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婚約破棄から国外追放された令嬢ですが、前世がマタギの爺さんだったので追放先では楽しく暮らします!  作者: あいより碧


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第十一話 秘密の移動手段



 早朝からまた野ウサギを狩りに出て、手早く解体まで終わらせ、毛皮を纏める。


 本当は最低限なめしたり加工してからの方が高く売れるのだが、必要な物があまりに足りなすぎるため、はいだばかりのものをそのまま持っていくことにした。

 他に売りたい物は装飾品だ。それらを持って部屋を出ると、居間で待っていたアッシュが不思議そうに首を傾げた。


「あのドレスは売りたくないの?」

「え? あっ、いえ! あれは、山を歩いている間に裾がほつれたり裂けたりして、汚れてしまっておりますので……」

「そうなの? ちょっと見せて貰っていい?」

「はい、どうぞ」


 フランチェスカが来ていたドレスは、ライオネル王国の王都で最先端の流行の型だった。布地も公爵令嬢という身分にふさわしいものをふんだんに使っていたので、綺麗な状態なら確かに高値で売れただろう。

 しかし、流石に裾がぼろぼろになってしまっていて、諦めたのだが……。もしかすると、バラバラの端切れの状態にしても売れるのだろうか?

 不思議に思いつつも部屋の壁に掛けてあったドレスを居間に持ち出した。アッシュはそれを少しの間見つめていたかと思ったら――。


「修復(リペア)」


 ドレスに触れ、短い呪文を唱える。

 たったそれだけだったのに、七色の光がドレスを包んだかと思えば、次の瞬間には新品同様に綺麗になっていた。

 布地の裂けも、ほつれもない。


「……まぁ!」

「これなら売れるんじゃない?」

「はいっ、はい……っ! 凄いです、まるで新品です!」

「……でも、似合ってたし、売らなくてもいいんじゃ?」

「いえ。もう着る機会もないですし。ドレスには流行がありますから、時間が経てば経つほど値が下がります。売るなら今のウチです」


 ドレスの売値によっては、宝飾品は売るのをやめて、いざというときの備えにするのもありだ。帝国での平民の一ヶ月の生活費がよく解らないし、相場を確認しつつ、考えよう。

 そうと決まれば、なるべく皺にならないようドレスをたたんで、アッシュに借りた大きな布で包んだ。古いシーツを切り分けたその布は、普段は実験や調合のときに机の上にかけているらしい。大きさがちょうど良かったので、風呂敷代わりにさせてもらうことにした。


「それで、どうやってべべリーまで行くのですか?」


 いつものローブの上に、黒い外套を着込んだアッシュは、全身が真っ黒だ。いつも外に出るときはこの格好だが、違う点があるとすれば、腰紐にベルトでさしている短杖《ロッド》があることだろう。ちなみに、フランチェスカもアッシュのローブと外套を借りているから、似たような格好だ。


「ん」

「?」


 アッシュは短杖を右手に持ち、左手をフランチェスカに差し出した。握手だろうか? 戸惑いつつもきゅ、と手を握る。

 杖の先が、何か模様のようなものを描いたかと思えば、足下には虹色に輝く魔法陣。

 ぶわりと風が吹き上がり、あっと思った時には、周囲の景色がまるで違うものとなっていた。


「……え?」

「着いたよ」

「えぇぇ――っ!?」


 驚愕のあまり、淑女らしからぬ大きな声を上げてしまう。これはフランチェスカには珍しいことだった。

 しかしそれも仕方のないことだろう。

 なにせ、つい先ほどまで、辺境の村の、小さな家の中にいたはずだというのに。一歩も足を動かしていないのに、いつのまにか野外に……それも、明らかに都市部と思われる町並みの、路地裏に居たのだから。

 細い路地の向こうには大通りがあるようで、先ほどからひっきりなしに人が行き来している。


「あ、あの、アッシュ、今のは……」

「転移魔法。僕は一度行ったところか視認した場所なら、だいたい転移できるから」

「そんな……。こんな一瞬で……すごい……」


 前世でなじんでいた、あの国民的アニメに出てくる便利道具のドアを思い出す。


 アッシュはこともなげに言うが、転移の魔法は帝国でもそんなに簡単に使えるものではないはずだ。転移門という専用設備を作らねばならないと聞いたことがあった。ライオネル王国でも導入しようと考えていたが、予算の都合で見送りになってしまったほど高価で、大規模な工事が必要であったはず。

 実際、気軽に使えるものなら、あの村にも冬場だって行商が来ていただろう。


「行くよ」

「は、はいっ」


 握ったままだった手を離し、アッシュは大通りへと出た。その後ろを慌てて追いかける。



 べべリーの街は、フランチェスカが想像していたよりも大きな街だった。アミティア辺境伯領の領都だというので、このあたりでもっとも栄えた街なのだろう。

 考えてみれば、フランチェスカにとって街中を護衛も無しに歩くというのは初めての経験だった。公爵令嬢という身分から、自らの足で買い物に出かけるということがまずない。高位貴族はドレスを仕立てるのだって、ドレスショップに足を運ぶよりも屋敷に仕立屋を呼ぶのが普通だ。

 宝飾品も似たようなもので、商人の方が商品を持参してくるものだった。


 雑踏の中を歩くなんて、今世では初めてだ。

 道行く人々の身なりはそれぞれで異なるが、表情は明るく、飛び交う声も元気いっぱい。通りにはゴミもほとんど落ちておらず、清潔に保たれている。大通り沿いに並ぶ屋台も、軽食の他に甘味も売っていた。


 ――庶民が菓子を気軽に買えるのだ。


 砂糖や香辛料はそれなりに高価なものなのを考えれば、帝国の豊かさが伺えた。



短編を一本更新しましたので、もしよろしければこちらもご覧いただけましたら幸いです。


世界のあわいのマヨヒガ亭

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