第6章 襲撃⑦
「クソ度胸もそのままね」
ターニャが、感心した様子で、悟を見る。
「それとも、馬鹿なのかしら」
そんなことは露ほども思っていないが、ちょっとからかってみたくなった。
氷の心を持つターニャにしては、珍しいことだ。
「失礼ね。わたしの旦那様に向かって」
「多分、馬鹿なんやろ」
カレンの言葉に被せるように、悟が笑みを浮かべながら言った。
ターニャから、殺気が消えた。
構えていた銃を降ろす。
「やめた。今日は、決着を着ける気分じゃなくなったわ」
「珍しいわね、あなたがそんな気になるなんて」
「あなたの旦那に、毒気を抜かれたの」
口調は苦々しかったが、ターニャの口元は綻んでいた。
カレンとターニャ。
どちらも、凍てついた心を持っている。
そんな二人の心を解きほぐすほど、悟には不思議な魅力があった。
悟には、得体の知れないところがある。
並みの男なら、自分を巻き込んだ女のために、銃弾に身を晒すことなど出来ない。
いや、たとえ心底惚れ込んでいたとしても、咄嗟に身を投げ出せるものではない。
悟の魅力は、普通の女性にはわからない。
ただ、頼りない男としてしか映らない。
常に死と隣り合わせで生きてきた二人だからこそ、悟の本性を感じ取ることが出来るのだろう。
「決着は、次に会った時に着けるわ」
そう言って、ターニャが二人に背を向けた。
その瞬間、ターニャの肩がぴくりと動き、再びカレンに向き直る。
「あなたのお仲間?」
ターニャの顔は厳しかった。
「わたしが群れるのは嫌いなのは、知ってるでしょ。あんたの仲間じゃないの?」
「わたしも、群れるのが嫌いなのは知ってるでしょ」
二人が頷き合い、ぞっとするような顔を浮かべた。
「ここは、共同戦線といきましょうか」
言って、ターニャがドアの横に張り付いた。
「いいわね」
カレンが悟の腕を引っ張って、ターニャと反対側のドアの横に張り付く。
悟には、これから何が起こるか、予想がついていた。
なるべく二人の邪魔にならぬよう、大人しくカレンの後ろに立つ。
三人共、気配を気づかれぬよう、息を殺していた。
暫らくして、ドアがそっと開き、少しの間を置いて、目だし帽を被った二人の屈強な男が、自動小銃を構えながら、静かに部屋へと入ってきた。
カレンとターニャは、電光の素早さで二人の男の腕を掴んで、自分の方へと引き寄せた。
喉笛に手刀を浴びせ、手にしていた自動小銃を奪い取り、男達の身体を、廊下へと突き飛ばす。
その動作は、まるで双子のように、ぴったりと息が合っていた。
男達が廊下へと弾き出された刹那、激しい銃声がした。
銃声に合わせるように、二人の身体がダンスを踊る。
銃声が止んだ時、二人の身体がドゥッという音を立てて、廊下に沈んだ。
その隙を突いて、カレンとターニャが、腕だけを外に出して、敵から奪った自動小銃を乱射する。
なんの合図を交わしたわけでもないのに、ここでも、二人の息はぴったり合っていた。
弾が尽きると、カレンが素早くドアを閉めてロックした。
手招きで、ターニャを寝室へと誘った。
カレンが、クローゼットから大きなバッグを引っ張り出す。
ターニャに向かい、にんまりとしてみせてから、バッグを開けた。
中を見た、ターニャの目が、妖しく輝く。
バッグの中には、十発近い手榴弾と、数丁の自動小銃、オートマチックの拳銃が五丁にリボルバーが五丁、それに予備弾倉が有り余るほど詰め込まれていた。
カレンとターニャが、それぞれ好みの武器を手に取る。
「これ、護身用。使い方はわかるでしょ。無闇に撃っちゃだめよ」
そう言って、カレンが小型のオートマチックを、悟に差し出す。
悟が、差し出された拳銃を素直に受け取る。
その時、立て続けに銃声が聞こえ、ドアを蹴破る音がした。
静かに暗殺しようと思っていたみたいだが、気付かれてしまっては意味がない。
どうやら敵は、強硬手段に切り替えたようだ。
カレンが寝室のドアを少し開けると、すかさずターニャが、手榴弾を放る。
ターニャの手が元に戻る前に、カレンはドアを閉めていた。
一瞬の後、大音響と共に部屋が揺れた。
カレンとターニャが、自動小銃を構えて、寝室から飛び出す。
ターニャは室内を、カレンは廊下を、暗黙のうちに受け持ち、生きている者があれば、容赦なく仕留めていった。
二人の銃声が止んだとき、部屋の内外には、二十以上の死体が転がっていた。
本当に、二人の息はぴったり合っている。
どんなに訓練を積んだ兵士でも、とてもここまでは出来ない。
合図など、なにもないのだ。
いかに、二人が戦闘のために生まれ、幾多の戦闘に生きてきたかの証であろう。
悟は寝室から、二人が生きている者がいないか調べている姿を見守っていたが、ふと背筋に冷たいものを感じ、窓に目を転じた。
いつの間にか、窓際に凶悪な面相をした大男が立っていた。
その男の後ろの窓が、なにかで溶かされたように、綺麗になくなっていた。
男は、片手に軽々と機関銃を持っている。
「カレン、ターニャ」
悟が大声で叫ぶと同時に、男に銃口を向けた。
悟の声に反応して、カレンとターニャが振り向いた時、悟は横っ跳びに拳銃をぶっ放すところだった。
同時に、男もトリガーを搾り、片手に持つ機関銃が咆えた。
悟の身体すれすれにいくつもの銃弾が掠めていき、悟の身体が、床に叩きつけられた。




