第14章 騙し合い①
「これから、どうするんだ?」
桜井が、カレンに尋ねる。
三人は、公安のビルから、かなり離れた場所まで来ていた。
見渡す限り、爆破の煙がたなびいている。
一斉の爆破騒ぎは収まっていたものの、単発的にあちこちで、手製の爆弾が破裂している。
「あのソフトには、まだまだ欠陥がありそうね」
カレンが微笑を浮かべたまま桜井の問いに答えずにいると、ターニャがたなびく煙を見ながら、誰にともなく呟いた。
「わざととも思えるけど、多分、そうね」
カレンが頷く。
「どういうことだ」
「脳に与える影響が、人によって時間差があるということよ。それに、影響を受けない人もいる」
今度は、カレンが即座に答えた。
「そういうこと。今でも十分恐怖に落し入れているけど、シホはが狙っていたのは、こんなものじゃなかったはずよ」
「そうね。もっと大勢を動かすつもりだったんでしょうね」
二人の見解を聞いて、桜井はただ唸るのみだった。
ここまで悲劇的なことが起こっているというのに、二人とも冷静に状況を分析している。
幾多の修羅場を潜ってきたからなのか、人の死に心を動かされないのかはわからないが、自分とはまったく次元の違う人間だということだけは、桜井には認識できた。
「それも、直ぐに修正してくるでしょうね。明日になれば、もっと死者が出る」
ターニャは、恐ろしいことをさらりと言う。
「このままだと、後二三日もすれば、魔女狩りが始まるでしょうね」
カレンの言うことは、桜井にも理解できた。
恐怖を通り越した人の取る対応は、大きく分けて二種類ある。
ひとつは、将来を絶望して無気力になり、なにもしないで、ただ死ぬのを待つ。
もうひとつは、自己防衛本能が活発に発動し、自分を守るために、周りの疑わしい人々を血祭りにあげてゆく。
そんな人間が大勢出てくると、無気力になっていた人間までもが、リンチに加わってくる。
まさに、中世の魔女狩りがそうであった。
そこに、理性は働かない。
無意味に、罪のない人々が殺されてゆくのみである。
げに、群衆心理というものは恐ろしいものだ。
いつ、どこで、爆弾の巻き添えになるかもしれないという恐怖は、人々をそこまで狂わせるに、十分過ぎる。
「で、これから、どうするんだ?」
再びの問いに、今度はカレンが答えた。
「決まってるわ。シホと決着をつけるのよ」
「居場所はわかっているのか」
「任せといて」
カレンが快活に頷いてから、「でも、その前に片付けなくちゃいけないことがあるわ」と付け足す。
「片付けること?」
言ってから、桜井は先ほどから感じていた違和感がなんなのかわかった。
「そういえば、杉村がいないな」
「そうね、いつも一緒のあなた達が、珍しいと思っていたのよ」
ターニャも、なにかを感じていたようだ。
「それは、これからわかるわ。ミスター・サクライ、あなたにも関係のあることだから、よかったら、一緒に来る?」
言われて、桜井はピンときた。
「緒方か」
緒方には、最初から引っかかるものがあった。
自分を失脚させるために、高柳が付けたと思っていたのだが、高柳が赤い金貨のメンバーであった以上、彼が引っ張ってきた緒方もそうだと言わざるを得ない。
「んふ」
それが答えだとでもいうように、カレンが短く笑うと、スマホを取り出した。
「ハイ」
電話に出た相手に、陽気に挨拶する。
「こっちは、片付いたわ。サトルは元気?」




