↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/108

第14章 騙し合い②

「愛妻からだ」

 スコットが楽しそうな顔を悟に向けてから、スピーカーフォンに切り替えた。

「それはよかった。ああ、サトルは無事に保護しているよ」

 兄としての優しさを込めた声で、スコットが答える。

「早くサトルに会いたいから、そっちに行くわ。場所を教えて」

 スピーカーフォンから流れてくるカレンの声は、いつもより沈んでいた。

 緒方は手を口で押えて、笑いをこらえている。

 悟は、黙って俯いていた。

「そうだろうな」

 スコットが優しく言ってから、場所を教えた。

「わかった。サトルに代わってくれない」

「ちょっと待ってろ」

 電話を保留にしたスコットは、悟にスマホを渡しながら、険しい顔で念を押した。

「いいか、余計なことを喋るんじゃないぞ。少しでも変な素振りを見せたら、即座に撃ち殺す」

「わかっとるわ。俺は、お前らの仲間になったんや、少しは信用せんかい」

 悟が心外だというように怒りながら、手渡されたスマホの保留を解除する。

「カレンか? 俺や」

 金でカレンを裏切ったというのに、悟の口調は、これまでとなんら変わらなかった。

「よかった。いつものサトルで」

 その声に安心したのか、沈んでいたカレンの声が弾む。

「ああ、もう大丈夫や。さっきはごめんな」

「いいのよ、気にしないで。いつものサトルに戻ってくれて、嬉しいわ」

 スコットは唇の端を吊り上げながら、緒方は相変わらず笑いをこらえながら、二人の会話を聞いていた。

「もう直ぐそっちに行くから、いい子で待ってるのよ」

「ああ、待ってるで」

 まるで、デートの約束を交わす恋人同士みたいだ。

「なあ、カレン」

 スコットの眉がぴくりと動き、手を懐に入れようとした。

 それを、悟が手で制した。

「こないだ、俺にくれた本な。あれを持ってきてくれへんか。出かけるとき慌ててたから、持ってくるのを忘れてしもうてな。あれは役に立つから、持っておきたいんや。ほんま、ええもんくれたもんやで。今度お返しに、カレンの好きな寿司でも奢るからな」

 スコットが安心した顔で、手を元に戻す。

「たかが、本くらいで大げさね。でも、お寿司は大歓迎よ。楽しみにしているわ」

 明るい声で、カレンが笑った。

「じゃあ、待っててね」

 掛かってきた時とは別人のような、弾んだ声で言って、カレンが電話を切った。

 悟は、暫く無言になったスマホを眺めていたが、やがて深いため息をつくと、スコットに返した。

「上出来だ」

 満足げな顔で、スコットが悟の差し出したスマホを受け取る。

「なかなか役者じゃねえか」

下卑た口調でからかう緒方に、悟は一瞥をくれただけで、何も言わない。

「ところで、本というのは何だね。そんなに、大切なものなのか?」

 スコットが、興味深そうに訊いてくる。

「転職情報誌や。カレンを殺してもたら、喫茶店は続けられへんからな。どこか、職を探さんとあかんやろ」

「お前、これが無事終わったら、一億貰えるんだぞ。それでも、まだ金がほしいのか」

「大阪人やからな」

 呆れたような緒方の言葉を受けて、悟がぶっきらぼうに答えた。

 スコットは笑みを浮かべて肩をすくめてみせたが、眼は笑っていなかった。

「いいか、カレンが来たら、手筈通りやるんだぞ。ぬかるんじゃないぞ」

 悟が、無言で頷いた。

「カレンを油断させるために、オガタがお前の頭に銃口を突き付けるが、お前が我々を裏切るようなら、即座に引金を引く。それを忘れるな」

「わかっとるわ。ごちゃごちゃ言わんと、まかしとき」

 悟が、煩わしそうに言い返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。