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第15章 天使と悪魔①

「凄えな」

 桜井が、カレンの隠れ家のコンピュータールームを見回して、目を丸くしている。

 それ以上に驚いていたのが、ヒューストンだ。

「おまえに、こんな腕があったとはな」

 驚きと同時に、少し恨めし気な響きも、その口調に混じっていた。

 カレンに、こんな技術があると知っていたら、カンパニー時代に、もっとカレンに負わせる任務の幅が広がっていた。

 ヒューストンの口調から、彼が思っていることを察知はしていたが、カレンは意にも介さない。

「美女には、謎が付きものなのよ」

 さらりと言ってのけたのみだ。

 ターニャは、桜井とヒューストンとは違う意味で驚いていた。

 カレンがコンピューターに精通していても、別に驚きはしない。

 ターニャも、ニコルには告げていないが、コンピューターの腕前については、それなりに自信がある。

 戦国時代から、情報というものは大事だった。

 かの有名な、織田信長の名を一躍知らしめた「桶狭間の戦い」、別名「田楽狭間の戦い」ともいうが、あれも、情報戦を制した結果の勝利だと、多くの歴史家が語っている。

 ましてや、ITに始まり、ITに終わる今日においては、いかな戦闘のプロフェッショナルといえども、情報を疎かにし、機先を制せられては、実力の発揮をしようもない。

 カレンとターニャが、これまで幾多の修羅場を潜って生き延びてこられたのは、そういった情報戦も大事にしてきたからだ。

 特に、諜報機関となれば、力より情報が重きをなす。

 ヒューストンやニコルも、そのことはよくわかっているはずだ。

 しかし、一世代古い人間だ。

 情報とITというものを、今一つ結び付けられていないのだろう。

 カレンの設備を見て、ヒューストンが驚いているのが、いい例だ。

 ITというものわかっていれば、カレンがこれくらいの設備を整えていて当然だと思うはずだ。

 ターニャが驚いたのは、カレンにとっての機密事項といえるものを、皆にさらけ出したことだ。

 ターニャもそうだが、帰属意識の薄い人間というものは、たとえ上司といえども、全てをさらけ出すことはしない。

 ましてや、命に関わるとなれば、尚更だ。

(まだ、何かを隠し持っているというのか?)

 ターニャは、じっとカレンを観察していたが、そうではないと思った。

 今のカレンは、隠すことによって、身を守っているのではない。

 カレンにとって、悟という存在そのものが、彼女の身を守る武器であり、彼女をより強くしている。

 今のカレンだったら、悟を守るため、また、悟との生活を守るためだったら、地球をも滅ぼしかねない

 それが、ターニャには見えてきた。

 さきほどの、スコット相手に打った芝居。

 お互いを、心底信頼していなければ出来ないことだ。

 (愛とは、そんなにも人を変えるものなのか)

 これまで、異性に対して恋愛感情を抱いたことのないターニャは、不思議に思うと同時に、愛というもに畏怖を抱いた。

 そんなターニャも、自分が変わってきていることには、気付いていなかった。

 少し前までのターニャだったら、こんなことは考えもしなかっただろう。

 愛情とは違うが、悟の天真爛漫な明るさに、ターニャ自身も気づかないうちに、影響を受けていたのだった。



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