61
「ここまで弱れば、あとは、わたしが──」
そう言い、頭上の鳳炬を見据えて前に歩み出る。
「莫迦、下がれ! お前、女の龍脈は視えないんだろ⁉」
慌てて引き止めると、黎珠は肩越しに笑って胸元から黎宝珠の頸飾りを出した。
「龍脈を突く必要はありません。……ようやく、黎宝珠の遣い方がわかりました」
そして鳳炬に向けて腕を差し出すと、毅然とした、澄んだ声音で高らかに告げた。
「――四公の主にして四方の祖! 我、天命に従いて、その御位に就かん!」
黎珠の宣言に合わせ、黎宝珠がりんと涼やかな音を奏でる。
その音色に乗せ、黎珠は赤龍となった鳳炬に命を下した。
「我が名において命ず。南嶽公郭鳳炬、汝、四嶽の座を退け!」
その瞬間、鳳炬の周囲で火花が散った。
絶え間なく蠢いていた再生が止み、千切れた胴が地上に落下して、鈍い地響きを立てる。
耳をつんざくような、けたたましい絶叫が響いた。
激痛に悶えるように巨体がうねり、風圧で一瞬、炎が消える。
やがて動きが収まると、鳳炬の龍身は末端から崩れ、緩やかに落ちていった。
頭上から完全にその巨躯が消え去ると、再び空には冴えた青さと、暖かな日差しが戻る。
残されたのは巻き上がる火炎と、無限に立ち上る、黒い煙のみだった。
「お……終わった、のか……?」
勝利の実感が持てぬまま呟くと、黎珠はこちらに戻り、床に膝をついた。
袖口の布を裂き、手早く止血を始める。
その手を止めることなく、黎珠はこう答えた。
「はい、終わりました。もう──大丈夫です、北嶽様……」
「黎珠?」
何か、様子がおかしい。生気がない。
安否を問う意味で名を呼ぶと、黎珠はくしゃりと哀しげに顔を歪めた。
「大丈夫です。鳳炬様は──わたしが、殺しました、から……」
それを聞いて、黎珠は手を汚したことがないと言った、鳳炬の言葉を思い出した。
改めて、黎珠の顔を見つめる。
今にも泣き出しそうな表情で、それでも唇を押し曲げて、黎珠は笑った。
「強い憎しみは、新たな悲劇を生むだけです。その憎悪はいずれ、鳳炬様のように、宿主すら焔き尽くすでしょう。……北嶽様は、そうなってはいけません。北嶽様は、お母様の分も幸せにならなければ」
そして伏せるように、黎珠は深く項垂れる。
簾のように落ちた長い黒髪の隙間から、か細い声が聞こえた。
「ですから……ですから、鳳炬様はわたしが……、わ、わたしが殺しました。北嶽様ではありません」
──この娘に、あまりつらく当たらんでくれ。
不意に、以前、黒影に言われたことが蘇った。
──健気で、いじらしいとは思わんか?
当時は、わからなかった。
またいつもの説教か、と聞き流していた。
それを、黒影が諭した言葉の意味を、このときようやく理解した。
ああ、本当に。
胸が痛くなる。
こんなにも声を震わせて、咽喉を詰まらせて。
罪深さに慄きながら、それでも、彼女は言い張るのだ。
自分がやった、と。
「お前じゃない。おれがやった」
考える前に、するりとそう言っていた。
黎珠はすぐさま顔を上げ、懸命にそれを否定した。
「い、いいえ。わたし、わたしです。わたしが」
「おれは大丈夫だ。もう鳳炬のことは恨んでない。あの女だって、可哀想な奴だったんだ。そうだろ?」
笑って言ってやる。
無論、完全な嘘だった。
実際は、まだ憎い。その身を切り刻んでやりたい気持ちも健在だ。
そこまで自分は心が綺麗ではない。優しい黎珠とは違う。だがそれでも、いやだからこそ、言わねばならない。
すべてを水に流し、鳳炬を赦す、と。
血で染めるには──黎珠は、清過ぎるのだ。
「鳳炬のことは、赦す。あとで、どこか墓に入れてやるさ。親父んとこは母さんがいるから、そうだな……どこか、層雲宮の近くでも」
そう続けて言うと、やっと普段の黎珠らしい笑顔が返ってきた。
「はい。北嶽様」
それを見て、ほっとした。
それだけで、卒倒しそうなほど不本意な法螺を吹いた価値があった。
しかし、和やかな余韻に浸る間もなく、早々に黒影が警鐘を鳴らした。
〈火の回りが速い。李を起こしてやろう。お前も下で医官に診せた方が良い〉
「わたしが起こします。北嶽様は少々お待ちください」
すぐに黎珠が言い、足早に李のもとへ駆けて行く。
幸い、火の手は李のもとに届いてはいない。多分、無事なはずだ。
「お前も一応、回収しとかねぇとな」
腕を伸ばし、床に落ちていた黒影を引き寄せる。
すると、自分にだけ聞き取れるような小声で、黒影が告げた。
〈良く言った。立派だったぞ。お前はいずれ、良い北嶽になる〉
それは初めての、手放しの称賛だった。
驚きで固まっているうちに、黎珠が意識を取り戻した李とともに戻って来る。
「北嶽様、李君は無傷です!」
そう言いながらこちらの肩に手を回し、身体を支えると、黎珠は階下に続く扉を指差した。
「参りましょう! このままでは焼け死にます。多少無理をしてでも、下に降りなければ!」
それからは、全員で出口を目指した。
走れるはずの、黎珠と李の足手まといになるのがつらい。
最悪の場合、自分を見捨てて逃げろと言うしかないだろう。
──息が、熱い。
身をかがめて進んではいるが、呼吸もままならない。
生き物のようにうねる炎が、そこかしこで行く手を阻む。
刻一刻と体力が擦り減り、意識が枯渇していくのがわかる。
果たして神様は、自分たちを生かしてくれるだろうか。
天は、悲劇を好むと云う。王母は聖者を愛で、天帝は悪を決して赦さない。
その法則に倣うなら、今ここで罰せられるべきは、自分だろう。
罰が当たって当然だ。
それなりに悪事には手を染めた。
両手は取り返しが付かないほど血みどろだ。
炎に巻かれ、ここで果てるのも、それは道理だと納得できる。
──とうとう間近で爆炎が轟いたとき。自分の命を諦めた。
「げほッ、けほッ……黎珠、おれを置いて李と──」
「いいえ! この瓦礫の隙間なら、身体の小さい李君はくぐれます!」
言いかけた言葉を黎珠は遮り、今しがた倒れた柱の下を覗き込んだ。
「や……ッ、いあです! おくだけあんて、いあですッ!」
たとたどしい発音で言い、李が泣きながら黎珠にしがみつく。
その両肩に手を置くと、黎珠は目線を李に合わせ、ゆっくりと告げた。
「違いますよ。李君には、助けを呼んでもらいたいのです。それまで、北嶽様のことはわたしが必ずお護りします。ですから、お願いです、李君。あなただけが頼りです」
「……ッ」
李はしばしの間、黎珠を見つめると、意を決したように頷いた。
床を這うようにして隙間をくぐり、階下へと降りていく。
「行ったか……?」
李を見守る背中に訊ねると、黎珠は笑みとともに振り返った。
「はい。行ってくれました」
「なら黎珠、お前もおれを置いて、早く──」
「わたしでも、この隙間は通れそうにありません。こほッ……窓際に移動しましょう。あの辺りならまだ、煙が薄いですから」
こちらの台詞を流し、黎珠は再び手を回して上体を支える。
喜び半分、申し訳なさを半分感じながら、よろよろと連れ立って歩き始めた。
そのとき──ふと、思い出したように。
明るい口調で、黎珠がこんな問いかけを口にした。
「ふふ、お互い煤だらけですね。無事に帰ったら、まずお風呂に浸かりましょう。お風呂、北嶽様お好きでしょう?」
「あー、うん。確かに、湯船にゆっくり浸かりてぇー……もう、血と汗でぐしょぐしょだかんな」
「御髪も染めないとですね」
次いでそう言った黎珠を見て、ふっと溜息が漏れた。
「……なんだ。お前知ってたのか。おれが、髪染めてるの」
大方、丞相あたりが罵っていたのだろう。
誉れ高き玄州の北嶽が、このような髪では見苦しいだのなんだの言って、黒く染めるよう強要したのは、あの男だ。あれだけ頻繁に風呂に行っていれば、聡い黎珠が気づいてもおかしくはない。
「お前、おれの地毛見たら驚くぞ? なんせ──」
「綺麗な銀髪です」
間髪入れずに黎珠は言って、楽しげに笑った。
「黒い御髪も、大変魅力的ではありますが……わたしはやっぱり、銀髪の北嶽様が好きです」
「じゃ、もうやめっか。ちょうど、毎回染めんのが面倒だと思ってたとこだしな……」
半分朦朧とした頭で、黎珠に同意する。
今さら、丞相ごときの言に従うのも業腹だ。
ちょうどいい。これを機にやめてしまおう……もし、生きて帰ることができたならの話だが。
「帰ったら風呂に浸かって、髪を戻して……あとはあれだ、宴会だ。がんがん酒飲むぞ。特別に、お前には一手、舞ってやるよ」
「まあ、それは楽しみです」
「おう、期待しとけ……。おれの舞は、一手で並の妓女一年分稼いだ代物だからな」
「ああ、それは想像できます。後宮で少し拝見しましたが、まるで天上の舞のようでしたから。北嶽様はいつか──天の舞と書いて、天舞公なんて、呼ばれるかもしれませんね」
天舞公。
その響きに軽く吹き出し、傷に響いて、痛い思いをした。
天舞公など、冗談ではない。そんな名称、願い下げだ。
「なんだよ、それ……。糞親父と同じ呼び名じゃねぇか。絶対勘弁だな、そりゃ」
「そうですよね。自分のことを呼ばれているようには、聞こえませんものね」
黎珠は苦笑して頷く。
このとき、黎珠との会話にかすかな違和感を感じたものの、推考する余裕はなかった。
ただ、こんなくだらない話をいつまでも黎珠としていたいと──そんなことばかり、考えていた気がする。
そうこうしているうちに窓辺にたどり着くと、黎珠と一緒に、床に倒れ込むようにして腰を下ろした。
ぼんやりと、視界いっぱいに燃え盛る炎を見つめる。
前に視線を投じたまま、こちらの肩に頭を乗せた黎珠に話しかけた。
「悪いな、黎珠。……せめて、お前だけは助けてやろうと思ったんだけどな……」
「ご心配には及びません。わたしには黎宝珠があります。天翔ける黎宝珠が。……北嶽様、これを」
すると何を思ったのか、黎珠は黎宝珠の頸飾りを外すと、こちらの頸にかけた。
「おい……なんで、おれにかけるんだよ?」
「北嶽様に差し上げます」
「は……?」
〈黎珠殿……?〉
その不思議な行動に、今まで沈黙していた黒影も声を発する。
黎珠は、そのどちらにも応じずに、ただ静かに微笑んだ。
──さあ、刮目せよ。今こそ歴史が変わる瞬間である。
「その存在に──わたしが、どれほど救われたことか。けれど北嶽様は、まだ──かの天麗には及びません」
唐突に語りだした、黎珠を見る。
瞳には依然として、意志の強い光がきらめいていた。
気が触れたわけではない。
だが、意図がわからなかった。
「テンレイ? どういう意味だ……?」
「大丈夫です。心配ありません、必ず助かります。そう手間はかけませんから──わたしを信じてください」
真摯な顔で頼み込む黎珠に、否やはなかった。
頭の良い黎珠のことだ。何か、思いもよらぬような腹案があるのかもしれない。
「……わかった、信じる。手短に済ませろよ」
「はい。ありがとうございます」
ゆるやかな笑みを浮かべて黎珠は眼を閉じ、吐息のように柔らかな言葉を紡いだ。
「これでようやく……わたしの本当の『お役目』を果たせます」
「役目……?」
「あなただった。あなたはわたしの、すぐ側にいた。ずっと気づきませんでした。あなたは、答えは、最初から目の前にあったのに……」
そして瞼を持ち上げ──黎珠は、告げた。
「あなたは……『夏楠』」
「今さら何言ってんだ? 初対面でおれの名を連呼したの、お前だろ?」
「はい、そうです。そうですよね……本当に莫迦です、わたし……」
──黎公主曰ク、刻ハ来タリ。
「聞いてください、夏楠。天命の刻が来ました」
「天命……?」
「はい。わたしの天命です」
──詩人ハ、カク語リキ。
〝龍よ〟
「ありがとう、夏楠。わたしは、どうしてもそれを、あなたに伝えたかった。あなたに出逢えなければ、何も知らずに終わっていたかもしれない。それを思うと、わたしはとても幸せなんです」
〝龍よ、常夜の龍よ〟
〝汝、業火に巻かれ、灼け死ぬが良い〟
「だから、顔を上げて。東の空を見てください。夜明けはすぐそこです。明けない夜はありません。それをどうか、忘れないでください。……あなたは決して、独りではない。愛されているのですから」
〝かの龍に、寛大なる慈悲を〟
「玄州の北、獄のごとき冬と法が統べし山で、貴公をお待ち申し上げております」
〝慈悲を乞うならば、相応の代価を〟
「わたしは、あなたが誰より努力家で、誰よりも優しいことを知っています。そんなあなたが築いた、美しい、豊かな玄州で。夏楠──必ず、必ずあなたに逢いに行きます」
──公主曰ク、御身大事ナリ。
「ですから……どうか、お身体を大事にしてください。くれぐれも、ご自分を粗末になさらぬよう」
──我ガ光。
「夏楠──わたしの光」
──我ガ夜明ケ。
「わたしの夜明け。わたしの──『天麗』」
黎珠、と。
もう一度、名を呼ぼうとした。
けれどそれは、最後まで口にすることはできなかった。
「ごめんなさい、夏楠。わたし……抗えません」
黎珠が謝ると同時に、頸にかけられた黎宝珠が突如として輝いた。
しゃらん、しゃらん、と。
絶え間なく連続し、黎宝珠の音が鳴り響く。
「なッ……おい、これは──」
〈まさか──いかん! 黎珠殿ッ!〉
戸惑い、黎珠に訊ねかけた声と、何かを察した黒影の呼び声が重なる。
それらには応じず、黎珠は頸飾りの宝玉部分に触れると、短くこう命じた。
「行け、黎宝珠。限りなく現在に近い過去へと」
咄嗟に黎珠に伸ばした手が、光に掻き消される。
膨大な光の奔流が周囲を包み込み、空へと突き抜けてゆく。
鳴り響く独特の音色に合わせ、眼を開けていられないほどの光が、視界を埋め尽くした。
突如、床が抜ける。
転落したかのような急降下に、背筋が凍りつく。
しかし、永遠のような落下の果ては唐突に訪れた。
どさりと音を立て、地面に転がる。
眼が眩み、何も視えない。
手の甲で擦って、必死で焦点を合わせる。
そうして最初に視えたのは、どこまでも晴れ渡った青空だ。
指先に、柔らかな草の感触が伝わる。
俄に信じ難いことに──気づけば、芝生の上に大の字で倒れていた。
「ここ、は……? なんで、おれ……」
茫然自失の呟きには、意外な第三者の反応が返された。
「な、北嶽様! いつの間にこちらへッ⁉」
そう言って上から覗き込む男の顔には、憶えがある。
白い戎衣に、小麦色の肌。
誠実そうな金の双眸──雲翔だ。
「雲翔……? なんで、こんなとこにいんだ?」
「李より伝言を受けました。至急、建設中の塔へ向かうようにと。じき、兵も到着いたします」
「李……塔…………」
「酷い傷だ。すぐに医官を呼びましょう。ところで、北嶽様」
雲翔は手早く傷を確認しながら、その問いを口にした。
「『あの娘』は、どこに……?」
それで、ようやく事態を把握した。
大丈夫、必ず助かると言っていた、黎珠の言葉を思い出す。
助かる、という──その、意味は。
「あ──────あああッ!」
「ほ、北嶽様ッ⁉」
叫び声を上げて起き上がると、雲翔が驚いた様子で上体を支える。
それに構うことなく立ち上がり、戸惑う雲翔を置き去りにして駆け出した。
仰いだ空には、太い一筋の黒煙が立ち上っている。
「糞が‼ あいつ──あいつ、最後の最後で嘘つきやがったッ! 『信じろ』って、今まで信じてやれなかったから、だから、おれは信じたのに!」
無様な怒号が口をついた。
罵らずには、いられなかった。
「莫迦野郎! 大莫迦野郎がッ‼ なんのためにおれが、こんなことしたと思ってんだ! なんのためにおれが、死にかけたと思ってんだよ‼」
当たり散らしながら、塔へ続く階段を駆け上がる。
なんのためかなんて、そんなもの決まってる。
まるごと、すべて──全部。
「全部、お前のためじゃないかッ‼」
叩き付けるように叫び、門を押し開く。
途端、熱風が顔面に吹き付けた。
一面の景色が、紅蓮の炎に包まれている。
眼前では、かつて眼にしたことがないほど大規模な火災に呑まれた──先ほどまで、確かにそこにいたはずの──塔が、崩れ落ちようとしていた。
「黎珠ッ‼」
助けようと足を向けたところで、後ろから誰かに羽交い締めにされた。
「なりません、北嶽様! あなたまで死んでしまう!」
あとを追ってきた雲翔だ。
その腕を払おうと必死でもがき、抵抗する。
諦めない。ここで自分が諦めれば、黎珠の死が確定してしまう。
「離せぇッ‼ まだ、まだ黎珠が中にいるんだ! あいつを助けないと! あいつは、この国の──ッ」
「堪えてください、北嶽様! この炎では、もう……」
語尾を濁した雲翔を、殺意すら込めた声音で否定した。
「ふざけんなッ!! まだ間に合う! おれは助けるんだ、絶対死なせたりしない! おれはまだ──あいつに、何も言ってねぇんだよ‼」
そう、まだ言っていない。
今度こそ、本気で頑張ろうと思ったのだ。やってみようと。
堯は、黎珠の国だ。黎珠のために、真剣に北嶽と向き合うと──やっと、やっとそう、思ったのに。
「光はおれじゃないだろ! 夜明けはおれじゃない! お前が──黎珠が、おれの『天黎』だ‼」
いつだって、黎珠はそうだった。
すべてを投げ出し、諦めていた自分を、決して見捨てなかった。
真っ暗な闇の中、夜明けの空を指差して、いつも手を引いて歩いてくれていたのは──黎珠だ。
「北嶽様……」
雲翔が、こちらを労るような声を漏らす。
それすら憎く、煩わしく、身体を捩ってひたすら抵抗した。
「どけえッ! 離せ! 離せ、雲翔ッ! 早くしねぇと、黎珠が──」
言かけたとき、音を立てて外壁が崩れた。
まるで砂の塔のように、ぼろりと形が欠けて、消え落ちてゆく。
「黎珠──────ッ‼」
絶望を孕む絶叫が、その場に響き渡った。




