第6章 襲撃②
「どうするんや?」
顔に緊張を滲ませているものの、悟の口調には緊迫感はない。
「そうね、どうしようかしら」
うきうきとした声で言って、カレンが顔を綻ばせた。
その目は、前方のカーブに注がれている。
落石防止用にコンクリートで固められた山の斜面に沿うように、左へ緩やかな曲線を描いている。
「サトル、後部座席のシートを上げて、中に入っている筒を取ってくれる」
カレンに言われるまま、悟は素早く後部座席に移動し、シートを持ち上げた。
「こんな仕掛けしとったんか」
呆れた声を出しながら、悟が筒状のものを取り出す。
「これは、なんや?」
またもや素早く助手席に戻ったものの、悟は物珍しそうに、手にしたものをしげしげと眺めた。
その間にもカレンは、ハンドルを右や左に切っているが、それに合わすように、前方のトレーラーも、お尻を左右に振り、ハマーに抜かせまいとしながら、ゆっくりと走っている。
後方のヘッドライトが、直ぐそこまで迫ってきていた。
「RPG22よ」
RPG7という、中東戦争中によくニュースで取り上げられで有名になった携帯型の対戦車砲があるが、RPG22はその使い捨て仕様である。
「先端についているピンを外して、筒を引っ張って」
そう言われても、前も後ろも似たような形なので、どちらが先端かなんて、悟には判断がつかない。
「見ればわかるでしょ。早く」
「俺は、素人やで」
文句を返しながらも、悟はピンを見つけた。
カレンの言う通りピンを抜き、筒を引っ張る。
すると、出てきた筒に取り付けてあった照星(狙いをつけるためののもの)がピンと伸びた。
「なんや、これ?」
悟が、素っ頓狂な声をだした。
「いいから、こっちに渡して」
悟の驚きを無視して、カレンが右手を差し出す。
差し出された手に、悟がRPG22を乗せた。
「もう少し先で、左にカーブしているのが見えるでしょ。今から、サトルにハンドルを預けるから、わたしが声をかけたら、ハンドルを右に切って。命は預けたわよ」
そう言って悟にハンドルを握らせ、カレンはRPG22の安全装置を外して、窓から身を乗り出した。
足は、アクセルを踏んだままだ。
後方のトレーラーは、すでにハマーと数十メートルという距離に迫ってきている。
このままだと、ものの十秒もしないうちに、挟まれて潰される運命にある。
後方のトレーラーが、目も眩まんばかりのハイビームに切り替えたとき、無造作ともいえる仕草で、カレンがRPG22の引鉄を引いた。
乾いた音をたてて、弾は前方のトレーラーの左側を掠めるように飛んでいき、落石防止用のコンクリートに当たった。
その瞬間、腹に響くような轟音が響いた。
砕け散ったコンクリートの塊が、雨のようにトレーラーに降り注ぐ。
そのうちのいくつもが、フロントガラスを突き破り、運転席を襲った。
カレンは発射と同時にRPG22を投げ捨て、乗り出した身体を引っ込めながら。「今よ」と叫んだ。
悟が、ハンドルを右に切る。
同時にカレンが、アクセルを思い切り踏み込み、座席に座る。絶妙のタイミングで、悟がハンドルをカレンに譲った。
無数のコンクリート片に体中を貫かれて絶命した運転手を乗せたトレーラーは、制御を失い、そのまま斜面に激突した。
その勢いで、トレーラーの車体が右に傾いて転倒した。
そのまま、横に滑っていく。
滑るトレーラーを掠めるようにして、危うくハマーがすり抜けていった。
後方から迫っていたトレーラが急ブレーキを踏んだが間に合わず、横転したトレーラーに、かなりの勢いで突っ込んでいった。
金属同士がぶつかる鈍い高い音と共に、突っ込んだトレーラーの後部が、宙に浮いた。
二台のトレーラーは、絡み合ったまま中央分離帯を越えてゆき、反対車線の遮蔽板に激突した。
たちまちエンジンから炎があがり、あっという間に、二台とも紅蓮の炎に包まれた。
悟は振り返って、その光景を見つめながら、「ナムアミダブツ」と唱えた。




