第15章 天使と悪魔➄
志保が、最後のキーを押してから24時間。
全世界に爆弾騒ぎは起きなった。
30時間も経った頃には、魔女狩りも鳴りを潜めた。
人間とは凄いもので、電気が直ぐに復旧し、物流も見る間に平常通りに戻っていった。
人は、食欲が満たされると大人しくなるらしい。
あれほど荒れ狂っていた暴徒の集団も、今はもういない。
そして、人は、直ぐに忘れる生き物でもあるようだ。
わずか30時間何も起こらないだけで、これまでのことはもう過去になり、悪夢でも見たような感覚に陥っている。
それが良いことなのかどうなのか?
それがため人類は発展を遂げたのだろうが、また、そのために同じ過ちを何度も繰り返している。
科学の発達と共に、人間が犯す過ちは、取り返しのつかないものになっていっている。
「どうしちまったんだろうな? まさか、あまりにも人が死に過ぎて怖くなったんじゃ」
「甘いわね」
首を傾げる桜井に、カレンとターニャの言葉が重なった。
「もう直ぐ、人類の歴史は終わる」
確信をもって言い切るカレンの言葉に、ターニャが頷く。
「どうして、そう言い切れる?」
桜井は納得がいかない口調で尋ねた。
CIAの上層部であるヒューストンですら、怪訝な顔をしている。
「シホの目的は、電気の復旧にあると思う」
桜井とヒューストンが、同時に首を捻った。
「わからない?」
二人にそう言って、カレンが、いつもと変わらぬ様子の悟に目を向けた。
「ハッキングできるのは、コンピューターやスマホだけやないからな」
「あなた、本当に馬鹿じゃないわね」
感嘆の声を上げるターニャに、「だから、俺をバカやと思っとったんか」と、悟が情けない声で応えた。
「思ってはないけど、まさか、ここまでだとはね」
「わたしの旦那様だもの」
カレンが、得意言な顔をターニャに向ける。
「どういうことだ?」
質問したのは、ヒューストンだ。
「まだ、わからない?」
ヒューストンが、悲しそうに首を振る。
「サトルに、あなたの立場を代わってもらったら」
「まあ、そんなことを言わずに、教えてくれないか」
辛辣なカレンの言葉にもヒューストンは怒ることなく、素直に教えを乞う。
「トゥルーフレンズもそうだし、通り魔や爆弾魔に仕立て上げるのに、シホは光彩を利用してるの。一種の催眠術ね。トゥルーフレンズや通り魔では、サブリミナルも併用してたけど、爆弾
魔は、わたしの見るところ光だけ」
カレンがここまで言った時、桜井が「そうか」と大きな声を出した。
「今は、テレビもネットに繋がっている。広告塔もそうだ。多くのネオンは、コンピューターで制御されている」
「すると、なにか? シホは、それらのすべてを駆使して、なにかをやらかそうってのか」
ようやく、ヒューストンにもわかったようだ。
「多分ね。そして、その時が、人類の終焉ってわけ」
「催眠にかかった人が、みんな自殺すれば、何も破壊することなく人類は滅びる」
ターニャも、的確に志保の意図を読んでいた。
「残された時間は、後わずかだと思う」
カレンの推測に、ターニャが頷く。
「今は、時間との闘いね。わたしも手伝うから、さっさとシホの居場所を突き止めましょ」
{オーケー」
カレンとターニャがパソコンの前に座るのを、男二人は、自分の不甲斐なさを呪いながら見ていた。
「頑張りや」
悟だけは、いつものようににこやかな笑みを浮かべて、二人に励ましの声をかけた。




