8『いすずちゃんは1人でもできるでしょ』
「ふくをかう」
「うん、シャリア殿に贈る布を見ながらどうかなって思ってね。トットは近隣で布の素材がよく取れるから布の質も良くって、服屋がいっぱいあるからね。魂の挑戦集団戦が中止になって時間も空いたし、君もどんな服があるのかとか色々見て回ってもいいかなって」
「ちゅうし」
「それに僕もたまには普段着を着てもいいと思うし、か、かわ、かわ……君の冒険着以外も見てみたいし、黒髪に映える明るい色もいいし琥珀色の瞳に似合うまろやかな、ぱすてるからー?な服もいいらしいし、スカートとかもその、見てみたいし」
きょうはよくしゃべるなあ。
寝起きでマシンガントークをされて、半分も頭に入ってこないがうんうんと頷いて枕にもう一度顔を埋める。
目が重い。喉が乾いた。
昨日馬鹿みたいに泣いたからなあ、色々疲れたし恥ずかしいし、休みなら家で待ったりしたいけど…
無理矢理目をこじ開けるとそこにはいつものローブじゃない、黒のズボンと白いシャツのシャードさん。しっかり目の服装だけど首元のボタンが数個外されててラフな印象の方が強い。
尻尾ってどうなってるんだろ。
しっぽっていえば、尻尾の付け根は敏感なのか触ると可愛いんだ。見えてるならそこを攻めたらお家でまったりにならないかなあ…呻き声を上げながらまた枕に突っ伏す。
「その…ダメ、かな」
正直あまり気乗りはしないんだけど
「ちょっとまってえ」
こんな可愛らしいシャードさんからのお誘いを断れるわけがなかった。
とはいえ寝起きも寝起き、まだ顔すらあらってない状態だ。
ちょっとだけ、ちょっとだけ起きるまでまってね…!
「ああ、目が腫れてるからこれで冷やして。喉も乾いてるだろうからこれも置いとくよ。僕は朝食を買ってくるよ。何が食べたい?」
「……すーぷぅ…」
ベットサイドのテーブルに水入り瓶と濡れタオルを置かれて、ソワソワしたシャードさんは私の頭をポンポンと撫でて去っていった。
スパダリかな?いつも甘やかしてくるし、世話焼きだなとは思っているが…今日は特に凄い。
いつもなら私が覚醒するのを待ってくれるのに、今日は我慢しきれない様子だ。
二度寝しても許してくれるだろうけど
二度寝の間じっと傍で待ってそうだなぁ
……そんな彼を見たい気もするけど……
どうせなら喜ぶ顔の方が見たいよね
「ふああああああ」
だるい身体にむち打ち
とりあえず身体を起こして軽く伸びて、パンパンに腫れてる目に当てるーーーすると。
『バンバンバン』
『シャード、いる〜?』
玄関のノック音と共に初めて聞く女性の声がした。
「…………」
居ないし、何かあったら通信機で連絡取れるし
何よりまだ寝巻きで寝起きだ。
とりあえず無言で顔を拭きながら水を飲んでいると……ガチャガチャと扉を開けようとされてギョッとする。
おいおい、家主不在の家に入ろうとしないでよ。
扉があかなかったことに安堵するが
『ねえ、寝てるの〜?』
『いないのか?』
『出ないのよ。でもあのシャードが家を置いていくなんてするかしら』
『ドンドンドン』
『ねえ、いるんでしょ〜?』
煩いしなんなら人も増えた。
……そして媚びるような女の声にちょっとイラッとしてくる。
居るよね、強い男とか金持ちとか見ると媚びる女って。そういうのが悪いとは言わないけど、そういう女は得てして、『いすずちゃんみたいなことなんて出来ないー』とか可愛子ぶって私を下げて自分をあげるのだ。
『いすずちゃんは1人でもできるでしょ?だから、夕凪くんは私のクリア手伝って?』
と相方に群がられたこと……多数。
『すずが居ないと行かないよ、だるいもん』
とバッサリ切り捨てるような相棒に感謝したことも多数。
色っぽいパートナー関係を嫌っていた私と当時の相棒の関係は非常に良かったものです。
男避け、女避けで互いに『夕凪』って苗字にしたんだよね。夕凪いすず、夕凪一塁。名前だけ見れば仲良しアピールは出来ていただろう。それくらいしないとパートナーっぽくないサバサバした関係すぎたからやらざる得なかった措置とも言うけど。
だが、クソ女の頼みに負けて私から離れていった癖に〇〇ちゃん弱くってさ、やっぱいすずさん組もうよとか言い出す友人…ああ、なんか思い出しイライラしてきた。




