第15章 天使と悪魔②
カレンが志保の居所を掴もうといていた頃、志保はいよいよ最終段階に入っていた。
これまでのデータを活かして、プログラムに改良を重ね、スマホやパソコンだけではなく、テレビや、街のいたるところにある電光掲示板を通じて、人々をマインドコントロールしようとしていた。
そのプログラムが、もう数日で完成する。
これが完成すれば、スマホの奴隷ではない人達も、志保の思いのままに操ることができる。
最初の爆弾事件から三日。
世の中は、カレンの予言通りになっていた。
魔女狩りが始まっていたのだ。
いつ、どこで、爆弾が破裂するかわからない状況に、多くの人々はパニックを通り越して、一種の錯乱状態に陥っていた。
いわゆる、集団ヒステリーというやつだ。
そこまでいっていない人々は、家に閉じこもって戦々恐々としているだけだが、多くの人間は徒党を組み、裸や下着姿になって街を徘徊し、服を着ている者や荷物を抱えている者を、集団で襲っては、殺して回った。
裸や下着姿が、爆弾を持っていないという証になっていた。
この発端も、志保が仕掛けたものだ。
数人の人間を、そのように洗脳すれば、後は勝手に増殖してくれる。
良くも悪くも、人間いうものは、群れで動く動物なのだ。
こうして、文明国といわれる国々は、すべての機能が麻痺した。
スーパーやコンビニには食品が入らず、電気や水道も使えなくなる時間帯が多くなった。
そのため、人々は、飢えと渇きに苦しむようになった。
たまりかねた人々は、魔女狩りそっちのけで、倉庫や農家を襲うようになり、邪魔する者は、容赦なく殺した。
いたるところで、警官隊や軍隊と衝突が起き、どちらの側にも、多くの犠牲者が出た。
文明を誇っていても、食べていけなくなれば、こんなものである。
昔も今も、人々が拠って立つ基盤が脆いものだと思っている人は少ない。
特に、現代の人間は、それが顕著だ。
昔は、まだ自然というものを敬っていた。
今は、便利さを追求するあまり、自然どころか、地球そのものを破壊している。
なのに、地震や台風などの自然災害が起こると、政府のせいにする。
それが、実に馬鹿げたことだとは、誰も気付いていない。
自然を犠牲にして、便利さを享受しているという気持ちがないからだ。
今の生活を崩したくはないが、自然災害を受けても困る。
大いなる矛盾であろう。
何かを得るためには、何かを犠牲にする。
これが、節理というものだ。
へんに知恵がある分だけ、そういった自然の摂理というものがわからなくなっている。
もちろん、すべての人間がそうではないし、理屈が理解できれば、今の便利さを捨て去っても、自然を大切にしようとという人も多くいるはずだ。
自分勝手な反面、優しさを持ち合わせているのも、人間だ。
しかし、志保は、人間を憎むあまりに、すべての人間がそうだと思い込んでいる。
ここまできても、人々が悔い改めるなんてことは、これっぽちも思ってはいない。
だから、一度クリーンにしようと思っているのだ。
だが、そんな志保も、やはり人間である。
人間である以上、良心の呵責というものは付きまとう。
志保は、心のどこかで、自分を止めてくれる人間が現れるのを願っていた。
だから、無意識に、自分の居場所を特定できるための穴を開けていた。
ごく、わずかの穴だが。




