第13章 裏切りの報酬③
「あんたは、いつ、赤い金貨のメンバーになったんだ?」
桜井の質問に、高柳は答えない。
「最初からでしょ」
代わりに、カレンが答えた。
「最初から? 確か、前任者は、この執務室で、心臓発作で亡くなったんだったな」
桜井が、何やら腑に落ちた様子で頷く。
その頃は、桜井はすでに公安に入っていたものの、別の部署におり、海外を飛び回っていた。
「その後釜に、あんたがなった。普通、あんたの立場には、警視庁の中から選任を行うんだが、あんたは外務省の出身だ。俺は、どうにも解せなかったが、どうやら読めたよ」
「フン、心臓発作にみせかけた暗殺か。赤い金貨も陳腐な手を使うものね」
「それを見破れなかった組織も、どうかしてると思うがね」
ターニャの皮肉を受けて、自嘲気味に言ってから、桜井が苦笑を浮かべる。
「赤い金貨のメンバーは、どこにでもいるわ。特に、お偉方には、欲の皮が突っ張った連中が多いのよ。そういった連中は、お金のためなら、平気で他人を犠牲にするからね」
カレンの言う通り、お金で人格が変わる人は多い。
成功するまでは高潔な志を持ち、清廉な人であっても、一たび大金を手にするや、まったく違った人格になる。
命までは奪わなくても、平気で他人を蹴落としたりする。
そうでない人もいるが、そういった人のほうが、少ないのではないか。
元来、人間とは、欲深い生き物なのだろう。
「もう、いい加減、観念したら」
終始無言でいる高柳に、銃を突きつけたまま、カレンが言う。
「わかった」
高柳が殊勝な顔をした。
「わたしの、負けだ」
高柳が、ゆっくりと懐に手を入れた。
「いい度胸してるじゃない」
カレンが、引き金にかけた指に、力をかけた。
「慌てるな」
高柳の口調は、落ち着いている。
「この状況で、君たちに勝てると思うほど、わたしは馬鹿じゃない。それに、どのみち、わたしの命は長くない。組織は、しくじった者や、裏切者を、決して許しはしないからな。わたしも、君たちと同じ立場の人間だ。こうなったからには、潔く、自分でけじめをつける。君たちに慈悲が
あるのなら、ここから出ていってくれないか」
「その前に、知っていることを、全部喋ってもらおうか」
言った桜井の目は、怒りに燃えていた。
国を守る意識の強い桜井には、高柳のような人間は許せないのだ。
「わたしは、なにも知らんよ」
「そんなことはないだろ」
一歩踏み出しかけた桜井の肩を、ターニャが掴んだ。
「無駄よ。こいつは、組織の中でも下っ端。私たちが掴んでいる以上のことは、何も知らされていない」
ターニャの言葉に、カレンが頷く。
この二人がそう思うのだったら、間違いはないだろうと思い、桜井は高柳に詰め寄りかけた足を止め、どうするというように二人を見た。
「行きましょ」
答えたのは、カレンである。
ターニャは、すでにドアを開けていた。
桜井も肩をすくめて、高柳を顧みることなく、ドアに向かった。
三人がエレベーターに向かいかけたとき、部屋の中から、乾いた銃声が聞こた。
「やったか」
桜井が、憐みを伴った声で呟く。
「どうでしょうね」
カレンとターニャが同時に言い、意味ありげな笑みを浮かべた。




