以前に魔法使いなのだ。


 本気を解放した彼に一撃当てるという、アルマが裏で卑怯なことをしない条件が、ひどく遠く見えた。


「まあとはいえ、結局は慣れだ。どんな動きなら魔法を喰らわないか、魔法にはどのような弱点があるか、どんな時に魔法を打たれたらマズいか、どんな魔法の対処が苦手か、すべてを頭と体で覚えろ」

「……そうしたら、近づけるようになるのか?」

「たぶんな。確実ではないが。……っと、」


 ラルクが下を向いていた。


 ふとアルマはここで、課題を詰め込み過ぎてしまったことに気がついた。壁の高さを理解させるために一方的に倒したのもよくなかったかもしれない。


 ラルクはせっかく初勝利を飾って高揚しているのだ。

 壁を乗り越えた先がまた高い壁であれば、やる気も失ってしまうかと思って……、



「そうか。それができるようになったら近づけるのか」


 だがラルクは、再び前を向いていた。


「それじゃあもう一回だ。もう一回やるぞ!」

「……」


 どこまでも前向きで、明るく、希望に溢れた男だった。


「……お前なら、」

「ん?」

「お前なら、あるいは、」

「なんだよ、聞こえないよ!」


 アルマは首を振って、言葉を飲み込む。

 まさか本当に、ありえるはずはないのだ。一切の卑怯な手を使うことなく、ラルクが大会で優勝することなど。


 ただそれでも、どうしてもその考えは頭から離れなかった。ラルクがどんなに、一方的に打ち据えられようとも。






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