第3章 赤い守り神②
外観とはそぐわぬ、コンクリートが打ちっ放しの無機質な地下室。
一癖も二癖もある、屈強な二十人ばかりの男が、それぞれ拳銃を手にして、後ろ手に縛られて座り込んでいる、三人の男たちを取り囲んでいた。
縛られている男たちも並みの人間ではないことが、この状況に怯えも見せず、ただふて腐れた顔をしていることから窺える。
誰も、言葉を発しない。
不気味な静寂の中で、突然、ブザーの音が響いた。
壁に埋め込まれている複数のモニターのひとつに、一人の男が階段をゆっくりと降りてくる姿が映し出された。
暫くすると、別のモニターに、その男が扉の前に立つ姿が映った。
味気ない室内に不似合な革張りの重厚な椅子に、ゆったりと足を組んで座っている男が、誰ともなしに顎をしゃくった。
取り囲んでいた男のひとりが頷いて、陣列から離れ、扉の横のスイッチを押す。
重厚な鋼板の扉が、音もなく静かに横に滑っていった。
完全に開ききらないうちに、モニターに映っていた男が、のっそりと入ってきた。
コブラを連想させる、邪悪な顔立ちをしている。
銃弾をも跳ね返しそうな分厚い胸と、丸太のように太い腕。
短く切り込んだ髪と、右の頬から顎にかけての引き攣れた刃物傷が、男の禍々しさを、一層際立たせていた。
男の名は、劉。
どんな地獄を潜ってきたのか、劉の全身からは、凄まじい妖気が放たれている。
劉の出現により、地下室の空気が一変した。
一癖も二癖もある屈強な男たちが、一様に顔を強張らせて、緊張に包まれる。
「遅かったじゃないか、劉」
ただひとり、椅子に座った男だけが落ち着いていた。
黒いサングラスで目を隠してはいるが、その男は、そんなに歳がいってないように見える。
綺麗に後ろに撫でつけられた髪は黒々としており、多分、四十を幾つも越えていないだろう。
物静かだが、底の知れない迫力がある。
それもそのはずで、この男は、赤い金貨の大幹部だ。
ただ老板と呼ばれているのみで、名前も素性も、誰も知る者はない。
劉は、一切の感情を遮断した茫漠たる目で、老板を無言のまま見やった。
赤い金貨には、組織の障害となる者を排除する部隊がある。
その部隊は、『赤い守り神』と呼ばれており、世界中の犯罪者の中でも、とりわけ凶暴な猛者共が揃っていた。
その中でも、群を抜いているのが、劉である。
劉は、元々は中国情報部の破壊工作員であったと言われているが、その真偽は定かではない。
彼についてわかっていることは、殺戮を好み、特にナイフで人を切り刻むことを無上の喜びとしているということくらいだ。
劉は、目的のためには手段を選ばない。
自分の部下ですら平然と利用し、犠牲にする。
ましてや、無関係な人々なぞ、どれだけ巻き添えにしようが、一向に気にしない。
事実、一人の邪魔者を排除するために、二十人以上の一般人を巻き添えにしたという噂もあった。
劉は、金と女には興味がないらしく、彼が赤い金貨に入ったのは、どれだけ人を殺そうとも、組織に疎まれることがないからだと言われていた。
老板が劉に顔を向けたまま、ゆっくりと右手を上げた。
縛られた男たちを取り囲んでいた強者どもが、囲みを解く。
劉と聞いて、縛られている三人の目に、怯えの色が浮かんでいる。
劉が、ちらと三人を見たあと、再び老板に顔を向け、小首を傾げた。
「こいつらは?」
劉の目が、そう問うている。
「我が組織に、送り込まれてきたスパイだ」
劉が、かすかに頷く。
「左から、CIA、SVR、モサドだ」
CIAは、言わずと知れた、アメリカの悪名高い諜報機関である。
SVRとは、旧ソ連時代のKGBを前身とするロシアの諜報機関で、モサドは、イスラエルの諜報機関だ。
第二次世界大戦後に建国されtイスラエルは、建国当初に根差す問題が多く、アラブ諸国の中での異端児だ。
そのため、国を守るために、強力な諜報組織を作る必要があった。
それがモサドで、世界で最も優れた諜報機関と言われている。
「我が組織も、有名になったものだな。世界の名だたる諜報機関が、スパイを送り込んでくる」
老板が、微かに唇の端を吊り上げ、物憂げな口調で言った。




