↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/108

第5章 獣には野獣を⑥

 ヒューストンが苦笑を収め、真剣な眼差しをカレンに向けた。

「君はあんなものと言うが、日本各地で大勢の人々が死んでいるんだぞ」

「フン」

 カレンが鼻で笑う。

「自業自得でしょ。爆弾テロじゃあるまいし。死にたくなければ、スマホを見るのを止めればいいだけじゃない。それが出来ない連中がどれだけ死のうが、知ったことじゃないわ」

「ますます手厳しいな」

 救いを求めるように、ヒューストンが悟を見る。

 悟は、無言で首を振るだけだった。

「実はな、カレン」

 いかにも重大発表をするかのように、ヒューストンが重々しい口調で切り出す。

「事件を起こしていうるは、我がカンパニーの人間だ」

「だから?」

 ヒューストンの意に反して、カレンの反応は素っ気なかった。

「だからって…」

 あまりにも素っ気ないカレンの反応に、ヒューストンが、拍子抜けしたような情けない顔になった。

 暫く黙ってカレンの顔を見つめていたが、気を取り直して、話を続ける。

「ユウキシホという、日本人だ。カンパニーに入った経緯は省くが、なかなか優秀な人材でね、カンパニーの誰よりも、コンピューターに精通している。全世界でも、彼女ほどコンピューターを操れる者は、そうはいないと思う。アノニマスも含めてな。それがだ、彼女のお姉さんが、事故に遭って亡くなってしまった。歩きスマホをしている奴にぶつかられてホームに転落し、電車に轢かれてしまったんだ。彼女を助けようとして、旦那も一緒に死んでしまった。ぶつかった奴は逃げてしまって、今でも捕まっていない」

 カレンの反応を探るように、ヒューストンは言葉を切った。

「それで?」

 興味なさげに、カレンが先を促す。

「彼女は幼い頃に両親を亡くして、お姉さんに育ててもらったようなものだ。だから、お姉さんの仇を討とうと思ったんだろう。お姉さんの死の翌日から、消息が途絶えた」

 悟がヒューストンの前に、黙ってコーヒーを置いた。

「お、ありがたい。久しぶりに喋り過ぎて、喉が渇いていたんだ」

 ヒューストンが、美味そうにこコーヒー啜る。

「彼女の消息が途絶えて一ケ月後に、今の事件が起こりだした」

 カップを置いたヒューストンが、話を続ける。

「多分、犯人を捜していたんだと思う。しかし、警察でも見つけられないものを、彼女ひとりで探し出せるわけがない。それで、犯人がスマホに依存していると見て、今回の事を企てたと思われる。それに、犯人を捜していくうちに、スマホに依存している人間すべてを、憎むようになっていったんだと思う」

「だから?」

 カレンの口調が、絶対零度になった。

「彼女を探し出すから、確保してもらいたい」

「フン」

 カレンが鼻で笑う。

「わたしの得意分野を知ってるでしょ」

 カレンの瞳も、絶対零度になった。

 「彼女の確保に、ターニャと劉が日本に来ている」

 一転して、カレンの目が和んだ。唇も、カーブを描いている。

「彼女ほどの腕なら、どの国家であれ、諜報機関であれ、ハッキングをするのは容易いし、高度なウィルスも仕掛けられる。ロシアや赤い金貨が欲しがるのも当然といえよう。こちらとしても、彼女のような優秀な人材を失うのは惜しい。敵の手には、絶対に渡したくない」

「隠し事はなしよ」

 カレンが右手を上げて、人差し指を振った。

「隠し事?」

 ヒューストンが、きょとんとした顔をしてみせる。

「ただコンピューターに優れているだけで、ターニャや劉が出てくるはずはない。彼女は、とんでもないものを持ち出した。そうでしょ」

「コンピューター専門の彼女が、何を持ち出せるというんだ?」

「とぼけのら、帰って」

 怪訝な顔をするヒューストンに、カレンが厳しい口調で言って、入口を指さした。

「もう、閉店の時間なの。これから、悟と楽しい夕食タイムなのよ。くだらない話で、二人の甘い時間を無駄にしないで」

 言い捨てると、ヒューストンに背を向け、厨房に向かって歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。