↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/108

第14章 騙し合い➄

 銃声がした刹那、悟は撃たれたかと思い、目を瞑った。

 が、別段衝撃も受けず、痛むところもなかったので、目を開けた。

 スコットと緒方が左手で右腕を押さえているのが、悟の目に飛び込んできた。

 二人は何が起こったのかわからず、呆然とした顔をしている。

 二人の前に、銃を構えたカレンが立っていた。

「お、おまえ……」

 驚愕で見開かれた目でカレンを見つめるスコットは、震える声でそれだけ言うのがやっとで、それ以上言葉が出てこない。

「聞いた? これで、大体の筋が掴めたわね」

 大きな声で、カレンが誰にともなく言う。

「ああ、聞いたぜ。まったく、とんでもない奴らだな」

 苦々しげな顔をして、桜井が入ってくる。

 後には、ターニャとヒューストンが続いている。

「ヒューストン。生きていたのか? それに、ターニャも。これは、一体、どうなっているんだ」

 驚愕からは立ち直っていたが、スコットは事態が把握出来ずに戸惑っている。

「自分では頭がいいと言ってたけど、どうやら、それほどでもなかったようね」

 小馬鹿にしたように言うカレンの腹部は、真っ赤に染まっており、唇の端にも赤いものが付いていた。

 しかし、口調はさきほどの瀕死の状態とは思えないほど、いつもの元気なカレンの声だった。

「タイミングどんぴしゃやな。一瞬、俺が撃たれたかと思ってヒヤッとしたわ」

 悟がにこやかな顔をして、カレンの横に立つ。

「私が、愛する人を死なすわけがないでしょ」

 カレンが、微笑み返した。

「サトル。おまえは、カレンを裏切ったんじゃ?」

 スコットが、絞り出すような声で、悟を指さす。

「俺が、愛する人を裏切るわけないやろ」

 悟が、カレンの口調を真似る。

「し、しかし、おまえは、本気でカレンを撃ったじゃないか」

「そうせんと、あんたは信用せんやろ。おかげで、調子こいてぺらぺら喋ってくれたもんな」

 悟の言い方が可笑しかったのか、カレンが喉を鳴らして笑った。

「おい、あいつは、本当にただの民間人なのか」

 桜井が呆れた口調で、カレンに囁いた。

「そのはずなんだけど、わたしも、時々わからなくなるのよね」

 冗談とも本気ともつかぬ口調で、カレンが答える。

「彼を、我が組織に向かえ入れたいところだな」

 ヒューストンは真顔だ。

 ターニャは無表情な顔で、成り行きを見守っている。

「だめよ、サトルはこのままでいいの」

 カレンに睨まれて、ヒューストンが肩をすくめた。

「いい加減にしろ。一体、何がどうなっているんだ」

 スコットが苛立ちを露にして、声を荒げた。

 今は、怒りと屈辱で顔を真っ赤に染めたスコットに、さきほどまでの勝ち誇った様子は微塵もない。

「そうね。あなたも教えてくれたことだし、私も教えてあげるわ。スコット、裏切り者があなただということはわかっていたのよ」

「何だって、いつわかったんだ」

「ハイ、ハイ。教えてあげるから、そう慌てないの。最初はね、私もあなたを信じていたのよ。なんたって、実の兄だものね。だから、裏切り者はヒューストンじゃないかと思ったわけ。彼なら、私を抹殺したい理由もあることだしね」

「それがどうして?」

「シホの隠れ家がガセで、赤い金貨の連中に待ち伏せをくらったと連絡を入れた時、あなた、わたしの声を聞いた瞬間、息を呑んだわね。本当に、シホの隠れ家だと思っていたら、あんなリアクションはしないはずよ。あれだけの罠を仕掛けておいて、わたしが生きていた事に驚いたんでしょ」

 スコットは何も言わない。

 それが、カレンの言葉を肯定していた。

「それにね、あなたに教えた隠れ家とは別の場所を、ヒューストンに直接教えたの」

「別の場所?」

「そうよ。隠れ家が一つだと思い込んだのはあなたの勝手だけどね、私が、そんなに甘いわけないじゃない」

 間の抜けたスコットの顔を見やりながら、カレンが続ける。

「そうしたら、あなたに教えた隠れ家だけをカンパニーの奴らが襲ってきたでしょ。これで、裏切り者があなただってことがはっきりしたわけ」

「そんなことで、私が裏切ったと判断したのか。私は、ヒューストンの部下だ。ヒューストンに報告するのは当たり前だろう。ヒューストンがやらせたとは思わなかったのか」

 カレンが、憐れむような目でスコットを見た。

「あなたって、自分で頭がいいと言っときながら、本当はここが足りないんじゃない」

 言いながら、スコットの頭を銃口で小突いた。

 スコットは屈辱を露わにして全身を震るわせる。

「おまえは、自らの手で、殺しておくべきだった」

 凄まじい目つきでカレンを睨みながら、低い声で絞り出すように言った。

 そんなスコットを無視して、カレンは先を続けた。

「いい? 頭がいいと自負しているあなたに教えてあげるけど、もしヒューストンが裏切り者だったら、ヒューストンに教えた隠れ家だけか、両方の隠れ家が襲撃されていたはずよ。それが、あなたに教えた隠れ家だけが襲われたんだもの。誰が裏切者なのか、馬鹿でもわかるわよね」

 カレンの言葉は、辛辣で容赦がない。

 だが、悔しそうに顔をしかめるスコットを見つめるカレンの表情には、満足気な様子は微塵も浮かんでいない。

 それどころか、どこか悲しそうだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。