第14章 騙し合い③
「来たぞ」
モニターに映し出されたカレンを見て、スコットがほくそ笑んだ。
「カレンが、軽い足取りで歩いてくる」
カレンがドアの前に立つと、「空いてるぞ」とスピーカー越しに、スコットの声が聞こえた。
「中は、まるで要塞ね」
笑顔で入ってきたカレンの顔が、凍りついた。
目の前に、頭に銃を突きつけられている悟の姿があった。
銃を突きつけているのは、緒方だ。
「いったい、どういうこと」
戸惑いながら、スコットに目を向ける。
「見ての通りさ」
スコットが、笑顔で両手を拡げてみせた。
「まさか、あなたが……」
カレンは、茫然とした目でスコットを見ている。
「 裏切り者は、あなただったの?」
「驚いたか。まさか、わたしが、お前を裏切っていたなんて、思いもしなかっただろうからな」
スコットが勝ち誇ったように言って、乾いた笑い声を立てた。
「そうね、まんまと騙されたわ。てっきり、ヒューストンだと思っていたのに」
顔を歪ませながら、悔しさを滲ませた口調でカレンが言う。
「だから、おまえはヒューストンを始末した。お蔭で、こっちは大助かりだよ」
「どういうことか、説明してくれない」
カレンが、険しい声で迫った。
「その前に、銃を捨てて両手を上げろ。おまえの可愛い旦那が殺されたくなければな。わかっていると思うが、そっとだぞ。少しでもおかしな真似をしたら、おまえの愛しいサトルは、即座にあの世行きだ」
スコットの言葉とともに、緒方の銃が悟の頭に強く押し当てられた。
緒方は、悟を撃ちたくてうずうずしているようだ。
カレンはスコットから眼を離さずに、ゆっくりとした動作で腰から銃を引き抜き、そっとしゃがんで銃を床に置いた。
銃を置くと、静かに立ち上がり両手を上げた。
「いい子だ」
スコットが、満足気に頷く。
「どういうことか、説明してくれる」
カレンが静かな声で、もう一度促した。
「説明してやりたいのは山々だが、このままおまえと話していると、どういう反撃をしてくるかわからんからな。悪いが、直ぐにあの世へ行ってもらうことにするよ」
スコットが、手にしていた銃をカレンに向けた。
「その前に、もう一つだけ面白いものを見せてやろう」
そう言うと、悟に顎をしゃくった。
悟は頷くと、腰の後ろに差していた銃を抜き出した。
その銃口を、ゆっくりとカレンに向ける。
「サトル、あなた……」
カレンが絶句した。
カレンの眼は、驚きのあまり見開かれている。
「これは、どういうことなの」
たとえ、銃を突きつけられていたとしても、命惜しさに悟が自分を裏切るはずはない。
これは悟の意思だと、カレンが思っているのは、蒼白な顔を見れば一目瞭然だった。
カレンが、迷子になった子供のような顔をして、スコットを見る。
「見ての通りさ。サトルは、お前を裏切ったんだよ」
スコットが、さも楽しそうに笑った。
「うそ! サトルが私を裏切るなんて、そんなことあるわけないじゃない」
カレンが悲鳴に近い声を上げ、駄々っ子のように激しく首を振った。
「ねえ、冗談なんでしょ。サトル、悪い冗談はやめてよ」
縋るような眼で、悟を見る。
「ごめんな、カレン」
精一杯の誠意か、悟はカレンの視線を申し訳なさそうに受け止めている。
「どうして?」
カレンの声が震えている。
「もう、こんなことに巻き込まれるのは、ええ加減うんざりなんや。カレンと一緒にいる限り、ずっとこんなことが続くやろ。それに、スコットはカレンを裏切ったら、一億円くれるっていうし」
「そんな、本気で言ってるの? サトルがお金で私を裏切るなんて、そんなわけないわよね」
悟に微笑みかけたが、ショックのあまりうまく笑みを作ることができず、カレンの顔は引き攣り、声もうわずっていた。
悟は、それには答えなかった。
ただ、苦渋に満ちた顔をしているだけだ。
スコットはそんな二人の様子を、さも楽しそうに眺めている。
「信じたくない気持ちはわかるがな、所詮、人間とはこういうものなんだ。この世界で生きてきたおまえには、痛いほど、よくわかっているはずだろう」
スコットはうすら笑いを顔に張り付けたまま、哀れむような眼をカレンに向けている。
そして、小馬鹿にした口調で続ける。
「我々の世界ではな、人を信じるなんてことはしちゃいけないんだよ。信じられるのは、自分と金だけだ。人を信じるなんて馬鹿なことをした奴は、早死にする運命にある。おまえのようにな」
カレンは何も答えない。
ただじっと、自分に向けられた銃口に目を向けている。
「せめてもの慰めに、お前が唯一人愛した男の手で、あの世に送ってやろう。サトル」
スコットが左手を上げた。
その瞬間、悟の銃が火を吹いた。
悟は、しっかりと眼を開けてカレンを狙い撃った。
轟音と共に、カレンが腹を押さえて蹲る。
撃たれた箇所を押さえた指の隙間から、血が滴り落ちてきた。




