第3章 赤い守り神①
昔、香港の一角に、九龍城と呼ばれる、入り組んだ建物があった。
1800年代後半の列強による、租借とは聞こえがいいが、実質は植民地同様の扱いを受けていた土地から、例外として外されていた。
どの国の主権も及ばず、半ば放置されていたため、「東洋の魔窟」と言われ、犯罪者の温床として恐れられていた。
一般人は足を踏み入れ得ない場所で、なにも知らない観光客が迷い込んだりすれば、まず無傷では出てこれないと言われていた。
そんな無法地帯も、時代の流れには勝てず、ついに終焉を迎えた。
イギリスによる、中国への香港の返還が決まってから、九龍城は取り壊されることが決定した。
そして、1993年から1994年にかけて取り壊され、今は公園となっている。
周りは、活気溢れる商店街を中心に、閑静な住宅街となり、昔の荒れた面影は、どこにもない。
商店街の外れに、少し周囲とは趣を異にした、瀟洒な三階建てのビルがあった。
そのビルは、ある犯罪組織の本部であった。
「赤い金貨」
それが、犯罪組織の名前だ。
武器密売、麻薬、人身売買、暗殺の請負、誘拐ビジネスなど、裏の商売でおよそ金になることは何でも手がけている。
中でも、武器密輸が大きな資金源となっており、世界中のテロ組織や反政府ゲリラに、大量の武器を売りさばいている。
戦車や戦闘機、ミサイルまで取り扱っているというから驚きだ。
組織の歴史は浅い。
最初は、小さな犯罪集団かと思われていたが、数年も経ず、みるみると巨大な組織へと変貌していった。
組織の中核には、各国の政府高官や、軍部や情報部でそれなりの立場に席を置く者も、数多くいると言われている。
そうでなければ、ミサイルまで取り扱うことなんて、できはしないだろう。
組織は、金儲けのためなら、人の命などなんとも思っていない。
それどころか、大勢の人間が鮮血に染まることにより、より大きな金になるとの信条を掲げている。
「人命は金脈」
この信条が、組織名の由来となっている。
鮮血にまみれた金貨を掴み取ろうというわけだ。
裏社会の噂では、赤い金貨の裏には中国政府が付いていると言われている。
目的は、外貨獲得と敵対勢力の弱体化。
多少の信憑性はあるものの、真偽のほどはわからない。
というもの、敵対勢力と手を組んでいる反政府組織へも、大量の武器を流しているからだ。
今では、全世界のテロ組織に流れている武器の半分以上が、赤い金貨が供給しているとさえ言われている。
そのため、どこの国の諜報機関も、赤い金貨に注目し、情報を掴もうとしている。
しかし、未だ全容を掴んでいる組織はない。
その、赤い金貨の本部ビルの前に、一台の黒いベンツが止まった。




