↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/108

第8章 とぼけた男②

「悪いが、目的地に着くまで、目隠しをさせてもらうぞ」

 桜井がそう言って、緒方が、悟に目隠しをした。

 窓には、スモークシールを貼っているので、外から見られる心配はない。

「あんたら、何もんや?」

 恐れ気もなく、悟が尋ねる。

「黙ってろ」

 緒方が威嚇するような声で言って、悟の横腹を小突いた。

 内調か公安の人間だろうと当たりを付けた悟は、何を訊いても無駄だと思い、それ以上口を開かなかった。

 悟は、成行きに任せることにして、シートに背中を預けた。

 昨夜から一睡もしていない悟に、睡魔が襲う。

 軽い車の振動が、より一層、悟を眠りへと引き込んでいった。

 悟を乗せた車は、何度も左折や右折を繰り返しながら、一時間lほど走って停まった。

「降りろ」

 静かな声で桜井が言ったが、悟は無反応だ。

「降りろ」

 もう一度、桜井が言う。

 それでも、悟はピクリとも反応しない。

「こいつ、恐怖のあまりブルってるんじゃ」

 緒方が、悟の顔を覗き込んだ。

 顔を上げて桜井を見た緒方の目が、丸くなっている。

「桜井さん、こいつ、寝てます」

「なんだって!」

 普段、物に動じない桜井が、驚いた声を出した。

 桜井も、悟の顔を覗き込む。

 緒方の言う通り、悟は爆睡していた。

 その寝顔は、とても幸せそうで、今にも涎を垂らさんばかりだ。

「呆れた奴だな」

 桜井が、半ば感心した口調で呟いた。

「おい、起きろ」

 苦笑しながら、桜井が悟のわき腹を強く突いた。

「イタっ! なにすんねん」

 悟が、激痛に跳ね起きた。

「おまえ、この状況で寝るとは、随分、いい度胸してるな」

 桜井が、半ば呆れ、半ば感心した口調で、悟を眺めた。

 あのカレンと一緒に暮らしているくらいだから、只者ではないと思っていたが、それにしても、この状況で熟睡するとは、度胸があるのか、ただの馬鹿なのか、桜井は測りかねて戸惑っている。

「しゃあないやん。俺、昨日から寝てないんやし。それに、黙っとれ言うたんは、あんたらやないか。それやったら、寝るしかないやんか」

 臆することなく、悟が文句で応えた。

「とぼけた奴だな」

 桜井は怒るのも忘れて、ただただ呆れるばかりだ。

「おまえ、この状況がわかってるのか」

「そんなん、わかるはずないやろ。俺がわかっとんのんは、目付の悪い奴らに、有無を言わさず拉致られたことだけや」

 桜井は何かを言いかけたが、口を閉じ、再び悟をまじまじと眺めた。

 運転席と助手席の男も、呆気に取られた様子で、悟を見ている。

 緒方だけが、顔に朱を差している。

「きさま、我々を舐めているのか」

 怒気を含んだ声で言い、悟の襟首を掴んだ

 悟の顔が、みるみる赤くなっていく。

 が、悟は何も言わず、目隠しの向こうから、じっと緒方を見返している。

「まあ、そう短気を起こすな」

 桜井が、緒方の手を掴んだ。

「離してください。こんな奴は、一発殴ってやれば、大人しくなりますから」

 「やめろと言っている」

 静かだが、ドスの利いた声だ。

「ここは、軍隊じゃない。こいつは、あくまでも民間人だ。手を出すことは許さん」

 桜井の迫力に圧されて、緒方が手を離した。

「とにかく、降りてもらおう。目隠しはそのままでな」

 桜井が悟の手を取り、車から降ろした。

 悟の鼻孔を、磯の香りがくすぐる。

 どこかの埠頭だろうと思っていると、金属の軋む音が聞こえ、悟の背中が押された。

 中に入ると、もう一度金属の軋む音が聞こえ、悟の目隠しが解かれた。

 悟が、辺りを見回す。

 いかにも古くさそうだが、灯りだけは煌々と照らされている。

 建物の中は広く、天井は高い。

 壁は漆喰で、床はコンクリートの打ちっ放しだ。 

 天井付近に、いくつかの窓があった。

 何かの倉庫だったのだろう。

 建てられてからかなりの年数が経っているのは、壁のところどころがひび割れが出来ていることからもわかる。

 今は荷物も置かれていないため、所々に天井を支える柱があるだけで、建物の中はガランとしていた。

 入口の横に木の階段があり、その上には、事務所と思しき部屋があった。

 埠頭沿いの倉庫に拉致か。まるで、映画みたいやな。

 暢気に、そんなことを考えていた悟の耳に、ドスの利いた声が飛び込んできた。

「おまえ達が、東京へやってきた目的は?」

 これも、映画みたいや。

 どこまでも、悟の思考は呑気だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。