第6章 襲撃③
「凄いな、まるで映画みたいやん」
念仏を唱え終わると、悟は、もう何事もなかったかのように、前を向いて暢気な声をだした。
カレンが微笑む。
「よくやったわね、サトル」
笑みを崩さず、カレンが優しい口調で褒めた。
「そう言われてもな」
カレンに褒められても、悟は嬉しくなさそうだ。
「直ぐ座席に戻るんやったら、俺にハンドルを任さんでもよかったんとちゃうか」
少し恨めしそうな声で、カレンに文句を言う。
カレンの笑みが、ますます広がった。
「あの状況では、ほんの一瞬が生死を分けるの。サトルにハンドルを任せていなかったら、確実にトレーラーにぶつかっていたわ」
慈しむようなカレンの口調は、RPGをぶっ放した時とは、まるで別人のようだ。
「そうなんや? 俺、失敗したらどうしようって、どきどきしてたんやで」
悟が、胸を撫で下ろす仕草をしてみせた。
「言ったでしょ。サトルを信頼してるって」
悟の顔が、嬉しそうに輝いた。
それから、怪訝そうな顔になる。
「なんで、トレーラーを狙わず、山を撃ったんや? あの距離で、カレンが外すわけないからな」
「馬鹿ね、あんな至近距離でトレーラーを撃っちゃったら、わたし達まで巻き添えを喰らってたわよ」
「言われてみれば、そうやな」
疑問が解けてすっきりしたのか、悟は無邪気に頷いた。
命を落としかけたというのに、二人の会話は、まるでデートを楽しんでいるかのように朗らかだ。
「そやけど、あの筒を投げ捨てたんはまずかったんんとちゃうか? えらい騒ぎになるで」
「筒っていいわね」
カレンが、声を出して笑う。
「大丈夫よ。事故として処理されるから」
ひとしきり笑い終えると、自信を持って言い切った。
「それはないやろ」
悟が、懐疑的な顔をする。
「あの山の砕け方と、RPGの抜け殻が見つかったら、誰がどう見ても、事故とは思わへんぞ」
「さっきは筒で、今度は抜け殻か。悟って面白いわね」
悟の言い様がおかしくって、またもやカレンが、大きな声で笑う。
「筒や抜け殻が、そんなに面白いか」
悟は怒っているのではない。
笑いを取って、してやったりという顔だ。
大阪人の性である。
「面白いわよ。そんな表現が出来るなんて、サトルは詩人になれるわよ」
「俺が詩人やったら、とっくに逃げとるわ」
「ま、そうね。サトルが詩人でなくてよかったわ」
カレンは怒ることなく、冗談とも本気ともつかぬ口調で返した。
「いいこと、サトル」
カレンが真顔になる。
「今の日本の国民はね、テロや戦争なんて、よその国の出来事で、自分の国でそんなことが起こるなんて、これっぽちも想像してないわ。だから、もしそんなことが日本で起こったなんて知ったら、マスコミは騒ぎ立てるわ、国民はヒステリックになるわで、それはもう、収拾のつかない事態に陥るでしょうね。そうなったら、政府としても対処しきれないので、事実をひた隠すに決まってるわ」
確かに、カレンの言う通りに違いない。
日本でテロでも起ころうものなら、平和に慣れている日本人には衝撃が大き過ぎて、到底受け入れられないだろう。
マスコミも国民も、ハチの巣をつついたように騒ぎ立てるに違いない。
ましてや、高速道路でRPGなんて物騒なものをぶっ放したと知れたら、これはもう、テロでは済まされない。
日本が大混乱に陥ることは、目に見えている。
「そうやな、確かに、カレンの言う通りやな」
悟は、カレンの言葉に反論のしようもなく、ただ顔をしかめるのみだ。
「今の日本人はね、自分達だけは大丈夫っていう安心感を得たいがために、世界で起こっている現実から目を背けているのよ。よその国でなにが起ころうと、所詮他人事だからね。そうやって、見せかけの平和にしがみついて満足してるのよ。自分達から手を出さなければ、どこからも襲われないと思っているのが、その証拠ね」
悟の顔が、ますます苦渋に満ちてゆく。




