↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/108

第11章 罠⑧

 頭を振って立ち上がった劉の顔に、もう笑みはない。

 今は、あらん限りの憎しみを込めた眼で、カレンを睨んでいる。

 劉とは対照的に、カレンの顔には笑みが浮かんでいた。

 その笑みは、お前の腕はこんなものかと、挑発しているように見えた。

 劉が低い唸りを発して、カレンにむかって跳躍した。

 素早く、ナイフを突き出す。

 それよりも早く、カレンが右手を振り、巻いていたムチを半分ほど解くと、劉の顔に叩きつけた。

 劉の頬が、鋭利な刃物で切られたように、ぱっくりと割れた。

 劉の前進が止まった。

 裂けた傷口を左手の甲で拭い、甲に付いた血を見て、またもや劉の眼が憎悪に燃えた。

 もはや劉の顔は、人間のものではなかった。

「あんたは、サディストだと聞いてるわ。私を、そんなふうにしたかったんじゃない。どうしたの、私の顔は綺麗なものよ」

 今度は、言葉で劉を挑発する。

 劉の顔が、一層歪んだ。

 左手にナイフを持ちかえ、右手で素早く拳銃を抜いた。

 しかし、銃口をカレンに向ける前にカレンの右腕がしなり、カレンの意思を受けたムチの先端が、劉の手から銃を奪い取った。

「手段は問わないって聞いていたけど、本当ね。あんたは、強いんじゃない。ただ、卑怯なだけよ」

 今度の言葉は挑発ではない。

 カレンは、心の底から嫌悪感を抱いたようだ。

 吐き捨てるように言ってから、容赦なく劉に向かい、ムチを振るった。

 劉が、両腕で顔を庇う。

 そんな劉を嘲笑うように、カレンのムチは稲妻のように、劉を襲い続けた。

 劉の腕が、みるみる朱に染まっていく。

 それでも、ムチの雨は止まない。

 いまや劉は、、頭といわず、腕といわず、足といわず、全身が朱に染まっている。

 さすがの劉も、この攻撃には耐えかねたとみえ、窓ガラスを突き破って外へと踊り出た。

「おい、ここは五階やで」

 悟が、劉が突き破った窓から下を覗いた。

「生きてるやんか」

「まったく、タフだこと」

 悟の驚いた声を受けて、横に来て下を見たカレンが、呆れた声を出した。

 劉は平然と立って、窓から顔を出している二人上を見上げていた。

 心なしか、口元が歪んでいる。

 笑っているのだ。

「サトル、脱出するわよ」

 劉の右手を見たカレンは、切迫した声で言うや、悟の腕を掴んで駆け出した。

 階段まで来たとき、下から凄まじい爆発音が聞こえ、建物が揺れた。

「しまった。遅かった」

「どうしたんや」

 悟は状況が掴めず、戸惑っている。

「劉の右手に、リモコンが握られていた。起爆装置よ」

 答えながら、カレンが階下の様子を窺った。

 爆発は一階で起こったみたいだが、既に、煙がそこまで昇ってきている。

「ビルと一緒に、俺らを吹っ飛ばすつもりか」

 状況が呑み込めた悟の顔が、緊張に包まれた。

「そういうこと」

 カレンが再び悟の手を取って、屋上へと駆け上がる。

 屋上へ出る扉はロックされていた。

「また、ピンを使うんか」

「そんな悠長なことをしてる暇はないわ」

 カレンが、ポケットから粘土のようなものを取り出して、扉の上下の蝶つがいに貼り付けた。

「隠れて」

 二人が、階段の陰に隠れる。

 カレンが拳銃の狙いを定めて、二つの粘土状のものを狙い撃った。

 ボンッボンッと電球が弾けるような音がして、蝶つがいが吹っ飛ぶ。

「行くわよ」

 カレンが駆け出し、扉を足で蹴破った。

「ニトロまで持っとったんや」

 屋上へ出た悟が、呆れたように言う。

 カレンの足が止まり、悟に顔を向ける。

 何かを言おうとして口を開きかけたとき、またビルが揺れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。