第14章 騙し合い➄
銃声がした刹那、悟は撃たれたかと思い、目を瞑った。
が、別段衝撃も受けず、痛むところもなかったので、目を開けた。
スコットと緒方が左手で右腕を押さえているのが、悟の目に飛び込んできた。
二人は何が起こったのかわからず、呆然とした顔をしている。
二人の前に、銃を構えたカレンが立っていた。
「お、おまえ……」
驚愕で見開かれた目でカレンを見つめるスコットは、震える声でそれだけ言うのがやっとで、それ以上言葉が出てこない。
「聞いた? これで、大体の筋が掴めたわね」
大きな声で、カレンが誰にともなく言う。
「ああ、聞いたぜ。まったく、とんでもない奴らだな」
苦々しげな顔をして、桜井が入ってくる。
後には、ターニャとヒューストンが続いている。
「ヒューストン。生きていたのか? それに、ターニャも。これは、一体、どうなっているんだ」
驚愕からは立ち直っていたが、スコットは事態が把握出来ずに戸惑っている。
「自分では頭がいいと言ってたけど、どうやら、それほどでもなかったようね」
小馬鹿にしたように言うカレンの腹部は、真っ赤に染まっており、唇の端にも赤いものが付いていた。
しかし、口調はさきほどの瀕死の状態とは思えないほど、いつもの元気なカレンの声だった。
「タイミングどんぴしゃやな。一瞬、俺が撃たれたかと思ってヒヤッとしたわ」
悟がにこやかな顔をして、カレンの横に立つ。
「私が、愛する人を死なすわけがないでしょ」
カレンが、微笑み返した。
「サトル。おまえは、カレンを裏切ったんじゃ?」
スコットが、絞り出すような声で、悟を指さす。
「俺が、愛する人を裏切るわけないやろ」
悟が、カレンの口調を真似る。
「し、しかし、おまえは、本気でカレンを撃ったじゃないか」
「そうせんと、あんたは信用せんやろ。おかげで、調子こいてぺらぺら喋ってくれたもんな」
悟の言い方が可笑しかったのか、カレンが喉を鳴らして笑った。
「おい、あいつは、本当にただの民間人なのか」
桜井が呆れた口調で、カレンに囁いた。
「そのはずなんだけど、わたしも、時々わからなくなるのよね」
冗談とも本気ともつかぬ口調で、カレンが答える。
「彼を、我が組織に向かえ入れたいところだな」
ヒューストンは真顔だ。
ターニャは無表情な顔で、成り行きを見守っている。
「だめよ、サトルはこのままでいいの」
カレンに睨まれて、ヒューストンが肩をすくめた。
「いい加減にしろ。一体、何がどうなっているんだ」
スコットが苛立ちを露にして、声を荒げた。
今は、怒りと屈辱で顔を真っ赤に染めたスコットに、さきほどまでの勝ち誇った様子は微塵もない。
「そうね。あなたも教えてくれたことだし、私も教えてあげるわ。スコット、裏切り者があなただということはわかっていたのよ」
「何だって、いつわかったんだ」
「ハイ、ハイ。教えてあげるから、そう慌てないの。最初はね、私もあなたを信じていたのよ。なんたって、実の兄だものね。だから、裏切り者はヒューストンじゃないかと思ったわけ。彼なら、私を抹殺したい理由もあることだしね」
「それがどうして?」
「シホの隠れ家がガセで、赤い金貨の連中に待ち伏せをくらったと連絡を入れた時、あなた、わたしの声を聞いた瞬間、息を呑んだわね。本当に、シホの隠れ家だと思っていたら、あんなリアクションはしないはずよ。あれだけの罠を仕掛けておいて、わたしが生きていた事に驚いたんでしょ」
スコットは何も言わない。
それが、カレンの言葉を肯定していた。
「それにね、あなたに教えた隠れ家とは別の場所を、ヒューストンに直接教えたの」
「別の場所?」
「そうよ。隠れ家が一つだと思い込んだのはあなたの勝手だけどね、私が、そんなに甘いわけないじゃない」
間の抜けたスコットの顔を見やりながら、カレンが続ける。
「そうしたら、あなたに教えた隠れ家だけをカンパニーの奴らが襲ってきたでしょ。これで、裏切り者があなただってことがはっきりしたわけ」
「そんなことで、私が裏切ったと判断したのか。私は、ヒューストンの部下だ。ヒューストンに報告するのは当たり前だろう。ヒューストンがやらせたとは思わなかったのか」
カレンが、憐れむような目でスコットを見た。
「あなたって、自分で頭がいいと言っときながら、本当はここが足りないんじゃない」
言いながら、スコットの頭を銃口で小突いた。
スコットは屈辱を露わにして全身を震るわせる。
「おまえは、自らの手で、殺しておくべきだった」
凄まじい目つきでカレンを睨みながら、低い声で絞り出すように言った。
そんなスコットを無視して、カレンは先を続けた。
「いい? 頭がいいと自負しているあなたに教えてあげるけど、もしヒューストンが裏切り者だったら、ヒューストンに教えた隠れ家だけか、両方の隠れ家が襲撃されていたはずよ。それが、あなたに教えた隠れ家だけが襲われたんだもの。誰が裏切者なのか、馬鹿でもわかるわよね」
カレンの言葉は、辛辣で容赦がない。
だが、悔しそうに顔をしかめるスコットを見つめるカレンの表情には、満足気な様子は微塵も浮かんでいない。
それどころか、どこか悲しそうだった。




