第12章 滅亡へのカウントダウン③
「サトル、そろそろ出かけるわよ」
襲撃者を吹っ飛ばした翌朝。
カレンが身支度を整えて、悟を急かしている。
「どこから出るんや?」
悟の疑問はもっともで、カレンの言葉通り、地下室には影響を及ぼさなかったものの、未だ隠れ家の周辺には警察車両が何台も停まっており、現場検証が続いている。
地下室への入り口は巧妙に隠されているので、警察に気付かれずに済んでいるが、大勢の警官が居るところへ、のこのこと顔を出すわけにはいかない。
「大丈夫よ。ここには地下道があってね、少し離れた家に通じてるの。そこも、わたしの隠れ家なの」
「用意周到やな」
苦笑を浮かべて、点けていたテレビを消そうとリモコンを手にした悟の動きが止まった。
悟の目が、テレビの画面にくぎ付けになる。
画面の中は、黒煙が充満していた。
その黒煙の中に、かすかに風景が見える。
かすかな風景は次々と変わっていくが、黒煙だけは変わらなかった。
皆が平穏に戻ったと錯覚していた、月曜の朝。
凄まじい衝撃が、日本全土を襲った。
通勤ラッシュで混雑する、秋葉原の総武緩行線。
三鷹から千葉を繋いでいるこの路線は、御茶ノ水から錦糸町までの間が、ひどく混雑する。
特に、秋葉原での乗降客が多く、まさに立錐の余地もないような状態になる。
名古屋の東山線の名古屋駅。
ここも、ホームが狭いのもあるが、伏見や栄といったビジネス街に通勤する人々で込み合っている。
そして、大阪は、地下鉄御堂筋線の梅田駅。
御堂筋線は、一番ピークの時間帯には、へたをすれば改札の手前まで列をなしている。二~三分に一本、電車が来るというのにだ。
最も混雑する、午前八時過ぎ。
まずは、その三ヶ所で、同時に口火が切られた。
大音響と共に凄まじい衝撃が、車両を揺すった。
各車両のいたるところで、爆弾が破裂したのだ。
あまりの凄まじさに、車両の欠片と人々の肉片が混ざり合い、塵となって空中に舞い上がったほどだ。
三ヶ所とも、その電車に乗り合わせて、生きている者は皆無という凄まじさだった。
東山線と御堂筋線は地下のため、爆発は駅を出発して走行している最中だったが、紅蓮の炎は、前後の駅までもを襲った。
ホームの手前にいた人々は、瞬時にして黒焦げになったほど、炎の威力は凄まじかった。
そうでなくとも、ホームで電車を待つ人々の多くが、重度の火傷を負った。
阿鼻叫喚の余裕もなく、数千人の命が、瞬時にして奪われた。
その騒ぎも収まらぬ十分後、日本のいたるところで、爆発騒ぎが起こった。
新幹線は言うに及ばず、飛行機でさえも、いくつもの機体が空中で四散した。
わずか一時間足らずで、数万人の命が奪われた。
悟が見つめている映像からだけでも、酸鼻を極めた状況が伝わってくる。
「いよいよ、始まったわね」
カレンも悟の横に来て、映像を眺めていた。
「これも、志保さんの仕業やろうか?」
「でしょ。多分、脳に働きかけて、素人に爆弾を作らせているのよ」
「そんなことが出来るんか?」
「出来るわ。催眠術みたいなものだもの。それにね、爆弾なんて、わりと簡単に作れるものよ。起爆装置やら時限装置なんてものを考えなければね」
「そしたら、自爆テロみたいなもんか」
「みたいなじゃなく、そうなの。この様子じゃ、ひとつの車両で、何人もの人間がお手製の爆弾を破裂させたみたいね」
「やばいな」
カレンが頷き、テレビを消した。
「ぐずぐずしてられないわ。行くわよ」
「そうやな。早ようケリを着けんと、どえらいことになるな」
モニターを見ると、もう現場検証の警官はいなかった。
それどころではなくなったのだろう。
念のため、二人は地下道を通って、別の家から地上に出た。
「多分シホは、赤い金貨の手を離れて、暴走してるんだと思う。このままだと、一週間で半分くらいの人間は減るわね」
歩きながら、カレンが言う。
「とんでもない数やな」
「人間が滅びようと、わたしにはどうでもいいことだけど、一応、受けた依頼は果たさなくちゃね」
「まあ、そうやな」
悟は、カレンのような境地には達していないので、少しでも罪のない人々が死んでゆくのを止めたいと思っていた。
そのためには、カレンを動きやすくする必要がある。
昨日カレンに頼まれたことを、うまくやってのけることが、一人でも罪のない人を救うのだということを肝に銘じて、悟はカレンについて行った。




