↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/108

第14章 騙し合い⑥

「そいうことか。それで、ヒューストンを殺したように見せかけて」

 スコットが、顔をしかめて唸った。

「そう、あなたを安心させるためにね。まんまと引っ掛かってくれたわ」

「おまえが裏切り者だと聞かされたときは驚いたよ」

 ヒューストンが渋い顔をして、カレンの後を引き取った。

 無理もない。

 これまでスコットは、ヒューストンの忠実な部下だった。

 いや、スコットが忠実な部下を演じていた。

 エージェントから叩き上げてきたヒューストンだが、どこか人の良いところもあった。

 カレンもそれを認めていたので、ヒューストンの家に押し入ったとき、殺さずに済ましたのだ。

「しかし、サトルの裏切りが演技だと、どうしてわかった。サトルは、おまえとは打ち合わせをする暇などなかったはずだ。おまえは、私のやり方を見抜いていたのか」

「大体はね。あなたは、小さな頃から陰険だったからね。そんなあなただから、サトルと二人にしてあげれば、うまいことを言って、サトルに裏切りを持ちかけるんじゃないかと思ったのは確かね」

「あの公園での諍いは、演技だったってわけか」

 カレンはそれには答えず、うっすらと笑みを浮かべただけだ。

「わたしは、サトルに一億円をくれてやると言ったんだぞ。本当にサトルが裏切っていたら、どうするつもりだったんだ」

「どんな条件を出しても、サトルは絶対に裏切らないわ」

 自信を持って言い切るカレンに、

「金より、命の方が大事やからな」

 悟の言葉が続く。

 そんな悟に、カレンは微笑みを投げかけた。

「私は、あなたに殺されるのなら本望よ」

 カレンの言葉に、居合わせた皆が驚いた。

 悟だけは、照れて俯いている。

「凄えな。カレンにそこまで言わせるなんて。一体、おまえは何者なんだ」

 桜井が、眼を丸くして悟を見る。

「ただの民間人や」

 胸を張って、悟が答える。

「それにね、あなたに連絡したとき、サトルに代わったでしょ。そのときに、サトルはちゃんと教えてくれたの」

 カレンが、話を本題に戻す。

「馬鹿な。サトルは、そんなことは一言も話していなかったはずだぞ」

「言うてたで。カレンが俺にくれた本を持ってきてって。それに、そのお返しにカレンの好きな寿司を奢るってな」

「本? スシ? 確かにそんなことを言っていたが、それで何が伝わるんだ? そうか、暗号を決めてたのか」

「いいえ、暗号なんて決めてないわよ」

「じゃ、どうして?」

 納得がいかない様子のスコットに、悟が答える。

「カレンはな、寿司が大っ嫌いなんや。それを、よう知っとる俺が、お礼に寿司を奢るなんて言うわけないやろ。それで、俺が裏切るぞと教えたんや。それにな、俺はカレンから防弾になるからって、雑誌を二冊渡されたことがあってな。実際、それのおかげで死なずに済んだんやけどな。そやから、カレンから貰った本を持ってきてと言ったんは、俺がカレンを撃つという意味で言ったんや」

「そんなことで、カレンに通じると思ったのか?」

 スコットは、驚きを通り越して呆れている。

「ああ、カレンなら、絶対わかってくれると信じとった」

 悟が、自信を持って言い切った。

「実際、わかったもの。だから、防弾ベストを身に付けてきたのよ。ご丁寧に、血糊まで用意してね」

「防弾ベスト? 雑誌を入れてるんやなかったんか」

 悟がカレンを振り返って、素っ頓狂な声を上げた。

「だって、サトルが撃つんじゃ、どこに当るかわからないもの」

 カレンが、すました顔で返す。

「どこに当るかわからへんって、確かにそうやけど」

 悟が、少し傷ついた顔をする。

「いい加減にしろ」

 その場にいる者を置き去りにした緊張感のない二人の会話に、今まで黙っていた緒方の怒りが爆発した。

「おまえは、黙ってろ。後で、じっくりと話を聞いてやる」

 桜井がドスの利いた声で言って、緒方を睨みつけた。

 桜井は緒方に、ヒューストンはスコットに銃を突きつけている。

「愛国心なんて言葉を平気で口にする奴に限って、ろくな奴がいないって、私が言った通りでしょ」

 カレンは緒方を見ながら冷然と言い放ち、再びスコットに顔を向けた。

「これでわかった? あなたを捕まえて尋問しても、本当のことは言わないと思ったから、こういう芝居を打ったってわけ。どう、私のお芝居。アカデミー賞ものだったでしょ。口に血糊の入ったカプセルまで仕込んだんだもの」

 カレンがにこやかに言ったあと、直ぐに真顔になり、突き刺すような視線でスコットを睨んだ。

 それから、嫌悪感を露わにした口調で言う。

「あなたが、修羅場を潜り抜けてきたプロだったら、私の流している血が本物かどうか、容易に見分けがついたはずよ。そんなこともわからないあなたが、わたしのようなエージェントを仕切るなんて、無謀にもほどがあるわね」

「……」

 スコットは唇を噛みしめながら、凄い目付きでカレンを睨みつけている。

 何か言いたそうだったが、唇がプルプルと震えるだけで、言葉は出てこない。

「おまえの演技も、大したもんだったぞ」

 桜井が悟の肩を叩いてから、「さて緒方、おまえは、俺がとっくりと調べてやるから、覚悟しておけ」ドスの利いた声で、緒方の頭を小突いた。

「待ってくれ、桜井さん。俺は、こいつに脅されていただけなんです」

 スコットを指差しながら、緒方が哀れな声を出す。

「何を、言ってやがる。おまえのことは、高柳から聞いたよ。奴は、逃れられないと観念したのか、潔く自分でけじめをつけた」

 桜井のはったりに、緒方が乗った。

「嘘だ。俺は、あの人の子飼いだぞ。そんな俺を、あの人が売るなんて、ありえねえ。それに、あの人は、潔くけじめをつける人じゃあねえ」

「おまえは、バカか」

 桜井が、苦笑を漏らす。

 悟は呆れた目で緒方を見、カレンとターニャは、冷ややかな眼差しで緒方を見ていた。

「スコット、お前は俺だ。覚悟しておけ」

 ヒューストンが、スコットに向けた銃を、わずかに持ち上げてみせた。

 その時、緒方が雄たけびをあげながら,、桜井の銃を奪おうと、手を突き出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。