8『悪い記憶ではないんですけど』
「いすず、いすず」
ゆさゆさと身体を揺さぶられて、はっと目が覚める。
目の前には眉間に皺を寄せた美人の悩ましげな顔。その眉間に指を伸ばして……皺を消すように撫でると、シャードさんの指も私に伸ばされて…目元を撫でられた。
すると、シャードさんの指先は涙で濡れた
ああ……泣いてたのか。
だから心配して起こしてきたのかなと察して、ちょっと気恥ずかしくってモゾモゾと擦り寄って胸元に顔を埋めるように抱きつく。
しっかり抱き返してくれる優しさにほっと息をつく。
「大丈夫かい?最近ずっとだけど」
「魘されてました?」
「魘されてはないけど…でも悲しそうに泣くから…」
「……悪い記憶ではないんですけど、何でですかねえ…」
昔の思い出を夢で見て、泣きながら起こされるのはもう3度目だ。
ここ最近連日、過去の楽しかった記憶の夢を見る。神様にここに連れてこられる前ならいざ知らず、現在はそこまで現状に不満なんて無いんはずなんだけど……。
最初はゲーム画面の、キャラアイコンでの記憶だったのに途中から実写が混ざり始めて、今回はついに完全実写になっていた。
叩いた感触すらあって……ゲームの中の記憶だったのに、あれがあたかも現実にあったことかのような記憶で……
思い出が塗り替えされそうな夢で、少し怖くなる。
「もう少し寝ててもいいよ」
「……いえ、ちょっと寝るのが怖いので起きます」
今寝ても、何となくまた夢を見る気がしたので…
涙をシャードさんの胸元で拭って、顔を出してニコッと笑いかける。
「それに今日はいよいよ私も170になりますからね!」
今日は数ヶ月に渡ったレベリング作業が実を結び、ついに私も170になって…ランクアップクエストが受けられるようになる日だ。
ダラダラ寝ている訳には行かない!
そう思って起き上がると、シャードさんは「無理しないでよね」と言いながらも一緒に起きてくれた。
時計をちらっと見ると、いつも起きる時間よりも1時間も早い。それでも付き合ってくれるシャードさんに感謝をして頬にキスをしつつ…元気よく身支度をととのえた。
「おはよータイラさん」
「あぁ…おはようさん。……大丈夫か?また今日も顔色が悪いぞ」
「元気になれる美味しいご飯をお願いします」
「……残念、今日は買い出し前だからな、残り物祭りだ」
「残念。あ、でもベーコンあるー」
『いすずもう起きたのかー?』
『いすず様おはようございます』
「2人もおはよう」
対人戦にガッカリしてから数ヶ月。
タイラさんはだいぶ私たちに馴染んできたし、私達もタイラさんのいる生活に慣れてきた。
世話焼きのタイラさんと、口うるさい世話焼きのシャードさん。まるでお母さんが2人いるかのようで悪くない、実母との折り合いは悪かったけれどね。
2人っきりの時間が欲しい竜人と
普通に休みも欲しいタイラさんと意見を擦り合わせて数日狩場に籠って、買い出し日、休みが1.2日というルーティンで今は活動をしている。
そして狩りに専念しても、タイラさんの装備はすぐに集まったので破片はトレード含めた貸出の方に回している。
トレード内容は
白の欠片x5=赤の欠片1
150以上のデイリークエストアイテムx5=赤の欠片1or白の欠片x5
だ。
白の欠片は補充しに行っていないからそのうち在庫尽きるかなと思いきや……意外や意外、3人でバフアイテムをしっかり使っても有り余るほどの利益が出ているそうだ。
理由は単純、赤の欠片は私たち以外まだ絶賛装備集め中なため、欠片を売りに出す人がまだいない。
高レベル帯は自分で取りに行けばいいが…中、下のレベル帯の採掘者の人達が白の破片を赤の破片と交換して、赤の破片を上位に売って金策をしているらしい。
ちなみに『魂の挑戦』の情報も先週ついに外部にも徐々にリークが始まった。
まずは近いクランからと言うことで、『砂漠のオアシス』の友好クランに情報が公開され、タイラさんが休みの日に元後輩たちと一緒に1階に行って来たらしい。
今でも休日はご飯を奢ったり相談に乗っているらしく、相変わらず面倒見のいい人だ。




