↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄から国外追放された令嬢ですが、前世がマタギの爺さんだったので追放先では楽しく暮らします!  作者: あいより碧


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/15

第八話 今世、初めての狩り。



 翌日、未明。


 国外追放される前からの日課である、女神への朝の祈りを済ませてから、フランチェスカはひとり、山へと入った。


 アッシュの家はアルブラン山脈に連なるブレモー山の麓に位置している。多くの尾根が折りたたまれるようにしてなるブレモー山は、故郷の……前世の故郷の山とよく似ていた。地形ばかりではない。植生もまた似ている。これはフランチェスカにとっては大変ありがたいことだった。


 アッシュから借りた革靴に手製のカンジキをくくりつけ、ローブの上から藁で作った蓑を纏った。腰紐には地下貯蔵庫にあったナイフとロープ、縄で編んだ網をぶら下げる。背中に斧をくくりつけ、途中で拾ったナナカマドの枝を手に、雪山を進む。


 夜も明けきらない早朝で、初めて歩く山の中であったが、不安も何もなかった。

 一定の速度で歩きながら、フランチェスカの目は注意深く周囲を観察している。


 マタギは、地図を必要としない。

 そして、山の中で迷うことも、めったにない。

 土地の起伏、岩の形、木々の生え方、葉の密集具合、枝振り、遠くに見える野山の形、吹きつける風の流れ。

 それら全てを見て、感じて、覚え、頭の中で独自の地図を作り出していく。


 フランチェスカの中の老マタギの経験は、きちんと引き継がれているのを感じた。


 真白な雪原の中、獲物の痕跡を発見し、唇の端が持ち上がる。

 腰にくくりつけていたワラダを取り出し、勢いよく宙に放った。ピュウ、と鋭く猛禽類の羽音に似た音が響く。


 これは、鉄次が野ウサギを追い立てるのに良く使っていた、マタギの猟具だ。


 直径は四、五十センチ程度で、見た目は円形の鍋敷きに似ている。藁や葡萄の蔓をドーナツ状に編み、真ん中に竹やナラの枝を通して固定し、持ち手を伸ばしたものだ。かつては、鉄砲(シロビレ)の弾を撃ち尽くしたときに、山にある材料でさっさと拵えるものだった。

 鉄次の子どものころは、近所の子どもとどちらがよりはやくワラダを作れるか、競ったりしたこともある。


 このワラダを放り投げると、鷹や鳶の羽音に似た音を発することができ、野ウサギを驚かせ、追い立てることができるのだ。

 予測通り、雪原に同化していた白い毛皮のウサギが何羽か、大慌てで巣穴に飛び込んでいく。


 マタギにとって野ウサギは、とても馴染みのある獲物だった。マタギと言えば熊撃ちだと思われがちだし、実際、熊(イタズ)は特別な獲物ではある。だが野ウサギもまた、罠や鉄砲でよく獲っていた。


 ウサギは、熊と同じく捨てるところがない。

 肉も骨も内臓も全て食べられるし、毛皮はもちろん防寒具や小物に加工し使える。フランチェスカの記憶においても、ウサギ肉を食する機会は多かったし、白ウサギの毛皮のコートや帽子は貴族にも人気だ。

 肉は食えて、皮は売れる。


 鉄次が最も多く狩った獲物も、ウサギだった。

 マタギの子どもは、くくり罠など、比較的簡単な罠を山にしかけて、獲物を獲る方法を学ぶものだ。鉄砲で初めて狙う獲物も、ウサギが多い。

 なにせ、可愛らしい外見ではあるものの、野ウサギというのは農家にとって立派な害獣なのだ。果樹の新芽を食い荒らし、畑を荒し、と鬱陶しいことこの上ない。――とはいえ、それも鉄次が若い頃の話で、晩年には野生のウサギは随分と数を減らしてしまっていたのだが……この山では、獲物に困ることはなさそうだった。


 雪原の中、白く色を変えた毛皮のウサギは見つけにくい。

 それを猛禽類の羽音に似た音で脅かし、泡を食って巣穴めがけて逃げ出したところを追い詰め、捉える。

 実に単純な猟法だが、非力なフランチェスカにも有効なものだ。


 そうして見つけた巣穴に身体強化をかけた腕を突っ込み、暴れるウサギの首を折る。


 ――今世で、初めて己の手で為した殺生だった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。