第12章 滅亡へのカウントダウン④
二人は、都内の、とある公園へと向かっていた。
どこを走っていても、車窓からは、ところどころに立ち上る黒煙が見える。
人々はパニックに陥って、道路は大渋滞していると思われたが、いつもより車が少ない。
爆弾騒ぎは全国各地で起こっているので、みんな鳴りを潜めているものと思われる。
広い公園を歩いてゆくと、目立たない一角にあるベンチに座り、遠い目をして空を見上げているスコットの姿があった。
彼が見つめる先には、とても世の中が騒然としているとは思われないほど、抜けるような青空が広がっている。
ただ、ところどころに見える黒煙と、普段はお年寄りや赤ちゃんを連れたママの散歩が多いこの公園に、まったく人影がないのが、現状を物語っていた。
二人が何気ない仕草で、スコットの隣に腰を下ろした。
「すまない。まさか、あんなことになるなんて」
空を見上げたまま、スコットが謝りの言葉を述べた。
「リュウのこと? それとも、隠れ家のこと?」
スコットを見ることもなく、カレンも空を見上げる。
「隠れ家? 何のことだ」
スコットが怪訝な顔をして、空からカレンに眼を移した。
「ゆうべ、私の隠れ家が襲われたの。武装した集団にね」
「なんだって」
スコットが驚いた顔をする。
「大丈夫だったか?」
「だから、ここに来てるんでしょ」
カレンが、青空を見つめたまま答える。
「そうだな。で、襲ったのは?」
「暗くて、よくわからなかった」
「そうか」
スコットが俯いて、暫く何かを考えるように沈黙した。
そんなスコットの態度を気にも留めずに、カレンは相変わらず空を見上げたままだ。
悟は、何やら思い耽った様子で、前方の木々を眺めていた。
「やはり、ヒューストンだな」
唐突に、スコットが言った。
「多分ね」
カレンが空を見つめるのをやめ、スコットに目を移す。
「二人共、何の話をしてるんや」
初めて、悟が口を開いた。
「裏切り者の話よ」
カレンの後を、スコットが引き取る。
「カレンの行動を知っているのは、私とヒューストンだけだ。だったら,ヒューストン以外にはいないだろう」
「ちょっと待てや、裏切り者はあんたかもしれんやんか。あんたが裏切ってないという保証もないねんで」
「それはないわ」
即座に、カレンが否定する。
「なんでや?」
「私が、カレンの兄だからだ」
穏やかな口調で、スコットが告げた。
「な~んや、そうか。それやったらないわな、って、今、なんて言った? あんたが、カレンのお兄ちゃんやって?」
驚きのあまり、悟の目が大きく見開かれた。
「そうだ。私とカレンは兄妹だ。このことは、誰にも知られていない。もちろん、ヒューストンにもな」
重々しく頷くスコットを、悟が呆然とした顔で見つめる。
「黙っていてごめんね。別に、隠していたわけじゃないのよ」
「いや…… 別に、怒ってへんけど。そやけど、びっくりしたで。ほんま、心臓が止まるかと思ったわ。でも、二人とも似てへんな。名前も違うし。あんた、確か、スコット・グレイっていう名前やったよな」
「それは、私たちが腹違いの兄妹だからだ」
「それとね、今の名前は二人共本名じゃないのよ。私たちは、この世界に入るときに過去を捨てたの」
スコットの言葉に、カレンが付け足す。
「そうか、色々あったんやな」
二人の言葉に頷いた悟は、それ以上追及しようとはしなかった。
「本当にカレンは、サトルのことが好きなんだな」
悟が怒っていないとわかり安堵した表情になったカレンを見て、スコットが悟に右手を差し出した。
「サトル、こんな妹だが、これからもよろしく頼むよ」
「あ、ああ、まかしとき」
悟が、差し出された手を弱々しく握った。
一瞬ながら、悟の顔に躊躇いと困惑の表情が浮かんだのを、スコットは見逃さなかった。
スコットの眼が、怪しく輝く。
再び、空に目を向けているカレンは、二人の微妙な表情に気付いていないようだ。




