6『神を罵倒していたね』
「さて、僕が何を怒ってるかわかるかい」
「ほいてったほとへふ(置いてったことです)」
小屋に連れ込むなりベッドに座らされてそこまで痛まない程度に両頬を引っ張られる。
目の前のシャードさんは怒っているんだけど…怒っているんだけどどこか困ってるような、迷っているような表情にも見えた。
「それも、あるね」
それも。まだあるのか。他には、えーっと。
「なにもひわなかったほとへふ(何も言わなかったことです)」
「まあそれもそうだね。書き置きくらいは出来ただろうね」
「…ひんはいかけたことでふ(心配かけたことです)」
「それもそうだけど……それはちょっと違うな」
まだあるの?と思っていると頬から手を離されて……シャードさんは隣に座って頭を撫でてきた。
よく分からないけど甘えるように頭を擦り付けると、そのままぎゅっと抱きしめられた。
「心配は今もしてるよ……。君、自覚あるのか分からないから…言っておくけど、さ…」
言いにくいことなのか、頭を完全に胸元に押し付けられて
何も見えない。ただドクドクと、少し早い心臓の音が聞こえる。
「……どんどん人間離れしてきているよ」
「………え?」
人間離れしてきている。
痛いくらいぎゅうぎゅうと抱きしめられて……頭の中が混乱している。何を、何を言っているのだろう。
「僕の知っている君は強いモンスターに脅えて、泣き叫んでいた。あんなふうに恐怖の権化みたいな存在と対等に話したりーーー……」
「神に誓うなんてしてなかった。むしろ神を罵倒していたね」
そうだ。私は神を罵倒していた。
武器ならなんでも良いって何やってるんだと
そうだ、私はシャードさんに連れられて…腰が抜けて泣き叫んでいた。
凶悪なデュラハンと人形達の戦いを怖がらなかった。
吸血王たちにあって…なぜ怖がらずに感動した。
純吸血鬼さんが真隣にいて…なんで身の危険より色香にまどっているの
私はーーーーー神に忠誠なんて抱いてないのに
なぜ神に誓ったのか。
考えれば考えるほど、おかしい。
「…シャードさん、ちょっと強く抱きしめ続けていてください」
「わかった」
何も聞かずに強く抱き締めてもらって、違和感を探す。
世界の立て直しを了承したのはーーー私だ。
なるべく自分のことを優先して、シャードさんに頼ったのは……自分だ。
シャードさんを信用して情報を開示したのも…私で。
ルイスさんに今後の展望を提案したのも………ん?
チリっと違和感を感じる。
囲われるのが嫌で、隠れてたのに
シャードさんが2次転職したとはいえ、私自身はまだ弱かったのに……
自衛も出来ないで、迷惑をかけるのに
…なぜ、クランの中とはいえ情報を公開したんだ。
シャードさんから提案されたとはいえ……私はなぜためらいなくクラスや、職業まで公開した。
ごくごく僅かに感じる違和感。
彼を巻き込む以上……危険は小さくなるようにするのが筋じゃないか。
おかしい。そう強く感じた瞬間……繋がった。
ルイスさんに初めて会う直前。
シャードさんに情報開示の許可を出す直前。
私は神様の作った特殊クエストを行っていた。
あのやろう、クエストになにか仕込みやがったな。
専用クエストをやったのは全部で3セット。
ルイスさんに会う前
2次転職の前
エルダーさんたちにあってから
タイミングを思えば実にわかりやすい。
エルダーさんに出会う前……私は神に誓って、なんて狂信者じみた発言はしていなかった。
というかシステムの不備をお詫びしますってエルダーさんに言ったけどさ!!
本当に私わるくないじゃん!!なんで謝らないといけないのよ!!
思い出して、思い返して
『夕凪いすず』を取り戻していく。
「シャードさん……ちょっとぉ、お願いがあるんですけどぉ?」
「うん、すごく嫌な予感がする君が戻ってきたね。ろくでもない提案をされる気しかしないよ……!」
「そんな嫌な顔しないで、お願い?」
確実にあなたの嫌がるお願いだから。
うふふと笑って、逃げ腰になったシャードさんにぎゅっと抱きついた。




