第13章 裏切りの報酬④
三人が、建物を出て少し歩いたとき、ビルの上から、爆発音が轟いた。
路上に、砕け散った窓ガラスの破片が降り注ぐ。
「やっぱりね」
またもや、カレンとターニャの声が重なった。
「どういうことだ?」
桜井が、不思議そうな顔で、爆発した窓を見上げる。
「あんな奴が、潔く自決するなんて思ってたの?」
カレンは、うすら笑いを浮かべている。
「あの銃声は、自分に向けて撃ったのではなかったのか」
半ば独り言のように呟いた桜井に、ターニャが冷徹な目を向けた。
「あなた、少し甘いわね」
「仕方ないんじゃない。いくら傭兵上りだからといっても、この世界とは別でしょ。それに、こんな平和ボケした国にいたんじゃ、甘くなっても当然よ」
擁護にもなっていないカレンの言葉に、桜井が唇を噛み、もう一度ビルを見上げた。
カレンとターニャは、振り返りもしない。
「火薬の量が多過ぎよ」
「どうせやるなら、派手な方がいいでしょ」
二人の会話で、爆弾を仕掛けたのがカレンだとわかった。
「どこに、仕掛けた?」
「ドアに決まってじゃない。あそこは七階よ。窓から出れるわけはないし、他に隠し扉らしきものもなかったしね」
あの時、カレンはそこまで観察していたのだ。
多分、ターニャも同じだろう。
それにしても、桜井には、いつカレンがそんな仕掛けをしたのか、皆目見当がつかない。
「いつだ?」
「入ってくる時よ」
「その時に、こうなることを見越してたのか?」
「さあね」
カレンは、それ以上言う気はなさそうだ。
「常に、備えを怠らないのが、生き延びる秘訣よ。それは、あなたも身に沁みてわかってるでしょ」
ターニャには珍しく、諭すようなことを言った。
少しは、桜井を認めているということだろう。
この二人を見ていると、国を守るということが、どれほど困難なことかよくわかる。
少しの甘えや妥協があっては、いつ足下をを掬われるかわからない。
日本が甘いと認識していたが、そんなレベルではなかった。
桁が違い過ぎると、桜井は思った。
同時に、それがわかってよかったとも思った。
これから、そういった奴らを相手にしたときの心構えができる。
「俺たちが出ていってから、暫く時間が経っていたのは、俺たちが確かめに戻ってくるかもしれないと思って、待ち構えていたんだな」
「少しは、経験学習できたようね」
カレンの言葉に、桜井が苦笑を浮かべる。
「本人にしては、起死回生のつもりだったんだろうな」
「言ったでしょ。彼は下っ端だって」
「所詮、その程度の頭しか、持ち合わせてないのよ」
「ま、そういうことだろうな」
今なら、二人が尋問しようとしなかった訳もわかる。
世界の三凶と謳われている二人を、その程度の策略で倒せると思っていた高柳は、赤い金貨のような犯罪組織で、重要な役割を担っているはずがない。
であれば、大した情報も持っていないだろう。
それにしても、国民を守るべき組織のトップレベルの人間が、犯罪組織のメンバーというのも情けないが、その程度の腕と頭というのが、桜井にはもっと情けなかった。
「ところで」
安全圏内まで遠ざかったとき、カレンが足を止めて、ターニャと桜井を見た。
「そろそろ決着をつけようと思うんだけど、手伝う気ある?」
その頃、悟は窮地に陥っていた。
カレンと別れた後、悟は、CIAのセーフハウスに連れていかれた。
絶対に安全な場所だと言うスコットの言葉を、悟は疑いもしないでついていった。
そこは、古ぼけたアパートの一室で、外観を見た時、悟は大丈夫かいなと思ったほどである。
しかし、中へ入った悟は驚いた。
外観と違い、中は要塞みたいな造りになっていた。
木製とドアを開けると、直ぐに鋼鉄製のドアがあった。
そのドアを開けるには、8ケタの暗証番号と、スコットの瞳孔認証が必要だった。
部屋に入ると、更に悟は驚いた。
部屋の造りにではない。
そこに、緒方がいたからだ。




