第4章 孤高の女豹➄
「わたしの生い立ちを知ってるんならわかるでしょ。わたしには、祖国なんてものはない。祖国が、一体わたしに、何をしてくれたの」
動揺するニコルに、ターニャは冷たく言い放った。
「軍人だったわたしの父は、反逆者の汚名を着せられて死刑になった。上官の汚職を告発しようとしてね。母は、幼かったわたしと妹を育てるだめに、娼婦に身を落とした。そして、客に殺された。わずかな金を惜しんだ客に。妹は、施設で虐待を受けて死んだ。そんな国を、どうして愛せる?」
ターニャは、妹が死ぬと直ぐ施設を抜け出し、悪のグループの一員となった。
そのグループは、バックにロシアンマフィアが付いており、武器が豊富に手に入ったため、やりたい放題だった。
その中で、ターニャは銃の扱い方を覚えた。
元々素質があったのか、めきめきと腕を上げ、気が付くと、グループの中でもピカ一の腕前になっていた。
度胸もあり、命知らずでもあってので、ナイフや素手の喧嘩でも、男相手にひけを取ることはなかった。
狂犬のターニャ。
そう呼ばれて、グループ内でも一目置かれる存在になっていた。
ある日、グループの一人がへまをして、警官隊と撃ち合いになった。
グループのメンバーは五人、警官隊は二十人。
ターニャを除く四人は、警官隊にハチの巣にされたが、ターニャは警官隊を全滅させ、その場から逃れ去った。
指名手配されたターニャを見つけ出したたのは、警察ではなく、今の組織だった。
組織は、ターニャのような戦闘力のある人材を求めていた。
政府に手を回して、指名手配を取り消させ、犯罪歴も全て封印した。
そして、ターニャを組織へ引き入れた。
組織は、ありとあらゆる殺人技を、ターニャに叩き込んだ。
そればかりではなく、敵地への潜入方法や離脱術、語学や薬学や爆弾のことなど、あらゆるジャンルにおいて、ターニャを徹底的に仕込んだ。
ターニャは、それらの全てを、砂に水が沁み込むように吸収していった。
五年も経った頃、ターニャは最強の殺人マシーンに仕上がっていた。
その頃、ターニャの母親を殺した男が刑務所を出所した。
その男は、出所後間もなく、無残な惨殺体で発見された。
父親が汚職を告発しようとしていた上官は、家族もとろも、自宅で殺害された。
その中には、娘夫婦と、まだ幼い孫までも含まれていた。
上官とグルになっていた数人の軍人も、同じように家族もろとも自宅で殺害された。
そして、妹が死んだ当時の施設の職員も、皆殺しにされている。
いずれも、何ひとつ痕跡が残っておらず、迷宮入りの状態となっている。
しかし、組織はターニャの仕業と断定した。
だが、その鮮やかな手並みに満足したのみで、ターニャを咎めることはなかった。
ターニャを発掘し、鍛えたのは、他ならぬニコルだ。




