第15章 天使と悪魔③
「まだか?」
桜井の苛立った声が、カレンの背中に突き刺さった。
カレンが志保の居場所を探り始めてから、三日が経つ。
その間、前述したように、港では魔女狩りが始まり、暴動が起こっている。
この三日で、全世界で失われた命は、一億に達するとみられる。
魔女狩りや暴動が起こっていても、相変わらず、いたるところで爆弾が爆発していた。
公共施設だけではなく、マンションの一室が吹っ飛び、両隣や上下階の部屋に被害が出たり、古いアパートでは、建物全体が吹っ飛んだりしている。
爆発によって引き起こされる火事も続出していた。
カレンにターニャに桜井。
この三人が一堂に会して三日も一緒に過ごしているのは、考えてみればあり得ないことだ。
今は、自国の権益のみでいがみ合っている場合ではないというものあるが、三人とも、帰属
意識が薄いというのが、共同戦線を張れている大きな理由だ。
桜井は、国民なくして国は成り立たないという信念の持ち主で、国と国民を守るという意識は強いが、権力闘争や縄張り争いには、まったく興味がない。
カレンとターニャに至っては、国や国民を守ろうなんて意識など、さらさらない。
ただただ、強敵と満足のいく戦いができれば、それでいいのだ。
そんな三人だからこそ、志保の所在を突き止めるべく、日夜、奮闘できていた。
といっても、コンピューターに向かいきりなのはカレンだけで、コンピューターに造詣の深くない桜井は、ただカレンの作業を見守るだけで、ターニャは手を貸すこともなく、のんびりとカレンが志保の居所を突き止めるのを待っていた。
「まだかって、まだ三日しか経ってないわよ」
「その三日の間に、多くの人命が失われているんだぞ。それに、今にも第三次世界大戦が起こりかねない。もう、一刻の猶予もない状況なんだ」
このまま、この状況が続けば、どこの国民も、批判は政府に向く。
というより、既に向いている。
政府としては、自分達の無能さを認めたくないがために、これらの事件を敵対国の仕業にしていた。
何も知らない国民は、政府の言葉を鵜呑みにして、敵対国をやっつけろと騒ぎ初めている。
日本ですら、放置しておけば、それこそ内乱が起こりかねない状況なのに、いわんや、他国の状況はもっと切迫していた。
政治家というものは、どこの国も自らの政権を維持するため、真実を国民に知らせないことが多い。
国が滅んでしまえば、政治家という肩書に、なんの効力もなくなるのに。
実に、不思議なものだ。
とまれ、桜井の危惧しているのは、そのことである。
カレンのコンピューターの腕前がどんなものか知らない桜井は、この騒ぎに胸を痛め、焦っていた。
「世界の優秀な技術者が束になっても、まだ突き止められないのよ。あの有名なアノニマス集団さえもね。彼らは、飛び込み騒ぎの時から犯人を追っているわ」
たしなめたのは、ターニャだ。
桜井と比べ物にならぬほどカレンを知っているターニャは、カレンが突き止めると言ったのなら、必ずそうするだろうと、疑いもしていない。
「一億くらいなによ。まだ、人口の七十二分の一しか減ってないじゃない」
カレンがキーボードを打つ手を休めて、振り返った。
「なんて、言い草だ。人口の七十二分の一しか減っていないなんて、そんな問題じゃない。いいか、一億といえば、この日本の人口の九割に当たるんだぞ。いわば、国が滅んだも同じなんだ」
桜井の怒りに、カレンが皮肉な笑みで応える。
「だから、どうだっていうの。人間は、多くの生き物を絶滅させてきたんでしょ。それなのに、自分たちが滅ぶのは許せないってわけ。そんなの勝手よ」
「人間と動物とは違う」
「ばっかじゃない。どう違うっていうの? 人間が、そんなに偉いわけ。あんたは、人間を神様だとでも思ってるの?」
「二人とも、くだらないことで喧嘩はよしなさい」
ターニャが割って入る。
「くだらないとはなんだ」
桜井が、ターニャに矛先を向けた。
「悪いけど、わたしもカレンと同じ意見なの」
ターニャが、冷たく言い放つ。
「あなたは、人として立派なんだろうけど、わたし達とは人種が違う」
「じゃあ、なんで、この任務を引き受けたんだ」
「カレンと劉と殺りあえるからよ」
「まあまあ、桜井さん」
尚も反論しようと口を開きかけた桜井の肩を、悟が叩いた。
「この二人に、そんなこと言うても無駄や。なんせこの二人は、異次元の住人なんやから」
相変わらず、悟の口調はのんびりとしている。
まなじりを吊り上げている桜井にに対しても、なんら乱れるところはなかった。
「失礼ね。誰が、異次元の住人よ」
カレンが、頬を膨らませる。
「自分でも、自覚あるやろ」
カレンの抗議を、悟は即座に却下した。
「まあね」
苦笑を浮かべて、カレンが肩をすくめた。




