↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/108

第7章 怒れる男③

 高柳の言う通り、トゥルーフレンズによる飛び込みは、今や、全世界のいたるところで起こっていた。

 最初は、歩きスマホだけを標的にしていた志保も、次第に、人間という生き物に、憎しみを募らせていった。

 トゥルーフレンズは、全世界で三億億人を数える会員数だけに、そのすべてをターゲットにすれば、凄まじい数の人々が犠牲になる。

 事実、これまでに、日本だけでも数万人の人が犠牲になり、世界各国の犠牲者を集めると、数十万人に上っていた。

 世界中の、優秀なサイバー部隊や技術者が、躍起になって原因を追究しているが、未だ、トゥルーフレンズが原因だとは特定されていない。

 それというもの、犠牲者の手に握られているスマホを解析しても、トゥルーフレンズはインストールされていないからだ。

 犠牲者が最後に見ていたものは、ラインであったり、フェイスブックであったり、ツイッターやインスタグラムであったりと、まちまちだった。

 犠牲者に死の囁きを行った後、トゥルーフレンズは、自動的にアンインストールされ、代わりに、なにがしかの有名なSNSソフトが起動されていたように見せかける仕組みになっていた。 

 いくら優秀な技術者が、犠牲者のスマホを調べても、トゥルーフレンズの痕跡すら残っていない。

 だから、全世界で三億人もの会員数を抱えながら、トゥルーフレンズの認知度は低かった。

 CIAが開発しようとしていたものを改良して、志保は、それほど狡猾な罠を仕掛けていた。

 今や、全世界は、志保ひとりの手によって、大混乱に陥っている。

 ただの道具に過ぎないはずのスマホ。

 時代の技術を結集して、より便利な世の中にしようとして作られたスマホ。

 便利過ぎるがために、自制心をなくさせる。

 一頃流行った、場所により数々のモンスターが現れ、それをゲットするゲームにおいても、人々は自制を失くし、運転中でもモンスターをゲットしたいがために、人を撥ねて殺すという事態が起きた。

 たかがと言っては失礼だが、人生になんのメリットももたらさないもののために、人生を棒に振り、あまつさえ、他人の人生まで奪ってしまう。

 これが文明世界というには、なんとも情けない話ではある。

 世の中が便利になればなるほど、人心は荒廃し、かつ脆弱になっていくのかもしれない。

 志保は、そんな人間の弱さを、的確に突いていた。

「それしか、ないでしょうね」

 桜井が、冷静な声で答える。

「誰かが、今の事件の原因となるソフトを作った。そいつが日本人なのか、あるいは、日本に潜伏しているのかはわかりませんが、世界の三凶は、それを操っている人間と、そのソフトを手に入れんがために、東京に来ているのでしょう」

「私も、そう睨んでいる」

 高柳が、鷹揚に頷いた。

「何がどうなっているかはわからんが、我々の日本で、奴らに好き勝手な真似をさせておくわけにはいかん。今の任務は、誰かに引き継ぐから、君は、この件に全力を尽くしてくれ」

 桜井は、高柳の眼鏡の奥に異質なものを感じた。

 国家の危急時だというのに、高柳の口調と目には、焦りや怒りの色など、微塵も浮かんでいない。

 口調にも、それは現れていた。

 普段から、いかなる時でも冷静沈着な男だったら、違和感など感じはしない。

 だが、高柳は、エリートにありがちな、自己保身に走るタイプの人間だ。

 そんな人間が、東京という街で、戦争に近い騒ぎを起こされたというのに、憤りも焦りも表に出さないというのは、おかしなことだ。

 が、桜井は、何も言わなかった。

 気が小さいくせに、狸である高柳に、何を質問しても無駄だと思ったからだ。

 上司と部下の関係でありながら、二人の仲はよくない。

 桜井は、いつも勿体ぶった態度を取る高柳に反感を覚えていたし、高柳も、エリートの道を捨てて戦闘に生きる桜井を、どこか蔑んでいた。

 そんな仲だから、桜井は高柳に心を許してはいない。

「言われなくても、そうします。奴らに、この日本で好き勝手にさせてはおきません」

 違和感を感じながらも、桜井はそう答えた。

「世界の三凶相手では、いくら君でも、荷が重いだろう」

 そういって、高柳が、後ろに立つ男を振り返った。

 そして、桜井に目を向ける。

「そこでだ」

 またもや、勿体ぶった口調で区切る。

「優秀な部下を、ひとり付けよう」

「奴ら相手に、生半可な奴は、足手まといになるだけです」

 桜井は、傭兵時代に何度か命を落としかけたことがある。

 戦争を生業としているのだから、当たり前の話だが、一度、テロ組織に奇襲をかけた部隊が全滅したことがある。

 その原因となったのが、己の腕を過信した、一人の跳ね上がり者だ。

 自分の腕を過信するあまり、注意を怠り、敵に察知されてしまった。

 敵の数は、奇襲部隊の三倍はいた。

 だからこその奇襲だったのだが、悟られてしまっては、奇襲にならない。

 周りを取り囲まれ、退路を塞がれ、四方から敵の銃弾を浴びた。

 桜井だけがなんとか突破口を開き、虎口から逃れることができた。

 以来、桜井は、組む相手を選ぶようになった。

 公安に入ってからっは、常にひとりで動いている。

 どんな危険な任務であっても、誰とも組まない。

 彼もまた、カレンやターニャと同じ人種であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。