第6章 襲撃➄
カレンの予想通り、あれからは襲撃もなく、ハマーは快調に高速を飛ばして、今は新宿を抜けようとしていた。
「カレンの言う通りやったな。で、これから、どうするんや」
まぶしそうに朝陽を見ながら、欠伸を噛み殺した声で、悟が訊いた。
不夜城と呼ばれ、深夜でも活気溢れるこの街も、さすがに始発が出る頃になると閑散している。
この時間に目に付くのは、店が出したゴミを漁ろうとするカラスと、これから帰宅しようという客引きやボーイやお店勤めの女の子、あとは、路上に蹲る酔っ払いくらいだ。
「とりあえず、ヒューストンが用意してくれたホテルに行きましょ」
それから二時間後、二人はヒューストンが用意してくれたホテルのスイートルームでくつろいでいた。
三十階の窓からは、大都会のビル群が広がり、まるで王様のような気分にさせてくれる。
先ほどまで、飽きることなく肩を並べて眼下に広がる世界を眺めていた二人だったが、さすがに一時間も眺めていると飽きてきた。
「暇やな」
大人三人が悠に寝れるであろうベッドに、大の字に寝転んだ悟が、天井を見上げながら退屈そうにぼやいた。
「いいじゃない、こんな機会、滅多にないわよ」
豪華な部屋で、悟と二人っきりで過ごせるのが、カレンにはたまらなく楽しいらしい。
「そんなんだから、大阪人はせっかちだと言われるのよ」
カレンが悟の側に身体を横たえて、悟の目を、悪戯っぽく覗き込んだ。
「それとも、わたしといるのが退屈?」
悟が、おもむろにカレンの頭を掴み、自分の方へ引き寄せた。
そのまま、熱い口づけを交わす。
「これが、答えや」
悟が、笑顔をカレンに向ける。
「いきなり、何するのよ」
そう言って、カレンが悟の上に乗り、今度はカレンから唇を合わせた。
「お返しよ」
もう一度、悪戯っぽい目で、悟の目を覗き込む。
「なんで、俺みたいなんを好きになったんや」
カレンに腕枕をしながら、悟が唐突に尋ねた。
「何でかしらね、魔が差したのかしら」
カレンが含み笑いを漏らす。
「まあ、そんなとこやろな」
「冗談に決まってるじゃない」
真顔で頷く悟の頭を、カレンが軽く小突いた。
「わたしのような人間が、魔が差すなんてあるわけないじゃない。あなたはね、自分では気付いてないでしょうけど、人にない非凡なものを持ってるわ。それに、男らしい」
「俺が、男らしい!!」
悟の目が、まん丸くなった。
「そうよ、男らしいわ。あなたは、あんな事に巻き込んだわたしを庇って銃弾を受けた。わたしのせいで死にかけたのに、わたしの愛を受け入れてくれた」
「銃を突き付けられて、わたしを選ぶか、死を選ぶか、どちらか決めろなんて言われたら、誰だってカレンを選ぶやろ。死ぬのは嫌やし、カレンはべっぴんさんやしな」
カレンの顔に、なんともいえぬ笑みが広がる。
「普通は、どちらも選ばないわよ。わたしという人間を知っていればね。逃げ出そうとするか、泣いて命乞いをするかのどちらかよ。あなたは、躊躇いもせず、わたしを選んでくれた。わたしを指さして、カレンがいいと言ってくれた。わたしのせいで巻き込まれたのに、身を挺してわたしと銃弾の間に入ってくれた。これが、普通といえる?」
「女性を守るのは、男の務めやからな。まあ、カレンがか弱いかどうかは別にしてや」
怒るどころか、カレンの笑みがますます広がった。
「そこよ。あの時、あなたはわたしの姿を知っていた。あなたの目の前で、何人もの敵を撃ち殺していたからね。それでも、あなたは、わたしを守ってくれた。これが男らいいと言わずに、なんて言うの?」
本気で照れてしまった悟は、なにも返せない。
「あなたをひと目見た時から、何かわたしの心に訴えてくるものがあったわ。だから、あなたを撒き込んだのよ」
悟の照れが、一瞬で吹き飛んだ。
「じゃあ、なにか? 俺に惹かれるものがあったから、俺をあんなことに巻き込んだんか?」
満面に笑みを湛えて、カレンが頷く。
「ひでえ話やな」
悟が呆れた顔をしたが、直ぐに真顔に戻って、真剣な口調で言った。
「まあ、そのお蔭で、カレンとこうして一緒におれるんやから、感謝せんとな」
今度は、カレンが照れてしまって、顔を真っ赤に染めた。
「サトル」
「カレン」
二人が身体を寄せた時、カレンの全身に緊張が走った。
カレンが素早く悟を突き飛ばすと、自分も反対側に転がった。
プスプスと押し殺した音と共に、二人のいた場所に穴が開いた。




